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ニューズレター
Newsletter

牛島総合法律事務所 Client Alert 2025年11月12日号
<目次>

  1. コーポレート/会社法:
    コーポレート/会社法:スチュワードシップ・コードの第三次改訂
  2. M&A:
    M&A:MBO等に関する東証上場規程「企業行動規範」の改正施行(2025年7月22日)
  3. 訴訟/仲裁:
    訴訟/仲裁:最高裁、「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」を公表
  4. ファイナンス:
    ファイナンス:RCA・FTKK共催|不動産特定共同事業に関する「自主規制ルール検討会」(第1回)の開催及び議事概要・(暫定版)チェックリストの公表について
  5. 不動産:
    不動産:「みんなで大家さん」の営業者等に対する大阪府・東京都の行政指導
  6. 事業継承/株主権:
    事業継承/株主権:中小企業庁、「中小企業の親族内承継に関する検討会 中間とりまとめ(案)」を提示
  7. 危機管理/不祥事対応:
    危機管理/不祥事対応:金融審議会(市場制度WG)におけるインサイダー取引規制の強化等に関する議論の
  8. 独占禁止法/下請法:
    独占禁止法/下請法:オートバイの販売等を行う会社に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について
  9. 環境法:
    環境法:廃棄物処理法の改正動向
  10. 労働法:
    労働法:カスハラ防止措置及び就活セクハラ防止措置に係る指針の骨子案の概要
  11. 税務:
    税務:非上場株式の相続税評価について財産評価基本通達第6項の適用が肯定され、国側が逆転勝訴した事例(東京高裁令和7年6月19日判決)
  12. 事業再生/倒産:
    事業再生/倒産:「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を踏まえた事業者支援の徹底等について
  13. IT/個人情報/知的財産:
    IT/個人情報/知的財産:ランサムウェア攻撃への予防と発生時対応
  14. 国際業務:
    国際業務:在留資格「経営・管理」の許可基準の厳格化(2025年10月16日施行)

1. コーポレート/会社法:スチュワードシップ・コードの第三次改訂

パートナー 石田 哲也
アソシエイト 寺井 昂輝

金融庁は、2025年6月26日、「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~」(以下「スチュワードシップ・コード」といいます。)の第三次改訂版を公表しました(以下「本改訂」といいます。)。スチュワードシップ・コードは2014年2月に策定されて以来、2度の改訂(2017年5月及び2020年3月)がなされており、本改訂が3度目の改訂となります。
本改訂は、大量保有報告制度における「共同保有者」の範囲の明確化を含む金融商品取引法等の改正も踏まえつつ、「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」(2024年6月7日公表)において提言のあった、建設的な目的を持った企業との対話に資する協働エンゲージメントの促進(以下の(1))や、実質株主の透明性向上(以下の(2))、に向けた見直しを行ったものです。以下、本改訂の概要をご説明します。

(1) 協働エンゲージメントの促進(本改訂後の指針4-6)

本改訂後の指針4-6では、機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たり、他の機関投資家と協働して対話を行うこと(協働エンゲージメント)「が有益な場合もあり得る」との規定が、「も重要な選択肢である」という文言に置き換えられ、協働エンゲージメントのさらなる促進が図られました。なお、協働エンゲージメントの促進については、金融商品取引法等の改正によっても手当てがなされております。すなわち、現行法制度上、共同して株主としての議決権行使等を合意したものについては例外なく共同保有者に該当するとされており、機関投資家による協働エンゲージメントに萎縮効果(株券等保有割合の合算が必要となり、その結果、大量保有報告制度の適用対象(5%超)となること等)をもたらしているという指摘がありました。そのため、金融商品取引法等の改正により「協働エンゲージメント特例」(一定の要件(※1)を満たした場合には、共同保有者に該当しない)が設けられました(金融商品取引法27条の23第5項等。2026年5月1日施行)。

(※1)上記一定の要件の説明については、金融庁が2025年8月26日に公表した「大量保有報告制度における『重要提案行為等』・『共同保有者』に関する法令・Q&A等の整理~機関投資家と投資先企業の建設的な対話に向けて~」をご確認ください。

(2) 実質株主の透明性向上(本改訂後の指針4-2)

日本においては、大量保有報告制度の適用対象(5%超)となる場合を除き、企業が実質株主を把握するための制度が存在しません。しかし、企業と投資家の対話が進む中、実質株主を把握したいとのニーズが高まっているとの指摘がありました。本改訂では、実質株主の透明性のさらなる向上を目指すべく、従前脚注で記載されていた内容が指針に格上げ等され、本改訂後の指針4-2では、機関投資家が投資先企業との間で建設的に対話を行うために、投資先企業からの求めに応じて、保有する投資先企業の株式数の説明をすべきとし、また、投資先企業から求めがあった場合の対応方針を事前に公表すべきと規定されました。
なお、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第3回会議(2025年6月25日開催)(※2)では、企業が株主とのエンゲージメントを行っていくため、企業が実質株主を確認する仕組みを会社法に新設することが審議されております。

(※2)法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第3回会議 部会資料3「株主総会の在り方に関する規律の見直しに関する論点の検討(1)」16~24頁(法務省、2025年6月25日)

(3) スチュワードシップ・コードのスリム化/プリンシプル化

スチュワードシップ・コードは、機関投資家が各々の置かれた状況に応じて、自らのスチュワードシップ責任をその実質において適切に果たすことができるよう、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用しています。この趣旨を徹底する観点から、本改訂では、例えば、策定・改訂時から一定期間が経過し実務への浸透が進んだ箇所等を削除・統合・簡略化するなど、スリム化/プリンシプル化が図られています。もっとも、本改訂で削除・統合・簡略化された箇所についてその趣旨の重要性が否定されるものではないことには留意が必要です。

(4) 終わりに

建設的な目的を持った対話に資する協働エンゲージメントの促進や、実質株主の透明性確保に向けて、本改訂がなされましたが、その他の関連する議論の状況についても注視する必要があります。例えば、前述の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会に関する議論の状況や業界団体における議論の状況です(※3)。
2025年6月30日に公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」においても、投資家と企業の「緊張感のある信頼関係」に基づいた対話が行われることが重要である旨が示されており、今後、金融庁としても本改訂に基づく対話の実施状況を確認し、企業と投資家の議論の場を設け、「スチュワードシップ活動の実態に関する調査」(2025年6月2日公表)の事例を充実させる等、取組事例の収集・共有を継続することが予定されております。

(※3)「『実質株主確認制度整備に向けた実務者検討会』の設置について」(一般社団法人全国銀行協会、2025年3月31日)

