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事務所概要・アクセス
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<目次>
1. ESG条項とは何か
2. 一般的な取引契約におけるESG条項
(1) 一般条項
(2) ネットゼロ条項
3. M&AにおけるESG条項
(1) 誓約条項・前提条件
(2) 表明保証条項
(3) コベナンツ条項
4. 留意点
(1) 一般的留意事項
(2) 競争法上の留意点
昨今、企業のESG(※)に対する取組みが求められる場面が多くなってきています。
コーポレートガバナンスコード(以下「CGコード」といます。)第2章の原則2-3は、「社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題」への適切な対応を要求し、補充原則2-3①は、「取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処する」ことを要求しています。
企業がESGへの対応を実現するための手段としては、取引先企業との契約において、取引先企業にESG遵守を求める旨の契約条項を盛り込むことが考えられます。
そこで、本稿では、取引先企業に対しESG遵守を求める契約条項(以下「ESG条項」といいます。)の概要とその留意点について、一般的な取引契約における条項とM&Aにおける条項に焦点をあててご説明します。
※ ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動のことをいいます。
なお、国内のESG関連規制(環境規制)については、以下を参照してください。
ESG条項とは、取引先企業との契約において、取引先企業に対しESG基準・行動規範などを遵守する義務を負わせる条項のことをいいます。
具体的には、①行動規範・調達基準の遵守を義務付ける条項、②誓約条項、③表明保証条項、④情報提供条項、⑤監査条項、⑥調査・監査への協力を義務付ける条項、⑦改善・是正を義務付ける条項、⑥補償条項、⑦解除条項、⑧ステークホルダーからの苦情の適切な処理や是正・救済を義務付ける条項、⑨関連する二次以下の取引先企業(サプライヤー)などの契約においてもESG条項の導入を義務付ける条項などの条項を置くことが考えられます。
ESG条項が注目され始めて日が浅いため、取引先にESG基準・行動規範などを遵守する義務を負わせるためには、具体的にどのような条項を設ければよいか社内で固まっていないという企業が多い印象があります。そのような場合にはモデル条項を参考にすることが有用です。
例えば、日本弁護士連合会「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」(2015年1月)61頁以下では、①目的、②CSR行動規範の遵守、③人権デュー・ディリジェンスの実施、④発注企業の情報提供義務、⑤取引先企業(サプライヤー)の報告義務、⑥取引先企業の通報義務、⑦発注企業の調査権・監査権、⑧違反に対する是正措置要求条項、⑨解除権などのモデル条項が紹介されています。
また、日本弁護士連合会「ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)~企業・投資家・金融機関の協働・対話に向けて~」(2018年8月23日)21頁以下では、金融機関の融資の文脈ではありますが、①表明保証条項(表明確約)、②取引禁止宣言条項(前提条件)、③関連先への遵守条項、④報告・協議条項、⑤是正措置の要求条項などのモデル条項が紹介されています。
他にも、米国法曹協会(ABA)が公表しているサプライチェーンにおける人権保護を目的としたモデル条項MCCs2.0(※)では、物やサービスの売買契約にMCCs2.0の条項を組み込むことを想定し、①人権デュー・ディリジェンスの実施義務に関する条項、②取引先企業(サプライヤー)が遵守すべき事項をサプライチェーンの下流にも遵守させるための条項、③買主が遵守すべき事項に関する条項といったモデル条項が紹介されています。
※ Model Contract Clauses to Protect Workers in International Supply Chains「Balancing Buyer &Supplier Responsibilities」
昨今、ESG開示の一環として、温室効果ガスの排出量の開示が進んでいます。
