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2024.06.12

不動産特定共同事業(不特事業)に関する法律相談-不特事業者の不祥事対応について-

<目次>
1. ご相談事項
(1) 不特事業者の法令違反
(2) 行政処分の発動に関する基本的な流れ
2. 考えられる対応
(1) 初動対応
(2) 当局への報告
(3) 行政処分の発動後の対応等
3. 関連記事

 本ニューズレターは、掲載時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことにご留意ください。また、本ニューズレター中意見にわたる部分は、執筆担当者個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

1. ご相談事項

<ご相談事項>
 当社は、当局の許可を受けて不動産特定共同事業を行っておりますが、今般、当社が行っている業務の一部について法令違反があるのではないかとの指摘を受けました。
 仮に何らかの法令違反があった場合、当社は不動産特定共同事業を続けることができなくなってしまうのでしょうか。当社として採るべき対応を教えてください。

(1) 不特事業者の法令違反

 不動産特定共同事業者(不特事業者)は、広告規制(不特法第18条)や勧誘規制(不特法第20条、第21条)、約款規制(不特法第23条)、契約成立前書面の交付・説明(不特法第24条)、財産の分別管理(不特法第27条)などの各種の不動産特定共同事業法(不特法)に基づく規制その他関連法令の定めに従って業務を行う必要があります。これらの規制に違反した場合、監督当局による行政処分の対象となり得るほか、場合によっては刑事罰の対象となる場合もあります(不特法第77条~第87条)。
 監督当局が行う行政処分としては、①指示(不特法第34条、第51条、第61条第5項)、②業務停止命令(不特法第35条、第52条、第61条第6項)、③許可又は登録の取消し(不特法第36条、第53条)、④業務管理者の解任命令(不特法第37条、第54条)、⑤是正措置命令(不特法第58条第7項、第61条第3項)、⑥業務廃止命令(不特法第61条第8項)があります。

(2) 行政処分の発動に関する基本的な流れ

 行政処分の発動に関する基本的な流れについては、国土交通省の公表している「不動産特定共同事業の監督に当たっての留意事項について」(令和6年4月11日改正)(監督留意事項)第8-1において以下のとおり例示されています。
 具体的には、まず、当局による立入検査や、ヒアリングなどを通じて、リスク管理態勢、法令遵守態勢、業務運営態勢等に問題があると認められる場合においては、当局より、不特法第40条第1項及び第58条第9項に基づき、当該事項についての事実認識、発生原因分析、改善・対応策その他必要と認められる事項について、報告を求められることになります。また、当局において更に精査する必要があると認められる場合には、不特法第40条第1項及び第58条第9項に基づき、追加の報告を求められることになります。
 そして、以上の報告を検証した結果として、下記iないしiiの対応を行うものとされています。

i  報告された改善・対応策のフォローアップ

① 公益又は事業参加者の利益の保護の観点から重大な問題が発生しておらず、かつ、不動産特定共同事業者等の自主的な改善への取組みを求めることが可能な場合においては、任意のヒアリング等を通じて上記において報告された改善・対応策のフォローアップを行う。
② 必要があれば、不特法第40条第1項及び第58条第9項に基づき、定期的な報告を求め、フォローアップを行う。

ii  行政処分の発動

 公益又は事業参加者の利益の保護の観点から重大な問題が認められる場合等においては、以下①から③に掲げる要素を勘案するとともに、他に考慮すべき要素がないかどうかを吟味した上で、

  • 改善に向けた取組みを不動産特定共同事業者等の自主性に委ねることが適当かどうか
  • 改善に相当の取組みを要し、一定期間業務改善に専念・集中させる必要があるか
  • 業務を継続させることが適当かどうか

等の点について検討を行い、最終的な行政処分の内容を決定する。

① 当該行為の重大性・悪質性

イ 公益侵害の程度
 不動産特定共同事業者等が、不動産市場に対する信頼性を大きく損うなど公益を著しく侵害していないか。

ロ 被害の程度
 広範囲にわたって多数の事業参加者が被害を受けたかどうか。個々の事業参加者が受けた被害がどの程度深刻か。

ハ 行為自体の悪質性
 例えば、事業参加者から多数の苦情を受けているのにもかかわらず、引き続き同様の商品を販売し続けるなど、不動産特定共同事業者等の行為が悪質であったか。

ニ 当該行為が行われた期間や反復性
 当該行為が長期間にわたって行われたのか、短期間のものだったのか。反復・継続して行われたものか、一回限りのものか。また、過去に同様の違反行為が行われたことがあるか。

