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<目次>
1.はじめに
2.改正の経緯
3.本改正法の概要
(1) カスハラの定義
(2) 企業が負う義務
4.今後の動向

1. はじめに

2025年6月4日、カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」といいます。)の防止策を企業に義務づけること等を内容とする労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下、「労働施策総合推進法」といいます。)の改正法が可決・成立されました(以下、「本改正法」といいます。)(※1、2)。
近時は、カスハラに関する規制・対策の動きが、行政・企業のいずれにおいても非常に活発になっています。最近各種メディアで大きく報道された某テレビ局の出演タレントと女性との間で生じた事案に関する調査報告書(※3)でも、取引先から社員に対する人権侵害でありカスハラとして位置づけられるとの報告結果が示されており、世間の注目がより一層高まりつつあります。
本稿では、本改正法により企業が負うことになる義務を中心に、その内容を解説いたします。

※1 「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(官報、2025年6月11日)
※2 日本経済新聞「カスハラ防止が企業の義務に 改正法成立、女性の管理職比率公表も」(2025年6月4日)
※3 フジテレビ問題第三者委員会「調査報告書(公表版)」(2025年3月31日)

2. 改正の経緯

労働施策総合推進法によるカスハラ対策の強化に向けたこれまでの主な経緯は以下のとおりです。

日付内容
2024年5月13日● 自民党のカスハラ対策プロジェクトチームが提言案(※4)を取りまとめ、これを踏まえた法改正の調整が行われることが報じられる(※5)。
2024年6月21日● 「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する」との内容が盛り込まれた基本方針(※6)が閣議決定される。
2024年8月8日● 厚労省による検討を取りまとめた報告書(※7)にて、カスハラ対策については「労働者保護の観点から事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当」とされ、従前の4種類のハラスメント(セクハラ、パワハラ、マタハラ(パタハラ)、ケアハラ)に倣い、カスハラ対策に係る措置義務を規定することが考えられる旨の方向性が示される。
2024年12月26日● 上記報告書を踏まえた建議(※8)にて、指針等において示すべき事項等が示される。
2025年3月11日● カスハラ防止の義務化を含んだ労働施策総合推進法改正案が閣議決定され、国会に提出される(※9)。
2025年5月20日● 衆院審議にて法案を一部修正(「実効性を確保するための措置」を追加)(※2、※10(後記3(2)ご参照))
2025年6月4日● 参院本会議にて法案が可決、成立(※2)
2025年6月11日● 官報にて改正法が掲載発表(※1)

※4 自民党カスハラ対策プロジェクトチーム「カスタマーハラスメントの総合的な対策強化に向けた提言」(2024年5月14日)
※5 日本経済新聞「「カスハラ対策」企業に義務付け 厚労省、法改正調整」(2024年5月13日)
※6 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2024について」(2024年6月21日)
※7 厚生労働省 雇用環境・均等局雇用機会均等課「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書」(2024年8月8日)
※8 労働政策審議会 雇用環境・均等分科会(第79回)資料「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(案)」(2024年12月26日)
※9 産経新聞「全企業にカスハラ、就活セクハラの防止を義務化 国が指針 法改正案を閣議決定」(2025年3月11日)
※10 厚生労働省「修正案新旧対照条文」(2025年6月6日最終閲覧)

3.改正法の概要

(1)カスハラの定義

カスハラの定義については、これまでにも厚生労働省のマニュアル(※11)や各自治体のカスハラ防止条例において示されてきましたが、法律に具体的な定義はなされておりませんでした。

※11 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月25日)

本改正法では、以下のとおり、「顧客等言動」としてカスハラの定義が規定されています。

第33条(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
 第1項:「・・・職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第5項において「顧客等」という。)の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの・・・」

前記厚生労働省のマニュアルの定義と比べると、要求内容の妥当性及びその要求を実現するための手段態様が社会通念上不相当かといった点は規定されていないものの、前記厚生労働省の建議(※8の6頁)等では、「「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の判断については、「言動の内容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断することが適当であり、一方のみでも社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得ることに留意が必要である」と示されており、カスハラ該当性判断の過程に違いはないように思われます。

また、上記のとおり、カスハラの行為主体として「取引の相手方」や「事業に関係を有する者」があえて明記されており、B to Bカスハラ(取引先からのカスハラ)をも意識した規定になっていることがわかります。

(2)企業が負う義務

本改正法は、以下のとおり、雇用管理措置義務(現行法上は、セクハラ(男女雇用機会均等法第11条)、パワハラ(労働施策総合推進法第30条の2)、マタハラ(パタハラ)・ケアハラ(男女雇用機会均等法第11条の3、育児・介護休業法第25条)が規定されている)の対象に、カスハラを加えることが主な内容となっています。

第33条(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
 第1項:「事業者は、・・・(筆者注:前記「顧客等言動」)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
 第2項:「事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
 第3項:「事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。」
 第4項:「厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。」

上記第33条第4項のとおり、カスハラに関して事業者が講じなければならない雇用管理上必要な措置の具体的内容は、厚生労働大臣の定める指針に規定されることとなっています。指針は未だ公表されておりませんが、これまで雇用管理措置義務の対象となっていた各種ハラスメントの指針では共通して、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応が内容となっていることから(※12)、カスハラの雇用管理上の措置義務についてもこれらの内容が規定されることが予想されます。

※12 厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2006年10月11日)、厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2020年1月15日)、厚生労働省「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2020年6月1日)

前記厚生労働省の建議(※8の7頁)においても、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」、「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」、「カスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスタマーハラスメントの発生を契機として、カスタマーハラスメントの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのものの改善を図ることも含む。)」、「これらの措置と併せて講ずべき措置」が講ずべき措置の具体的内容として掲げられています。
これらの措置義務を遵守していない場合には、助言、指導及び勧告並びに公表される場合があります(現労働施策総合推進法第33条(改正法案では第42条))。

また、以下のとおり第34条では努力義務が定められており、自社の従業員がカスハラの加害者にならないよう、十分な教育を行うこと等が求められています。

第34条(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務)
 第2項:「事業主は、顧客等言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる・・・措置に協力するように努めなければならない。」
 第3項:「事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。」

以上のとおり、本改正法による改正により、企業にはカスハラに関する体制整備が求められますが、これらの体制整備には相当の時間を要することから、企業においては、具体的な指針が示される前である今の段階から、前記厚労省のガイドラインに記載されている内容や他企業の取組例等を参考に、これらの措置を実施できる体制等の構築とその検証を進めておくことが望ましいといえます。

4. 今後の動向

以上の改正は、公布の日から起算して1年6ヶ月を超えない範囲で施行されることとされており(附則第1条)、2026年中の施行が目指されています。
また、同附則第8条の2では、政府は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス保護法)におけるフリーランス(「特定受託事業者」)がカスハラを受けることのないようにするための施策について検討を加え、必要があると認めるときは、所要の措置を講ずることとされています。

企業においては、弁護士等の専門家の助言を得て、これらの法的責任やリスク、最新の規制状況を十分に理解した上で、早急に対策に乗り出すことが重要です。

なお、カスハラに関する国・自治体や企業のこれまでの動向、企業の負いうるリスク等については、本稿のほか、以下をご参照ください。

また、カスハラが企業間でも問題となることについては、上記のほか、下記当職の担当記事、取材コメント等もご確認ください。

以上