2. M&A:MBO等に関する東証上場規程「企業行動規範」の改正施行(2025年7月22日)

パートナー 山内 大将
シニア・アソシエイト 冨永 千紘

東京証券取引所(以下「東証」といいます。)は、2025年4月14日、「MBOや支配株主による完全子会社化等に関する上場制度の見直し等について」を公表し、その概要については、Client Alert 2025年6月27日号において解説いたしました。その後、東証は、パブリック・コメント手続を実施し、2025年7月7日、MBOや支配株主による完全子会社化等に関する上場規程等の一部改正(以下「本改正」といいます。)を行い、7月22日から施行しましたので、パブリック・コメント手続を踏まえた本改正の概要を解説いたします。
本改正は①対象行為の拡大、②特別委員会の意見取得、③情報開示の充実の3点について行われ、その主な内容は以下のとおりです。

(1) 対象行為の拡大

本改正により、後述する②特別委員会の意見取得、及び③情報開示の充実が求められる対象が拡大され、具体的には以下の行為(上場廃止となる見込みがあるものに限られます。以下「対象行為」といいます。)において対応が必要となりました(有価証券上場規程(以下「規程」といいます。)441条)。

  • MBO
  • 支配株主、その他の関係会社等による公開買付け
  • 支配株主、その他の関係会社等による株式交換、株式移転、株式併合、全部取得条項付種類株式の全部の取得又は株式等売渡請求に係る承認等(以下「株式交換等」といいます。)

なお、支配株主やその他の関係会社等による株式交換等とは、支配株主やその他の関係会社等が買収の当事会社に該当する場合を指すとされています。他方で、支配株主やその他の関係会社等が、買収者と不応募契約を締結することや買収者に再出資すること等により、公開買付け及びその後の一般株主のスクイーズアウトの実施後も、対象会社の株主(間接的に対象会社株式を保有する場合を含む)として残存することを予定した取引を行う場合については、取引の性質や構造的な利益相反の問題の程度に応じて、これらに準ずる行為として、対象行為と同様の手続の実施を検討することが期待されています(会社情報適時開示ガイドブック(2025年7月改訂箇所抜粋・履歴付き)(以下「ガイドブック」といいます。)112頁)。

(2) 特別委員会の意見取得

本改正により、意見の取得は、買収者及び取引の成否からの独立性を有する社外取締役、社外監査役、社外有識者で構成される特別委員会からの意見の入手とすることが義務付けられました。ただし、緊急性が高いと東証が認める場合には、特別委員会の設置は必須でなく、上記に掲げる者その他のこれらの独立性を有する者個人による意見を取得することでも足りるとされています(規程441条1項ただし書、同施行規則436条の3第1項)。
また、特別委員会から取得する意見は、「一般株主にとって公正なものであることに関する意見」であることが明確化されました(規程441条1項)。取引の公正性を判断するに際しては、「企業価値の増加分が一般株主に公正に分配されるような取引になっているかどうか」が基本的な目線となり、取引の是非、取引条件の公正性、手続の公正性の観点から意見することが求められます(ガイドブック114頁)。
本改正により、特別委員会の意見を記載した書面(意見書)は会社の適時開示に添付して開示されることになりました(規程441条2項)。意見書に事業上の機密情報が含まれる場合には、当該箇所について合理的な範囲で非開示とすることが許容されますが、非開示とする場合にはその旨を記載することが求められます(ガイドブック70頁)。

(3) 情報開示の充実

本改正により、株式価値算定の重要な前提条件(財務予測や算定手法の前提となる考え方)の開示が拡充されることとなりました。拡充が求められる内容としては、DCF法による場合、財務予測の期間の設定に関する考え方、財務予測の前提となる考え方(事業内容や事業環境等についてどのような前提を置いているか)、割引率の種類、割引率についてサイズリスク・プレミアムなど追加的なリスク・プレミアムの考慮がある場合にはその内容と根拠、継続価値の具体的な数値、その算定に用いたそのパラメータの設定に関する考え方、個別資産(賃貸等不動産、政策保有株式、余剰資⾦など)の算定上の取扱い(事業資産と非事業⽤資産の切り分けについての考え方など)(算定において重要性を有する場合に限る)や、第三者評価機関の報酬体系(M&Aの成⽴等を条件に支払われる成功報酬か、M&Aの成否にかかわらず支払われる固定報酬か等)などがあります(ガイドブック65~67頁※8)。
例えば、財務予測の前提となる考えに関連して、算定の前提とした財務予測が公表されている直近の数値と大幅に異なる場合にはその理由の開示が求められますが、ここでいう「大幅に異なる」に該当するかどうかは、公表されている直近の数値と比較した増加又は減少見込額が、売上高の場合には10%以上、利益又はFCFの場合には30%以上であるか否かが目安となるとされています(ガイドブック66頁)。

本改正に関しては、今後の運用や実務の動向にも十分留意しながら、適切な対応を図ることが求められます。

3. 訴訟/仲裁:最高裁、「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」を公表

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 石川 拓哉
パートナー 石田 哲也
パートナー 関口 恭平

最高裁判所は、裁判の迅速化に関する法律に基づき、裁判の迅速化に係る検証を行い、その結果を平成17年7月から2年ごとに公表しており、令和7年7月11日、11回目の結果報告となる「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(以下「本報告書」といいます。)を公表しました(※1及び※2)。

(※1)最高裁判所事務総局:「裁判の迅速化に係る検証結果の公表(第11回)について
(※2)最高裁判所事務総局:「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(令和7年7月)

(1) はじめに

本報告書では、裁判所の各手続におけるデジタル化の現状を確認するとともに、統計データの分析を中心にこれまでの検証結果をフォローアップする形で検証がなされました。
本報告書は、これまでの検証と同様、地方裁判所における第一審訴訟事件(民事・刑事)及び家庭裁判所における家事事件等について、最新の統計データを用いて審理期間等の状況の検証を行うとともに、各事件等について、裁判所及び弁護士会等に対する実情調査を実施し、その結果をまとめております。

(2) 裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(令和7年7月)の概要

本報告書によれば、民事第一審訴訟事件の平均審理期間は、平成22年頃から令和3年までおおむね長期化傾向が続いていましたが(令和3年は10.5か月)、令和5年以降は短縮傾向に転じ、令和6年は9.2か月となりました。
審理期間が2年を超える事件の割合は7.6%(令和6年)であり、前回(令和4年:9.9%)よりも減少しました。

また、本報告書では、民事訴訟のデジタル化が進展する中での争点整理の現状と課題を把握するために行われた実情調査の結果についても報告がされております。例えば、デジタルツールを活用しながら口頭協議を活性化する工夫として、以下の取組が紹介されています。

① 期日で指示した準備事項等を裁判所から投稿機能で共有
② 提出された書面を踏まえ、期日に口頭で確認したい点等を投稿機能を利用して予告
③ 協議事項を画面共有して協議を行う
④ mints(※3)で提出された書面のデータを用いて、相手方の認否に応じて当事者の主張を色分けし、否認部分と争いのない部分に整理するなど、データを活用して視覚的に事案を把握

