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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. はじめに
2. 一般投資家向けの情報開示の充実(中間整理・第1項)
(1) 契約前書面における記載事項の拡充
(2) 運用期間中における提供情報の拡充
3. 対象不動産の売却価格等における公正性の確保(中間整理・第2項)
4. 行政による監督の充実(中間整理・第3項)
5. 業界団体との連携による自主ルール等の検討(中間整理・第4項)
6. 関連記事のご紹介
不動産クラウドファンディングの普及により、不動産特定共同事業(不特事業)への一般投資家の参画が急増しています。前回のニューズレター(※1)では、国土交通省が、こうした投資家層ないし投資環境の変化を踏まえ、「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての検討会」(あり方検討会)を設置し、制度の見直しを含めた検討を進めていることをご紹介しました。
その後、あり方検討会は、2025年6月3日(第2回)及び同年6月25日(第3回)の合計3回にわたり開催され、2025年8月1日には、当該検討会での議論を踏まえた「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての中間整理」(中間整理)がとりまとめられ、公表されています(※2)。また、同年8月22日には、一般社団法人不動産クラウドファンディング協会(RCA)及び一般社団法人不動産特定共同事業者協議会(FTKK)が、国土交通省の中間整理を踏まえ、「自主規制ルールの検討会」を開催することを公表しています(※3)。
中間整理で指摘のなされた事項は政省令や監督留意事項等の改正も視野に入れた内容となっており、不特事業を実施されている事業者においては、コンプライアンスの観点からも、現在の議論の状況や今後の動向を注視していく必要があります。本ニューズレターでは、現在の不特事業に係る規制・実務を踏まえ、中間整理の概要を整理するとともに、今後予定されている「自主規制ルールの検討会」のスケジュールなどについても簡単にご紹介したいと思います。
(※1)「不動産特定共同事業(不特事業)に関する法律相談(第8回)-第1回『一般投資家の参加拡大を踏ま えた不動産特定共同事業のあり方についての検討会』の開催について-」
(※2)国土交通省 報道発表資料(令和7年8月1日)
(※3)一般社団法人 不動産特定共同事業者協議会「自主規制ルールの検討会」開催のお知らせ
一般社団法人 不動産クラウドファンディング協会『自主規制ルール等の検討会』開催のお知らせ
不動産特定共同事業法(不特法)上、不動産特定共同事業者(不特事業者)は、不動産特定共同事業契約(不特契約)が成立するまでの間に、申込者に対し、契約内容や履行に関する一定の事項について説明を行うことが義務付けられています(不特法第24条、不特法施行規則第43条)。中間整理では、一般投資家を含む投資家が商品の内容やリスクをより理解した上で投資判断を行えるようにする観点から、説明事項について、以下の各事項に関し、赤字箇所のような追加を行うことの提案がなされています。
利回りについては、現行法上、不特事業者は、不特契約の締結等の勧誘に際し、その内容が予想に基づくものである旨が明示されている場合を除き、一定の額又はこれを超える額の金銭供与が行われる旨の表示等をする行為が禁じられています(不特法第21条第4項、不特法施行規則第38条第6号)。国土交通省の監督留意事項第7-4(1)②においても、「合理的な根拠を示さずに予想利回りを表示する行為」が、不特法施行規則第38条第5号及び第6号により禁止されるものとされています。
また、電子取引業務ガイドラインにおいては、事業計画の内容に係る審査項目として、契約成立前書面の記載内容について、「予想利回りが表示される場合、当該予想利回りについての合理的な算定根拠が記載されているか」という観点から適切な審査を行う必要があるとされています(同ガイドライン7(4)②イA)a)。