CGコード補充原則3-1③では、「上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべき」であり、「特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益などに与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき」とされており、2022年には、JPX日経インデックス400構成銘柄(2022年10月末時点)のうち、48%に相当する191社がスコープ3(※1)の温室効果ガス排出量の開示を行っています(※2)。
※1 スコープ3とは、ある企業から見た時のサプライチェーンの「上流」と「下流」から排出される温室効果ガス排出量のことをいいます。
※2 株式会社日本取引所グループ「TCFD提言に沿った情報開示の実態調査(2022年度)」(2023年1月)
これらの動きに伴い、サプライチェーンに温室効果ガスの排出量の削減を求める条項の必要性が認識されてきています。
例えば、The Chancery Lane Project(※3)では、サプライチェーンに関する条項として、①温室効果ガスの排出量削減義務を定める条項、②温室効果ガス排出量の削減を実行するための計画の策定義務を定める条項、③温室効果ガス排出量の報告義務を定める条項、④サプライチェーンに対して同等の義務を課すことを求める条項、⑤商品・サービスの品質の維持義務を定める条項、⑥違反時のサンクションを定める条項、⑦目的達成時のインセンティブ付与に関する条項が紹介されています。
他にも、国際的なローンマーケットの業界団体であるLoan Market AssociationなどからESG条項のモデル条項が公表されています(※4)。
※3 The Chancery Lane Project「Clauses」(2024年7月17日アクセス)
※4 Loan Market Association「Best Practice Guide for Term Sheet Completeness」(2021年12月)
もっとも、上記(1)および(2)で言及したモデル条項はあくまでもモデルであり、また、各条項には検討すべき課題があるため、上記のようなモデル条項をたたき台としながらも、各企業の実状に応じて、どのような条項が望ましいのか、関係部署や取引先企業(サプライヤー)間で十分な議論を行い、弁護士などの専門家に相談しながら加筆・修正を行っていくことが重要です。
なお、ESG開示については以下を参照して下さい。
また、温室ガスなどの規制については、以下を参照してください。
企業がM&Aを実行する際、ESGを実現するために、ESGデュー・ディリジェンスの結果検出された問題点またはESGデュー・ディリジェンスで十分な情報が得られなかった潜在的なリスクについては、M&A契約において対応策を設けることが一般的です。
ESGデュー・ディリジェンスの結果、ESGに関する具体的な問題点が検出された場合、クロージングまでに売主にかかる問題点を解消することをクロージング前の売主の誓約事項として定める場合があります。
M&A契約締結時には顕在化していないリスクについては、表明保証条項を設け、リスクを分担させることが一般的であるため、ESGに関するリスクについても表明保証条項を設けることが考えられます。
M&A実行後に買収者が対象会社のコントロール権を有さない場合M&Aの実行後にESGに関して遵守すべき事項を規定することがあります。
具体的には、ESG要素に係る情報を株主に提供する義務、ESG管理体制の構築義務、環境保護や人権尊重に関する義務などを規定する例がみられます。
なお、ESGデュー・ディリジェンスについては、猿倉健司・加藤浩太「EUにおけるESG関連規制の施行(2023~2024年)」(牛島総合法律事務所 ニューズレター、2024年5月24日)も参照して下さい。
ESG条項で定められた義務に契約の相手方が違反した場合の対応として、損害賠償請求や解除に関する条項を設けることが想定されますが、損害賠償請求については損害額の立証が困難であるという問題があるため、技術的工夫が必要です。
また、解除についても、取引先企業のもとで人権問題が生じた場合、直ちに解除をして取引を停止することは望ましいものとされていないため(※)、是正措置要求条項を定めることなどが重要です。
※ ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(令和4年9月)22頁以下
発注企業が、その契約上の立場を利用して、取引先企業(サプライヤー)に対し一方的に過大な負担を負わせる形でESG条項の遵守を要求した場合、下請法が禁止する「買いたたき」(下請法4条1項5号)や「不当な経済上の利益の提供要請」(同法4条2項3号)に該当する危険性があり、また、独占禁止法が禁止する「優越的地位の濫用」(独占禁止法19条、2条9項5号)にも抵触する危険性があるため、実際にESG条項を導入する際には注意が必要です。
また、SDGsへの取り組みと独占禁止法との関係については、以下を参照してください。
以上