(※3)準備書面や書証の写し等の裁判書類の電子提出を可能にするためのシステム(民事裁判書類電子提出システム)のこと。

(3) まとめ

上記のとおり、民事訴訟事件の審理期間は、近時、短縮傾向にあるところ、その要因の一つとしてデジタル化を背景とした審理運営の工夫が進んだことが考えられます。
民事裁判手続等のデジタル化に係る改正民事訴訟法は、遅くとも令和8年5月までに全面施行される予定です。これにより、訴状のオンライン提出や訴訟記録のオンライン閲覧が可能となるなど、民事訴訟手続の全面的なデジタル化が進みます。現時点でも、民事訴訟事件においてデジタルツールを活用した争点整理等の新たな運用が登場していますが、今後は民事非訟手続等でもオンラインでの申立書の提出が可能となるなど民事裁判手続の全面的なデジタル化への移行に伴い、裁判の迅速化が加速することが予想されます。こうした変化に対応するためには、弁護士と依頼者との間で、より迅速かつ緊密な連携が不可欠となります。特に、デジタル化された裁判手続やITツールの活用に精通し、最新の運用に柔軟に対応できる弁護士のサポートを受けることが、今後ますます重要になると考えられます。

4. 不動産/ファイナンス:RCA・FTKK共催|不動産特定共同事業に関する「自主規制ルール検討会」(第1回)の開催及び議事概要・(暫定版)チェックリストの公表について

パートナー 小山 友太

(1) はじめに

2025年8月1日、国土交通省の設置した「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての検討会」(あり方検討会)の中間整理の結果が公表されました(※1)。これを踏まえ、同年8月22日、一般社団法人不動産クラウドファンディング協会(RCA)及び一般社団法人不動産特定共同事業者協議会(FTKK)は、不動産特定共同事業(不特事業)ないし不動産クラウドファンディングにおける一般投資家への情報開示について、商品の内容に応じた適切な情報提供が行われるよう、広告等への記載事項の改善に向けた「自主規制ルールの検討会」を開催することを公表しています(※2)。
第1回検討会の議論については、①商品募集画面等への情報記載の必要性、②利回りの計算方法に関する考え方、③表示内容の中立性・分かりやすさの確保、④チェックリストの整備に向けた考え方といった観点から、情報開示のあり方についての対応方針を具体的に整理していくこととされ、チェックリストの整備、両団体での実行方法についての検討・実施が進められることとされています(※3)。第1回検討会は、2025年9月30日に実施され、同年11月5日に第2回検討会(議題:事業計画・資金計画に関する表示)、2026年2月に第3回検討会(議題:(仮)事業スキーム・特殊アセット等にかかる表示)の開催がそれぞれ予定されています。

(※1)一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての中間整理
(※2)一般社団法人 不動産特定共同事業者協議会『自主規制ルールの検討会』」開催のお知らせ
    一般社団法人 不動産クラウドファンディング協会『自主規制ルール等の検討会』開催のお知らせ
(※3)一般投資家向け情報開示に関する対応方針および第1回検討会議論について

(2) 議事概要

第1回検討会の意見交換の内容については、両団体のウェブサイトにおいて議事概要が公表されています(※4)。詳細は議事概要をご覧いただければと思いますが、一例として、以下のような指摘が行われています。
現在、暫定版のチェックリストも公表されていますので、こちらの内容も注視していく必要があります(※5)。

ア 総論

  • 一般投資家への募集時の情報開示において、チェックリストを用いた自主規制を行うことには概ね賛同
  • 各事業者にチェックリストを用いたチェックを委ねると、各チェック項目の解釈の違いに起因し、チェックリストが適切に機能しない可能性があるため、表現の具体化のほか好事例を合わせて開示する等の工夫をすることが望まれる

イ チェックリストの位置づけ

  • チェックリストが形骸化しないよう、実効性の担保については継続的な見直し等今後の運用方法の工夫が必要

ウ 利回り算出方法・表記

  • 利回りに関する用語は、各事業者で表記が異なるため定義づけを行うことが望ましい
  • 利回りに関しては、期中利益分配(インカムゲイン)と売却時利益分配(キャピタルゲイン)が混在しているため、区分・内訳を明記することが必要

エ 利回りに偏らない投資判断のための情報開示

  • 多くの場合、利回りとリスクは連動するものであるため、具体的なリスクの表示を行うことが重要

(※4)自主規制ルール 第1回検討会 議事概要
(※5)(暫定版)チェックリスト

(3) 関連記事

あり方検討会における議論の状況や国土交通省の公表した中間整理のポイント、不特事業の広告規制に係る近時の動向等については以下のニューズレターもご参照ください。

2025/05/09ニューズレター
第1回『一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての検討会』の開催について|不動産特定共同事業(不特事業)に関する法律相談・第8回

2025/09/18ニューズレター
国土交通省による『一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての中間整理』の公表とその後の動向|不動産特定共同事業(不特事業)に関する法律相談・第9回

2025/10/14ニューズレター
不特事業者のコンプライアンス対応(2) FTKK『相続税法上の評価額等の広告等に関するガイドライン』の制定・公表|不動産特定共同事業(不特事業)に関する法律相談・第10回

5. 不動産:「みんなで大家さん」の営業者等に対する大阪府・東京都の行政指導

パートナー 井上 正範
パートナー 稗田 直己

「みんなで大家さん」シリーズに係る商品は、都市綜研インベストファンド株式会社(以下「本件営業者」といいます)を営業者とする、不動産特定共同事業法に基づく不動産投資商品です。同シリーズの、成田空港周辺開発プロジェクト用地の一部を不動産特定共同事業の対象不動産とする商品(以下「成田シリーズ」といいます)は、事業参加者(投資家)から合計で2000億円程の資金を集めたとされています(※1)。しかし、成田シリーズに関しては、2024年6月17日に、本件営業者及び販売代理人であるみんなで大家さん販売株式会社(以下「本件販売代理人」といいます)に対して、同法に基づく業務の一部停止命令等が出されました(※2)。近時の報道によれば、事業参加者に対する利益分配金の支払が遅れており(※1)、事業参加者が出資金の返還を求める集団的な訴訟提起の動きもあります。

大阪府及び東京都は、2025年10月14日、本件営業者及び本件販売代理人に対する行政指導を行った旨を公表しました。報道発表資料等(※3)によれば、①「みんなで大家さん」シリーズにおいて、本件営業者から事業参加者に対して、解約に関する新たな提案がなされ、②上記提案について、事業参加者に具体的かつ分かりやすく説明するよう府及び都からの行政指導が行われました。

解約に関する本件営業者の提案や行政指導の具体的な内容は公表されておらず、詳細は現時点では不明ですが、今後の動向を注視する必要があります。

※1:小池東京都知事の記者会見(2025年9月19日
※2:大阪府の報道発表資料:不動産特定共同事業者に対する処分について
東京都の報道発表資料:不動産特定共同事業者に対する行政処分について
※3:大阪府の報道発表資料:不動産特定共同事業者に対する行政指導について
東京都の報道発表資料:不動産特定共同事業者に対する行政指導について
小池東京都知事の記者会見(2025年10月17日)