今回の中間整理では、契約成立前書面の説明事項として、「商品の募集に際し、想定利回りを広告する場合には、その設定根拠(算定式や配当額の根拠等)を説明すること。」を追加することが提案されています。 この点については、RCA・FTKK共催「自主規制ルールの検討会」の第1回の議題として、「利回りの算定根拠の表示及び用語の統一」を取り上げることが検討されており、こちらの動向にも注視していく必要があります。
対象不動産の取得価格については、現行法上、現物出資型以外の不特事業を行う場合について、「対象不動産の価格及び当該価格の算定方法(当該算定について算式がある場合においては当該算式を含む。)」が説明事項とされ(不特法施行規則第43条第1項第18号)、少なくとも「不動産鑑定士による鑑定評価の有無並びに当該鑑定評価を受けた場合には鑑定評価の結果及び方法の概要(当該鑑定評価の年月日を含む。)並びに鑑定評価を行った者の氏名」を説明するものとされています(同施行規則第43条第2項第2号)。
また、対象不動産の価格の算定方法については、国土交通省の監督留意事項第7-6(1)⑥において、対象不動産の価格と鑑定評価額(小規模な不動産の改修・建替事業等、事業採算性等の観点から不動産鑑定士による鑑定評価を受けることが困難な場合には、公示価格又は路線価等)との差異が合理的な範囲内であるかを説明することが望ましいこととされています。
この点について、今回の中間整理では、契約成立前書面の説明事項として、「対象不動産の取得価格が妥当であることの根拠を説明すること。また、不動産鑑定評価を取得していない場合には、その理由を説明すること。」を追加することが提案されています。
利害関係人取引については、現行法上、利害関係人との間の不特事業に係る重要な取引の有無並びに当該取引がある場合には当該利害関係人と不特事業者との関係、当該利害関係人の商号若しくは名称又は氏名、住所又は所在地、取引の額及び取引の内容が説明事項とされています(不特法施行規則第43条第1項第13号。なお、「利害関係人」の範囲については、国土交通省の監督留意事項第7-6(1)②において、同第3-2(2)⑫に掲げる者を含むこととされており、実務的には、当該箇所に列挙された者を標準に検討することになるものと考えられます。)。また、利害関係人との取引に係る手続は、業務方法書に記載すべき事項として掲げられており(不特法施行規則別記様式2記載要領5項参照)、実務上は、利害関係人取引について、業務方法書において、コンプライアンス委員会の承認その他の一定の手続が要求されている場合も多いものと考えられます。
今回の中間整理では、利害関係人取引について、契約成立前書面の説明事項として、単に取引の内容等を説明するに留まらず、「利害関係人との間で取引(売買・賃貸借)がある場合には、取引価格が妥当であることを、不動産鑑定評価額、地価公示価格や周辺の不動産取引価格情報等の客観性ある価格を示しつつ説明すること。その際、不動産鑑定評価を取得していない場合は、過去の非利害関係人取引の価格も示しつつ説明すること。」を追加することが提案されており、この点は実務的にも影響が大きいものと考えられます。
現行法上、不特事業の業務を行う上での余裕金(業務上の余裕金)や対象不動産変更型契約に基づき出資された財産のうち不特事業の業務に係る金銭以外の金銭(業務外金銭)の運用方法についての定めはあり(不特法施行規則第11条第2項第14号・第16号)、契約成立前書面の説明事項となっていますが(同規則第43条第1項第36号・第38号)、出資金の使途に関する具体的な定めはありません。
この点に関し、中間整理においては、契約成立前書面の説明事項として、「出資金の使途を説明すること。」を追加することが提案されています。
なお、この点については、第2回のあり方検討会の中間整理案では、「※利害関係人から対象不動産を取得する場合には、当該利害関係人による資金の使途を含むことについても要検討」との記載がありましたが、中間整理においては当該文言が削除されています。
現行法上、対象不動産が宅地の造成又は建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造その他の宅地建物取引業法施行規則第16条に規定する事項が説明事項とされていますが(不特法施行規則第43条第1項第17号ホ)、開発等の資金計画やスケジュールに関しては特段の定めはありません。