ホ 故意性の有無
 当該行為が違法・不適切であることを認識しつつ故意に行われたのか、過失によるものか。

ヘ 組織性の有無
 当該行為が現場の個人の判断で行われたものか、あるいは管理者も関わっていたものか。更に、経営陣の関与があったものか。

ト 隠蔽の有無
 問題を認識した後に隠蔽行為はなかったか。隠蔽がある場合には、それが組織的なものであったか。

チ 反社会的勢力との関与の有無
 反社会的勢力との関与はなかったか。関与がある場合には、どの程度か。

② 当該行為の背景となった経営管理態勢及び業務運営態勢の適切性

イ 代表取締役や取締役会の法令遵守に関する認識や取組みは十分か。

ロ 内部監査部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。

ハ コンプライアンス部門やリスク管理部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。

二 業務担当者の法令遵守に関する認識は十分か、また、社内教育が十分になされているか。

③ 軽減事由

以上①及び②の他に、行政による対応に先行して、不動産特定共同事業者等が自主的に事業参加者の利益の保護のために所要の対応に取り組んでいる等、といった軽減事由があるか。

2. 考えられる対応

(1) 初動対応

 ご相談事項については、上記のような法令及び監督留意事項の指摘を踏まえ、対応を検討することになります。
 すなわち、まず、前提として、法令違反があるとして指摘を受けた事項について、実際に法令違反があるか調査・検証を行う必要があります。法令違反については、例えば、法定の書面の交付がなされていない、書面中に法定の記載事項が記載されていないなど法令違反の存在が容易に判断できる場合もあれば、実際に締結した不動産特定共同事業契約書と許可等に係る約款の文言との齟齬が法令上許容される範囲なのか否か(※1)など、法令違反と評価し得るかの判断に法的な解釈・検討を要する場合もあります。そのため、まずは当該事案においてどのような法令違反があるのか(ないのか)について、前提となる事実関係を含め、調査・検討を行う必要があります。
 そのうえで、仮に法令違反があると判断され得る場合には、迅速に社内の不祥事対応を行う部署(コンプライアンス部門やリスク管理部門等)に情報を集約するとともに、事実関係を分析し、事案によっては取締役会等への報告などを含め、組織的に対応を行っていく必要があるものと考えられます。

(※1)許可等に係る約款と実際に締結される不動産特定共同事業契約(不特契約)の文言の齟齬がどの程度まで許容されるかについては、「不動産特定共同事業(不特事業)に関する法律相談-約款変更の可否・変更認可の要否について-」(2024/02/21 ニューズレター)参照

(2) 当局への報告

 上記調査・検証の結果、仮に法令違反があると判断される場合には、不特法上、不祥事件等届出書の届出義務(※2)は法定されていないものの、上記1(2)ii①トのとおり不利益処分の発動に当たって「隠蔽の有無」を勘案するとされていることや上記1(2)ii③において「自主的に事業参加者の利益の保護のために所要の対応に取り組んでいる等」が軽減事由として指摘されていることも踏まえ、当局に対し報告・説明を行うことを検討することになるものと考えられます。報告・説明に当たっては、上記の監督留意事項における指摘を踏まえ、法令違反に関する貴社の事実認識や発生原因を社内的に調査・分析するとともに、当該事案の事実関係や発生原因、改善・対応策を具体的に報告・説明することになるものと考えられます。
 改善・対応策としては様々な対応が考えられますが、例えば、再発防止のための社内体制の整備や関連する社内規程の整備、社内でのコンプライアンス研修の実施、今後発生する法的な問題に関する社内外の窓口の設置など、当該事案の発生原因を踏まえた再発防止のための適切な対応策を検討する必要があります。
 実務的には、上記の報告・説明を踏まえ、当局による立入検査やヒアリングなどが実施されたり、調査対象となる書類の提供を求められるなどし、このような当局による調査の過程を通じて、当初問題視されていたものとは別の点に関する法令違反が新たに発覚し、対応を求められるなどということもあります。

(※2)銀行法第53条第1項第8号、銀行法施行規則第35条第1項第38号、保険業法第127条第1項第8号、保険業法施行規則第85条第1項第27号等

(3) 行政処分の発動後の対応等

 上記(1)(2)のような貴社の対応を踏まえ、当局において行政処分の発動の有無・内容が決定されることになります。
 この点、仮に行政処分が発動されるとしても、指示処分(不特法第34条、第51条、第61条第5項)であれば、直ちに貴社の業務を続けることができなくなるというものではありません。他方で、業務停止命令(不特法第35条、第52条、第61条第6項)や許可又は登録の取消し(不特法第36条、第53条)等の処分である場合には、貴社が業務を続けるに当たって重大な影響を与えることになりますので、別途対応を検討することになります。
 例えば、許可又は登録が取り消された場合については、当該許可等に係る不特事業者等であった者は、当該不特事業者等が締結した不特契約に基づく業務を結了する目的の範囲内においては、なお不特事業者等とみなされることになりますので(不特法第65条)、これを前提とした対応を検討することになります(監督留意事項第7-10参照)。

3. 関連記事

以 上

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