6. 事業継承/株主権:中小企業庁、「中小企業の親族内承継に関する検討会 中間とりまとめ(案)」を提示


パートナー 東山 敏丈
パートナー 藤井 雅樹
パートナー 山内 大将
パートナー 関口 恭平
パートナー 三嶽 一樹

中小企業庁は、2025年8月13日、「中小企業の親族内承継に関する検討会 中間とりまとめ(案)」を提示しました。

(1) 「中小企業の親族内承継に関する検討会 中間とりまとめ(案)」の概要

「中小企業の親族内承継に関する検討会 中間とりまとめ(案)」は、「中小企業にとって課題の多い親族内承継に着目し、事業の親族内承継の円滑な実現に向け、昨今の中小企業経営者に関する現状を概観するとともに、企業の成長や発展についても念頭においた、今後の事業承継税制のあり方と後継者育成について、検討の方向性をとりまとめた」ものです。
親族内承継については、2018年度から早期の事業承継を促す観点から10年間の時限措置として、株式の相続時・贈与時の税負担を実質ゼロとする事業承継税制の特例措置が講じられていましたが、かかる措置の効果を踏まえ、「中小企業の親族内承継に関する検討会 中間とりまとめ(案)」は事業承継税制に関する政策の方向性について以下のとおり述べています。

① 猶予対象株式数について

「安定的な事業承継のためには 2/3 を超えて後継者に集約させることが望ましい場合が多い。猶予対象株式を 2/3 までとしたことが一般措置の活用が進まず特例措置への拡充の背景にあったことを考慮するとともに、少数株主への対応にかかる負担やその他事業承継後の企業の発展のためにどのようなことが求められるかを踏まえ、猶予対象株式を適正な水準に引き上げる方向で検討をすべきではないか」

② 猶予割合(贈与と相続の差)について

「円滑な承継を実現するとともに、承継後の成長を実現するためには早期・計画的な承継が重要。この観点から、贈与によって株式の承継がなされるよう促進することに制度上の主眼を置きつつ、相続の場合の猶予割合についても適切に検討することが重要ではないか」

③ 猶予措置のあり方について

「猶予の期間が長すぎることから、経営者が将来の不確実性を考慮し制度が使われにくい実態に加え、猶予であるために将来的に確定事由が生じた場合の納税に備え、猶予分を投資や賃上げではなく貯蓄するといった行動を促してしまうことや、事業の成長等につながらない支出を伴う株価対策を実施する誘因が存在すると考えられる。こういった企業行動の歪みをもたらす誘因を是正し、前向きな支出へのインセンティブを高める観点から、過去議論が行われたように、評価減制度の可能性を追求することや、例えば、10年間事業を継続すれば免除となる等の工夫ができないか検討してはどうか」

④ 雇用確保要件について

「後継者不在による廃業を防ぎ雇用の維持につなげる政策的意義は引き続き高いが、同時に中小企業の経営課題が、地域の人手不足の深刻化や物価高に伴う賃上げの必要性の高まりなどを受けて変化していることも踏まえ、追加的な政策目的として、例えば従業員の賃上げや企業としての成長に向けた取組を評価する観点等も考慮のうえ、要件のあり方を検討するべきではないか」

⑤ 企業の成長及びガバナンスについて

「中小企業において、事業承継税制を活用して確保された資源を有効に活用し成長につなげていくためには、経営者による公私混同を防止し、適切な企業活動の確保に向けた社内のガバナンスを相応に確保する必要性が想定される。企業規模が小さいことや、同族経営が比較的多く、強力なリーダーシップが有効に機能すること、さらにはガバナンスが地域経済の中で一定程度機能している側面等も考慮しつつ、事業承継税制の活用企業におけるガバナンスの要否について慎重に検討を行うべきではないか」

⑥ 海外子会社の取り扱いについて

「海外子会社の株式については、これまでの措置では地域における活力維持は国内の雇用に関連するという整理のもと、本税制の対象外とされてきた(中略)中小企業が有する海外子会社が一定程度存在しており、今後も成長志向の中小企業の海外展開が増加することが予想される中で、海外子会社の株式についても税制の対象とすることも検討すべきではないか」

⑦ その他の論点について

「信託株式を税制の対象とするか否かについては、財産権と議決権の分離に留意しつつ、慎重な検討が必要ではないか。また、税制の活用を促進する観点から、雇用確保要件が5年間平均で8割以上に見直しがされたことなども踏まえ、都道府県及び税務署への報告回数や添付書類の見直しも含めた報告手続きの簡素化についても、検討されるべきではないか。」

(2) まとめ

今後、事業承継税制がより活用しやすくなる可能性があります。他方、事業承継税制の活用のためには中小企業におけるガバナンスの確保が求められる可能性もありますので、事業承継税制の活用には必要に応じて弁護士に相談することをご検討下さい。

7. 危機管理/不祥事対応:金融審議会(市場制度WG)におけるインサイダー取引規制の強化等に関する議論の状況

パートナー 大澤 貴史
アソシエイト 宮城 弥加

金融審議会の市場制度ワーキング・グループ(以下「市場制度WG」といいます。)が令和7年6月25日に設置され、インサイダー取引規制の強化等が検討されています。令和7年10月15日に開催された第2回までの議論状況等について、以下のとおりご紹介します。

(1) インサイダー取引規制における関係者の範囲

公開買付けに関する事実を対象とするインサイダー⁠取引規制に関し⁠、公開買付けの対象会社(発行者)の契約締結者(財務アドバイザーや法律事務所など。これらの者は、現行法でも第一次情報受領者となり得ます。)から情報提供を受けた者が現行法では第二次情報受領者として規制対象外となる場合があるとの指摘がありました。これは現行法では、公開買付けの対象会社(発行者)の契約締結者等が金融商品取引法167条1項の規定する「公開買付者等関係者」に含まれていないためです。
市場制度WGでは、公開買付者等関係者の範囲を拡大し、発行会社の役員等以外の関係者を公開買付者等関係者に含めることが検討されています。具体的には、発行会社の会計帳簿閲覧請求権者(例:株主)、法令に基づく権限を有する者(例:行政機関)、発行会社と契約を締結する者(例:上記のアドバイザーなど)を新たに公開買付等関係者に追加する案です⁠。一方、第一次情報受領者からさらに情報を得た第二次情報受領者を新たに規制対象に含めるべきかについては意見が分かれ、現時点では慎重に考える必要があるのではないかとの指摘がされています。さらに、投資法人(REIT)の資産運用会社やその親会社の一定の関係者を公開買付者等関係者に追加することや、上場会社・公開買付者等の「親会社」の定義の見直しも議論されています。