この点に関し、中間整理では、契約成立前書面の説明事項として、「開発等を伴う商品の場合は、その内容(建築確認等の取得有無(有の場合はその概要)、資金計画、スケジュール)を説明すること。」を追加することが提案されています。
不特法上、運用期間中における不特事業者には、財産管理報告書の交付や事業参加者の求めに応じた説明が義務づけられています(不特法第28条第1項、第2項)。財産管理報告書の記載事項については、不特法施行規則第50条各号で法定されており、運用期間中に行った不動産取引の内容や取引により生じた収支、財産の状況等を記載することとされています。
今回の中間整理では、投資家が商品の運用状況を適時・適切に把握できるようにする観点から、財産管理報告書における説明事項について、「出資金の使途の実績を説明すること。」や「開発等を伴う商品の場合は、当該開発等の進捗状況を説明すること。」を追加することが提案されています。
現行法上、対象不動産の売却価格等を不動産鑑定評価額に即したものとすることについて、特段の規制はありません。
もっとも、不特契約に係る約款の内容の基準としては、「対象不動産の売却等を予定する場合にあっては、当該対象不動産の売却等の手続及び当該対象不動産の売却等の価格が当該不動産の鑑定評価額又は近傍同種の不動産の取引価格等に照らし合理的なものであることを担保するために必要かつ適切な措置に関する定めがある」こととされ(不特法施行規則第11条第2項第12号ロ)、この「必要かつ適切な措置」については、国土交通省の監督留意事項第3-2(2)④⑤において以下のような指摘がなされています。実務上は、かかる指摘を踏まえ、約款において売却等の価格が客観的な資料に示される価格と比して合理的な価格であることを説明する趣旨の規定が設けられています(例えば、対象不動産変更型・第1号事業(匿名組合契約型)のモデル約款第5条第2項参照)。
④ 規則第11条第2項第12号ロ及び第15号イ(5)に規定する「必要かつ適切な措置」とは、例えば、当該不動産の鑑定評価額や近傍同種の不動産の取引価格等を示す客観的な資料を示すことにより、当該売却等又は追加取得の価格がこれらの資料により示した価格と比して、合理的な価格となっていることを事業参加者に説明する等の措置をいうこと。
⑤ ④に掲げる「合理的な価格」とは、例えば、客観的な資料により示した価格を、概ね1割以上下回るような売却等の価格や、概ね1割以上上回る追加取得の価格であって、合理的な理由がないものは「合理的な価格」に該当しないこと。
中間整理では、商品の償還時に対象不動産を利害関係人に売却する場合等について、低価格での売却による不当廉売や、高価格での売却による損失補填を防止する観点から、売却価格の適正性を確保することが重要であるとして、商品の償還時に対象不動産を利害関係人に売却する場合等には、原則として、証券化対象不動産としての不動産鑑定評価額に即した価格で売却を行うことを求めることが提案されています。
中間整理では、行政による監督をより効率的・効果的に行うことができるよう、以下の①~③の充実を図ることが提案されています。
① 「不動産証券化の実態調査」の充実・活用(不特法第40条に基づく調査としての実施等)
② 都道府県が監督する不特事業に関する国も参画した立入検査や技術的助言の積極的な実施
③ 業界団体の自主規制との連携
中間整理では、制度面の充実に加え、事業者からも、商品の内容に応じた適切な情報提供に取り組むことが重要であることから、不特事業の業界団体において、投資家への情報提供等に関する自主ルール・規制の導入を検討することが提案されています。
一般社団法人不動産クラウドファンディング協会(RCA)及び一般社団法人不動産特定共同事業者協議会(FTKK)においては、かかる中間整理を踏まえ、以下のような日時・議題で「自主規制ルールの検討会」を共催することを検討しており、今後の動向にも注視していく必要があります。
① 開催日時:
・第1回:2025年9月30日 12:00~13:30
・第2回:2025年11月予定
・第3回:2026年2月予定
② 議題:
・第1回:利回りの算定根拠の表示及び用語の統一
・第2回:(仮)事業計画・資金計画に関する表示
・第3回:(仮)事業スキーム・特殊アセット等にかかる表示
③ 委員:委員名簿
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以 上