(2) 課徴金の適用範囲及び算定基準等

インサイダー⁠取引規制の実効性確保のため、課徴金水準の引き上げ、対象範囲の拡大、新しい取引形態に対応した算定方法等が検討されています。具体的には、公開買付者等関係者によるインサイダー取引等の課徴金額(経済的利益相当額)の算定方法について、現行法では、公開買付け等事実の公表前に行われた取引の価格と、当該事実の公表後2週間における最大価格の差額を課徴金額としているところ、この金額をフロア(下限)としつつ、公開買付け等の実施の事実の公表による市場価格への影響を標準化した割合(平均約50%)を公表前の価格に乗じて課徴金額を算定する方法が検討されています。これは、公表後2週間以降に、公開買付価格の引上げや対抗公開買付けで市場株価が更に上昇する場合があることなどによります。
さらに、大量保有・変更報告書の不提出・虚偽記載や高速取引行為による相場操縦の場合の課徴金算定方法の見直しや、他人名義口座を利用した不公正取引に対し、課徴金額の引上げや口座提供者自体を課徴金の対象に加える改正も議論されています⁠。また、現在の課徴金減算制度(有価証券報告書の虚偽記載等の場合に、証券取引等監視委員会(以下「監視委」といいます。)の調査開始前に違反事実を報告すれば50%減額)についても見直しが議論されています。調査開始前の報告により50%の減額を受けつつ、調査開始後に自ら申告した違反を否認するなど、調査に協力的でなくなる場合があるため、調査開始後の協力度合いに応じて減算率を調整する制度を導入する案です。独占禁止法の減免制度を参考に、減免申請の順位に応じた減免率に調査開始後の協力度合いに応じた減算率を加えた減免率を用いることが議論されています。

(3) 効果的・効率的な検査・調査の実施のための措置

監視委の開示・証券検査等における出頭命令の権限を追加すること、無登録の金融商品取引業者に対して監視委が犯則調査を実施する権限を創設することなども議論されています。

(4) 今後の展望

市場制度WGでの議論を受けた金融商品取引法の改正案は、早ければ令和8年の通常国会に提出される可能性があります。上場会社においては、市場制度WGの議論状況を注視するとともに、インサイダー取引の未然防止策や違反の発生時の対応策の準備を進めておくことが重要です。

8. 独占禁止法/下請法:オートバイの販売等を行う会社に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 東道 雅彦
パートナー 川村 宜志
アソシエイト 福田竜之介

公正取引委員会は、2025年9月18日、オートバイの販売等を行うハーレーダビッドソンジャパン株式会社(以下「ハーレーダビッドソンジャパン」という。)に対し、独占禁止法第19条(同法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用))の規定に違反する行為を行っていたことを理由に、同法の規定に基づき排除措置命令及び課徴金納付命令を行いました(以下「本件」といいます。)(※1)。公正取引委員会が優越的地位の濫用について、排除措置命令及び課徴金納付命令を行うのは約11年ぶりであることから(※2)、その概要等をご紹介いたします。
※1 公正取引委員会「ハーレーダビッドソンジャパン株式会社に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について」(2025年9月18日)
※2 日本経済新聞「ハーレー日本法人に2億1000万円課徴金命令 販売店に不当ノルマ」(2025年9月18日)

(1) 本件に関連する独占禁止法の規定

独占禁止法は、不公正な取引方法の一つとして、優越的地位の濫用を禁止しています(独占禁止法第2条第9項第5号、第19条)。これは、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、」以下の①~③いずれかに該当する行為をすることを禁止するものです。

① 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
② 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
③ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

公正取引委員会は、優越的地位の濫用に該当する行為があった場合、その行為者に対して、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができます(排除措置命令、独占禁止法第20条)。また、当該行為者が優越的地位の濫用を継続して行っていた場合には、課徴金の納付を命じなければならないとされています(課徴金納付命令、独占禁止法第20条の6)。

(2) 本件の概要

ハーレーダビッドソンジャパンは、遅くとも2023年1月31日以降、ハーレーダビッドソンジャパンとの取引を継続することができなくなれば事業経営上大きな支障を来すこととなるディーラーに対し、ディーラーが自ら又は自らの従業員等を名義人とした登録を行わなければ達成できないようなハーレーダビッドソンブランドの自動二輪車の年間小売販売目標台数(以下「本販売台数目標」といいます。)を、以下の①のとおり、一方的に決めた上で、次の②の方法等により、本販売台数目標に従った事業活動を行うことを余儀なくさせていました。

①一方的な本販売台数目標の決定

ハーレーダビッドソンジャパンは、特定のディーラーに対して、本販売台数目標が記載された合意書を提示するまでの間に、合意書に記載される本販売目標台数案について、当該ディーラーとの間で協議を行っておらず、当該ディーラーに対して意見を述べる機会も与えていませんでした。
また、当該ディーラーに合意書を提示してから署名押印済みの合意書を提出させるまでの間に、合意書に記載した本販売目標台数案の算定根拠等についての十分な説明を行わず、本販売目標台数案に関するディーラー側からの意見や下方修正要請があってもほとんど協議を行うことなく、下方修正することもなく、合意書に記載されたとおりの本販売目標台数を決定していました。

②本販売台数目標に従った事業活動を行うことを余儀なくさせる方法

ディーラーは、本販売目標台数の達成率が一定割合に満たなかったことなどの結果として、ハーレーダビッドソンジャパンに低評価を2回連続で下された場合、ハーレーダビッドソンジャパンが当該ディーラーとのディーラー契約を更新しないなどの不利益を被る可能性がありました。そのような中で、ハーレーダビッドソンジャパンは、以下の行為を行っていました。

● 当該ディーラーが各月末までに当該月の本販売台数目標に従って顧客に販売するために必要な時間的猶予がない状況下において、営業責任者の指示を受けた営業担当者からの電話等により、当該ディーラーに対して、当該月の本販売目標台数の達成率を上げるように強く要請していた
● 特定の低評価が下されたディーラーに対して、翌四半期以降における本販売台数目標の達成率等の改善計画を作成させるとともに、当該ディーラーの代表者等との面談において、その実施を約束させていた

公正取引委員会は、これらハーレーダビッドソンジャパンの行為が上記1の③に該当し、独占禁止法19条に違反していると判断しました(※3)。

※3 公正取引委員会「令和7年(措)第13号 排除措置命令書」(2025年9月18日)7頁

(3) 排除措置命令及び課徴金納付命令の概要

上記(2)の違反行為について、公正取引委員会は、以下の排除措置命令と課徴金納付命令を行いました。

● 排除措置命令・・・上記(2)の違反行為を取りやめていること及び今後同様の行為を行わないことを取締役会で決議とこれに基づいて採った措置の周知徹底等、ディーラーとの取引に関する独占禁止法遵守に関する周知徹底や研修・監査等、及び、これらについての公正取引委員会への報告等
● 課徴金納付命令・・・2026年4月20日を期限とする2億1147万円の納付

(4) まとめ

近年、公正取引委員会は「優越的地位濫用未然防止対策調査室」の設置など、優越的地位の濫用に対する執行を強化しています(※4)。違反行為の多くは、確約手続(独占禁止法第48条の2)で処理されますが、本件は、約11年ぶりに排除措置命令及び課徴金納付命令が下されました。この公正取引委員会による執行強化の取組みは、今後更に推し進められることも予想されます。特に、優越的地位の濫用についての課徴金納付命令は、課徴金の金額が高額となる場合が多いことから、取引の相手方との関係については細心の注意を払う必要があります。

※4 公正取引委員会「公正取引委員会の最近の活動状況」(2025年4月)29頁

9. 環境法:廃棄物処理法の改正動向

パートナー 猿倉 健司
アソシエイト 加藤 浩太

廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」といいます。)は、平成29(2017)年に改正され、令和2(2020)年4月1日に完全施行されました。同改正の附則では、完全施行後5年を経過した時点で見直しをすることとされており、これに基づいて、廃掃法の見直しが進められていますが、令和7(2025)年10月8日に「今後の廃棄物処理制度の検討に関する概要資料」及び「今後の廃棄物処理制度のあり方について(骨子)(案)」が公表されました。
実務上重要なポイントは、主に①不適正ヤードへの対応、②PCB廃棄物に係る対応、③災害廃棄物への対応です。以下、特に事業者に関わりのある①および②について詳しく説明します。

(1) 不適正ヤードへの対応

全国各地に再生資源物の屋外保管施設(金属スクラップヤード)が存在しており、操業に伴う騒音・振動やそれらの不適切な保管による土壌・水質汚染、悪臭、火災が数多く発生しています。しかしながら、再生資源物が有価物(廃掃法上の「廃棄物」に当たらない物)である場合には、廃掃法の規制対象外であり、その保管について直接規制する法令等がありません。そこで、各自治体においては、条例を制定し、再生資源物の屋外保管を行う事業者に対する規制を行ってきましたが、不適正な保管をする事業者は規制の甘い地域に移動するなどし、いたちごっこの様相を呈していたため、法律によって全国一律で規制することが求められていました。
そこで、廃掃法の見直しにおいては、支障を生じるおそれのある物品を包括的に規制の対象とするような定義付けをすること、生活環境保全上の配慮がなされていること等が確認できない事業者のヤード業の新規参入を禁止すること、および有害使用済機器保管等届出制度と比べて罰則を強化することなどが検討されています。
なお、スクラップヤード規制については、猿倉健司「スクラップヤード規制の制定ラッシュに見る自治体対応の留意点」(牛島総合法律事務所ニューズレター、2023年4月14日)も参照してください。

(2) PCB廃棄物に係る対応

ポリ塩化ビフェニル廃棄物(以下「PCB廃棄物」といいます。)については、現在、廃掃法の特別法であるポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(以下「PCB廃棄物特措法」といいます。)により一般的な廃棄物とは異なる規制が課されています。たとえば、高濃度PCB廃棄物の処分期間については、保管の場所の所在する地域によって異なりますが、たとえば、東京であれば廃PCB等及び廃変圧器等以外の高濃度PCB廃棄物は令和5(2023)年3月31日までに処分する必要があります(PCB廃棄物特措法10条、同法施行規則6条、別表)。また、低濃度PCB廃棄物については令和9(2027)年3月31日までに処分する必要があります(PCB廃棄物特措法14条、同法施行令7条)。
もっとも、処分期間及び特例処分期限日が経過したとしても、建物の解体などに伴って高濃度PCB廃棄物が新たに発見される例もあるため、それらの取扱いについての規制が検討されています。具体的には、高濃度PCB廃棄物が発見された場合、発見後に届出を行い、一定期間内に処分を行うことを義務付けることが検討されています。
また、現在使用中の低濃度PCBを含む使用製品については規制がなく、処分期限以降に寿命等によって不要となった低濃度PCB使用製品が、新たな低濃度PCB廃棄物として発生することが見込まれます。そこで、新たに発見され、または低濃度PCB使用製品等が不要となった低濃度PCB廃棄物を確実に処理するため、届出を行わせて一定期間内の処分を行うことを義務付けることや、低濃度PCB使用製品の保管基準の設定などが検討されています。
なお、PCB廃棄物の取扱いについては、井上治・猿倉健司「所有地にPCB(ポリ塩化ビフェニル)廃棄物がある場合にとるべき対応(2022年改正対応)」(BUSINESS LAWYERS、2022年8月31日)も参照してください。

以上、廃掃法の見直しのポイントを説明しましたが、今後さらに詳細な規制内容が明らかになると思われるため、議論を注視していく必要があります。

10. 労働法:カスハラ防止措置及び就活セクハラ防止措置に係る指針の骨子案の概要

パートナー 山中 力介
パートナー 猿倉 健司
スペシャル・カウンセル 柳田  忍

(1) はじめに

企業等にカスタマーハラスメント(カスハラ)防止対策及び求職者に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)防止対策を義務づける改正法が成立し、求められる防止措置の具体的な内容が、厚生労働大臣が今後定める指針において定められる予定であることはご案内のとおりですが(弊事務所のClient Alert2025年6月27日号の「10. 労働法:ハラスメント対策強化に係る改正法の概要」ご参照)、2025年10月27日に実施された労働政策審議会の雇用環境・均等分科会(第85回)の資料として、「職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の骨子(案)」(以下「カスハラ防止指針の骨子案」といいます。)及び「求職活動等におけるセクシュアルハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の骨子(案)」(以下「就活セクハラ防止指針の骨子案」といいます。)が公表されましたので、以下、概要について説明します。

(2) カスハラ防止指針の骨子案

カスハラ防止指針の骨子案は、事業者が講ずべき措置の内容及び留意点として、以下を挙げています。

・措置の内容
 ① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
 ② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
 ③ 職場におけるカスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(迅速・正確な事実確認、被害者への配慮措置、再発防止)
 ④ 職場におけるカスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置
 ⑤ ①から④までの措置と併せて講ずべき措置(相談者等のプライバシー保護、相談等を理由とした不利益取扱いの禁止)
・措置を講じる際に留意が必要なこと(消費者の権利、障害者への合理的配慮の提供義務、各業法等の定め)

(3) 就活セクハラ防止指針の骨子案

就活セクハラ防止指針の骨子案は、事業者が講ずべき措置の内容として、以下を挙げています。
 ① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発(面談等を行う際のルールをあらかじめ定めること等)
 ② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
 ③ 求職活動等におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(迅速・正確な事実確認、被害者への配慮措置、行為者に対する措置、再発防止)
 ④ ①から③までの措置と併せて講ずべき措置(相談者等のプライバシー保護、事実関係の確認等を理由とした不利益取扱いの禁止)

(4) 事業者が講ずべき対策

両指針の骨子案に照らすと、改正法下において事業者が講ずべき措置の内容は、すでに事業者が講じることを義務付けられている、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント及び育児・介護休業等に関するハラスメントの各防止措置と同様の内容のものになると思われます。よって、各事業者においては、防止措置として、既存のハラスメント防止措置の対象にカスハラと就活セクハラを追加することになるものと思われます。
もっとも、カスハラについては、従業員の顧客対応上の問題がカスハラの端緒となっている側面があることも考慮する必要があると思われます。例えば、従業員への研修などを通じて、消費者の権利や、障害者への合理的配慮の提供に関して、従業員の理解を深めておく必要があると思われます。
また、就活セクハラについては、指針の骨子案記載のとおり、求職者等との面談等のルールなどをあらかじめ定めておく必要があると思われます。

11. 税務:非上場株式の相続税評価について財産評価基本通達第6項の適用が肯定され、国側が逆転勝訴した事例(東京高裁令和7年6月19日判決)

パートナー 大澤 貴史
アソシエイト 松尾 祐樹

(1) はじめに

東京高裁令和7年6月19日判決(令和7年(行コ)第51号相続税更正処分等取消請求控訴事件。以下「本判決」といいます。)を紹介いたします。本件は、非上場株式の相続税評価に際し、税務当局が財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます。)第6項の適用を理由に行った相続税の更正処分等が争われた取消訴訟において、第1審では納税者側が勝訴したものの、控訴審(本判決)で第1審判決が破棄され国側が逆転勝訴しました。
(※)第1審判決(東京地裁令和7年1月17日判決)についてはClient Alert 2025年6月27日号参照

評価通達第6項の適否については、最高裁判所令和4年4月19日判決(以下「令和4年最判」といいます。)において、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」がある場合には、財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額にすることも平等原則に違反するものではない旨の判断を示しています。

(2) 事案の概要

本件は、被控訴人ら(第1審原告ら。以下「納税者ら」といいます。)が被相続人から相続等により取得した非上場会社(X社)の株式(以下「本件株式」といいます。)について、本件株式の相続直前に、X社による新株発行の決議(被相続人がこれに応じて出資)及びX社からの配当(以下「本件新株発行等」)などがされ、納税者らは、評価通達第179項(3)但書が適用される「小会社」として併用方式により本件株式の価額評価(1株当たり株価1858円/課税価格の合計21億2513万4000円)をしました。これに対し、税務当局は、評価通達第6項を適用して評価通達第189-3項本文に基づく評価(純資産価額方式。1株当たり株価3443円/課税価格の合計37億3843万7000円)により、増額更正処分等をした事案です。

(3) 第1審及び本判決の判断

東京地裁令和7年1月17日判決は、本件株式の価額を併用方式により評価すると、本件新株発行等により相続税の総額等は相当限度減少(課税価格の合計額:17億0885万4000円(約45%)減、相続税の総額:8億5442万7000円(約49%)減)するものの、これは、評価通達第179項(3)が、小会社の株式の価額の評価方法について、純資産価額方式と併用方式の選択を納税義務者に認めていることにも起因することなどから、実質的な租税負担の公平に反するということはできないと判断しました。
本判決は、上記の本件株式発行等により軽減される相続税の額、割合等を総合的に考慮して判断すると、納税者らの相続税の負担は著しく軽減され、また、納税者が相続開始の約3か月前から証券会社との間で相続税減税スキームについて連日のように協議を重ねていたことなどの事情から、納税者らは、租税負担の軽減をも意図して本件新株発行等を行ったと認定しました。その上で、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件新株発行等のような行為をせず、又はすることのできない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとし、第1審判決を取り消して納税者らの請求を棄却しました。

(4) 今後の見通し

近時の評価通達第6項の適用事例には、令和4年最判のほか東京高裁令和6年8月28日判決(令和6年(行コ)第36号。納税者側勝訴)などがあるところ、本判決は、令和4年最判において示された平等原則の適用にあたり、納税者らの相続税の負担軽減の程度や租税負担の軽減の意図について、具体的な判断を示して国側を勝訴させていますので、今後のタックスプランニングやウェルスマネジメントにおいて参照に値します。また、本判決には上告がされているとのことですので、上告審での行方も注目されます。

12. 事業再生/倒産:「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を踏まえた事業者支援の徹底等について

パートナー 東山 敏丈
パートナー 川村 宜志
パートナー 猿倉 健司
パートナー 百田博太郎
アソシエイト 甲斐 成輝

(1) はじめに

東京地方裁判所民事第20部(倒産部)は、本年4月から、負債総額50億円未満の会社のDIP型(経営陣が退陣せずに経営権を維持したまま再建を図る手続)を対象として、簡易・迅速な会社更生手続の運用(以下「小規模会社更生」といいます。)を導入しました(※1)。
本稿では、小規模会社更生の特徴についてご紹介いたします。

※1 東京地方裁判所民事第20部(倒産部)よくある質問 会社更生手続についてQ9

(2) 小規模会社更生の特徴

①迅速な手続の進行

東京地裁が公表する小規模会社更生の標準スケジュールは以下の表のとおりとなっており、通常のDIP型の会社更生と比較すると、迅速に手続が進行していくことが分かります(赤字箇所が特に手続進行期間が短縮されている部分です。)。

      手続通常の会社更生(DIP型)(※2) 小規模会社更生(※3)
事前相談申立ての2週間前申立ての2週間前
申立て・予納金納付0日0日
監督命令兼調査命令発令0日0日
開始決定2週間2週間
債権届出期限2月+2週間1月+2週間
認否書提出期限4月+2週間3月
財産評定書提出期限4月+2週間3月
財産状況報告説明会非開催非開催
更生債権等の一部調査期間4月+3週間~5月3月+1週間~3月+2週間
更生計画案の提出期限(関係人)管財人提出期限の1週間前まで管財人提出期限の1週間前まで
更生計画案の提出期限(管財人)5月+2週間4月
付議決定5月+3週間4月+1週間
書面投票期間関係人集会の1週間前まで5月+1週間
関係人集会(開催する場合)7月+2週間
認可決定7月+2週間5月+2週間

※2 東京地方裁判所民事第20部(倒産部)よくある質問 会社更生手続についてQ7
※3 東京地方裁判所民事第20部(倒産部)よくある質問 会社更生手続についてQ9

②比較的低廉な予納金の額

予納金の額は以下の表の基準額をもとに、諸事情を総合的に判断して決定されます(※4)。小規模会社更生はDIP型の会社更生であり、かつ、債権総額が50億円未満の会社が対象であるため、以下の表のDIP型の欄を参考にすることとなります。以下の表のとおり、管理型の会社更生の予納金の額と比較すると比較的低廉な金額に収まります。

負債総額管理型(自己申立て)管理型
(債権者・株主申立て)
DIP型
10億円未満800万円1200万円560万円
10億円~25億円未満1000万円1500万円700万円
25億円~50億円未満1300万円1950万円910万円

※4 会社更生事件の手続費用一覧

(3) 終わりに

今般ご紹介した小規模会社更生は、特に手続に要する期間の点から従前の通常のDIP型の会社更生と比較して早期に認可決定が出される仕様となっており、中小企業の再生手続の選択肢の一つとして重要な意義を持つ手続であるといえます。今後は、小規模会社更生の利用も視野に含めた会社の再生手続の遂行が求められるものと存じます。

13. IT/個人情報/知的財産:ランサムウェア攻撃への予防と発生時対応

シニア・アソシエイト 殿井 健幸
シニア・アソシエイト 中井  杏

2025年10月1日から、ランサムウェア攻撃を受けた場合、個人情報保護法26条に基づく漏えい等の報告について、関係省庁申し合わせに基づく「ランサムウェア事案に関する統一様式」を用いて報告を行うことができるようになりました(「漏えい等の対応とお役立ち資料」)。ランサムウェア攻撃により大規模な業務停止が生じる事案が相次いでいますので、これを機に、近時政府機関等から公表された文書を踏まえ、予防とインシデント発生時の対応計画の見直しのポイントについて解説します。

(1) ランサムウェア攻撃の予防

サイバー攻撃は、年々高度化、洗練化されているため、あらゆる脅威に対する完全な予防を行うことは現実的ではありません。そこで、どこまで対策を行っておくべきかが問題となりますが、一つの基準として、自社へのサイバー攻撃により損害が生じる取引先等に対し、損害賠償責任を負わない程度の対策をしておくことが考えられます。中小企業に対する調査では、サイバーインシデントを経験した中小企業のうち、約3割が個人顧客への賠償や法人取引先への補償負担を行ったと回答しており(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「2024年度中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査-報告書-」(2025年5月)77頁)、現実的なリスクであることがわかります。
この点、ウェブサイトによる商品の受注システムを利用した顧客のクレジットカード情報がSQLインジェクション攻撃により流出した事故について、システム開発の受託会社の責任が一部認められた裁判例(東京地判平成26年1月23日判時2221号71頁)においては、受託会社は「その当時の技術水準に沿ったセキュリティ対策を施したプログラ厶を提供することが黙示的に合意」されており、経済産業省やIPAが、対策が「必要であると明示」していた対応を行う債務を負っていたと判断しています。したがって、政府機関等が公表する文書において「必要」と明示されている対応までは行っておくことが合理的であると考えられます。
例えば、個人情報保護委員会「令和7年度第1四半期における監視・監督権限の行使状況の概要」(2025年9月24日)2頁では、不正アクセスによる漏えい等の原因として、①VPN機器の脆弱性やECサイトを構築するためのアプリケーション等の脆弱性が公開され、対応方法がリリースされていたにもかかわらず、事業者が放置していたこと、②ID・パスワードが容易に推測されやすいものとされていたこと、③設定ミスによりデータベースへのアクセス制御が不適切な状態になっていたことなど安全管理措置に不備があったケースが多く見られると指摘しています。また、IPA「情報セキュリティ白書2025」(2025年9月30日)21頁以下では、攻撃対象領域を最小化すること、脆弱性対策、認証強化とアクセス制御、攻撃メール対策、ネットワーク接続点のセキュリティ強化が重要、複数のバックアップ方式を採用することが必要と指摘しています。
したがって、これらを踏まえて、セキュリティ状況の見直しを行うことが考えられます。

(2) 発生時の対応

あらゆる脅威に対する完全な予防を行うことが現実的でない以上、発生に備えることが重要であり、経済産業省が公表する「デジタルガバナンス・コード3.0」では、サイバー攻撃による被害を受けた場合の事業継続計画(BCP)を策定するとともに、経営陣も含めて緊急対応に関する演習・訓練を実施することが望ましいとされております。
具体的には、「情報セキュリティ白書2025」23頁では、インシデント発生時に経営層を含む顧客や取引先、システムの運用・保守の委託先等との素早い連絡・調整を行うための体制作りが必要であり、BCP策定時にはランサムウェア攻撃も考慮する必要があると指摘します。ランサムウェア攻撃の対応については、JPCERT/CC「侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ」も参考にすることができます。
また、サイバー保険の補償範囲と内容を確認しておくことも重要です。

ランサムウェア攻撃への対応については、以下もご参照ください。

特集記事「ランサムウェア攻撃を受けた際の実務対応」(小坂光矢)
特集記事「個人情報の漏えい等報告についてのFAQ」(中井杏)

14. 国際業務:在留資格「経営・管理」の許可基準の厳格化(2025年10月16日施行)

パートナー 井上  治
パートナー 石川 拓哉
カウンセル 八下田麻希子

2025年10月16日、日本で起業する外国人経営者向けの在留資格「経営・管理」に係る「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令」及び「出入国管理及び難民認定法施行規則」の一部の改正が施行され、当該在留資格の許可基準が厳格化されました。以下では、主な改正点の概要等について説明します。

(1) 本改正の目的

改正前の在留資格「経営・管理」は、資本金の額の要件が諸外国の類似の基準と比較して緩やかであったことなどから、昨今、日本に移住する目的で、事業実態のないペーパーカンパニーを設立するなどにより、在留資格「経営・管理」を不正に取得する外国人が増えているとの指摘がされていました。このような本来の趣旨を外れた在留資格「経営・管理」の悪用を防止することが、今回の許可基準の厳格化の主な目的です。

(2) 主な改正内容

①資本金の額等の引き上げ

改正前は500万円以上とされていた資本金の額等の基準が大幅に引き上げられ、3000万円以上とされました。
なお、「資本金の額等」とは、株式会社の場合は資本金の額をいい、合名会社、合資会社又は合同会社の場合は出資の総額をいいます。また、個人事業主の場合は、事業所の確保や雇用する職員の1年間分の給与、設備投資経費など事業を営むために必要なものとして投下されている総額をいいます。

②常勤職員の雇用要件の必須化

改正前は上記①の資本金に関する要件(500万円以上)を満たせば常勤職員の雇用は不要とされていましたが、改正後は、資本金に関する要件(3000万円以上)に加えて、1人以上の常勤職員を雇用することが必要になりました。

③日本語能力要件の新設

申請者又は常勤職員のいずれかが相当程度の日本語能力(「日本語教育の参照枠」におけるB2(中上級レベル)相当以上)を有することが必要になりました。

④経歴(学歴・職歴)要件の新設

申請者が、以下のいずれかに該当することが必要となりました。

ア 経営管理又は申請に係る事業の業務に必要な技術又は知識に係る分野に関する博士、修士若しくは専門職の学位(外国で授与されたこれに相当する学位を含みます)を取得していること。
イ 事業の経営又は管理について3年以上の職歴(在留資格「特定活動」に基づく起業準備活動の期間を含みます)を有していること。

(3) 専門家による事業計画書の確認の義務化

在留資格決定時において提出する事業計画書について、その計画に具体性、合理性が認められ、かつ、実現可能なものであるかを評価するものとして、経営に関する専門的な知識を有する者(中小企業診断士、公認会計士又は税理士)による確認が義務付けられました。

(4) 実務への影響

今回の改正による新しい許可基準は、施行日である2025年10月16日以降に受け付けられた申請に適用されます。施行日前から「経営・管理」の在留資格で在留中の方が在留期間更新許可申請を行う場合については、施行日から3年の経過措置(2028年10月16日まで)が設けられており、当該期間内の申請であれば、改正後の許可基準に適合しない場合であっても、経営状況や改正後の許可基準に適合する見込み等を踏まえ、許否判断を行うこととされています。
今回の改正により、在留資格「経営・管理」の取得のハードルが上がったと言え、在留資格の申請の専門家の関与が益々必要になると解されます。