〒100-6114
東京都千代田区永田町2丁目11番1号
山王パークタワー12階(お客さま受付)・14階

東京メトロ 銀座線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 南北線:溜池山王駅 7番出口(地下直結)

東京メトロ 千代田線:国会議事堂前駅 5番出口 徒歩3分

東京メトロ 丸の内線:国会議事堂前駅 5番出口
徒歩10分(千代田線ホーム経由)

ニューズレター
Newsletter

牛島総合法律事務所 Client Alert 2023年4月12日号
<目次>

  1. コーポレート/会社法:
    公開買付制度及び大量保有報告制度の改正に向けた検討の開始
  2. M&A:
    経産省「公正な買収の在り方に関する研究会」の議論状況
  3. 訴訟/仲裁:
    仲裁法の改正(令和5年2月28日閣議決定)
  4. 不動産/ファイナンス:
    金融商品取引法等の一部を改正する法律案について
  5. 危機管理/不祥事対応:
    「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」(外国公務員贈賄罪に対する罰則の強化・拡充部分)の概要
  6. 独占禁止法:
    米司法省「Evaluation of Corporate Compliance Programs(ECCP)」を改訂
  7. 環境法:
    アスベスト処理の法規制とリスクコミュニケーションガイドラインの改正
  8. 労働法:
    改正職業安定法が求人メディア等に与える影響について
  9. 税務:
    アイルランド法人が日本における代表者の選任及び外国会社の登記をした場合の恒久的施設の有無の判定
  10. 事業再生/倒産:
    担保法制の見直しに関する中間試案と倒産手続についての留意点
  11. IT/個人情報/知的財産:
    「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」の公表
    CPRA施行規則の公表
    近時のGDPR課徴金事例
    韓国個人情報保護法の改正法公布
    個人情報越境標準契約弁法の公布
  12. 国際業務:
    [英国]職場でのモニタリング及び労働者の健康情報に関するガイダンス案の公表

1. コーポレート/会社法:公開買付制度及び大量保有報告制度の改正に向けた検討の開始

パートナー   石田 哲也
アソシエイト 遠田 昂太郎

(1) はじめに

今年3月2日、金融庁が開催した第51回金融審議会総会(以下「本総会」といいます。第51回金融審議会総会・第39回金融分科会合同会合 議事次第)で、今後、金融審議会が公開買付制度・大量保有報告制度等のあり方の検討を行うことになりました。日本の公開買付制度は1971年に、大量保有報告制度は1990年に導入され、それぞれその後の市場環境の変化等を踏まえた改正が行われてきましたが、2006年以降大きな改正は行われておりません。しかしながら、現在の公開買付制度及び大量保有報告制度については近年の市場環境の変化に伴う課題が指摘されておりましたことから、今後、金融審議会で検討がなされることとなりました。以下それぞれの課題について簡単に紹介いたします。

(2) 公開買付制度について

日本の公開買付制度は、3分の1ルール(市場外で3分の1超の株券等を取得する場合には、公開買付けによらなければならない)の導入(1990年)や、3分の1ルールの適用対象に立会外市場内取引(ToSTNeT取引等)を含めること(2005年~2006年)等の改正が行われてきました。後者の改正は、ライブドアによるニッポン放送をめぐる買収事案を背景としたものです。本総会では、近時の市場内取引等を通じた非友好的な買収事例の増加(東京機械製作所の事案等)といった市場環境の変化を受けた問題点が指摘されるに至っています。具体的には、公開買付制度の主な課題として、公開買付規制の適用範囲(市場内取引の取扱い、閾値等)の見直し、公開買付けの強圧性解消・低減のための方策等が指摘されています。

(3) 大量保有報告制度について

日本の大量保有報告制度は、その導入後、EDINETによる提出義務化等の改正(2005年~2006年)が行われてきましたが、2006年以降大きな改正はなされておりません。しかしながら、近時のパッシブ投資の増加、協働エンゲージメント(複数の株主が協働し投資先の会社と対話を行うこと)の広がり、企業と投資家の建設的な対話の重要性の高まりといった市場環境の変化を受け、現状の大量保有報告制度に関する問題点が指摘されています。具体的には、大量保有報告制度の主な課題として、共同保有者の範囲の明確化(協働エンゲージメントに関し、共同保有者への該当性判断が不明確なことへの対処)、現金決済型エクイティ・デリバティブ取引の取扱いの明確化(例えば、アクティビストがデリバティブを活用することで、大量保有報告書を提出することなく、実質的に大量の株式を取得可能な状態を作り出すことができることへの対処)等が指摘されております。

(4) 終わりに

今回検討がなされている公開買付制度・大量保有報告制度の改正は、近時の市場環境の変化を受け、取引の透明性や公正性を高め、一般株主の保護を図ることを想定したものです。 これらの制度について改正が行われた場合、日本のM&A実務に大きな影響を及ぼす可能性がありますので、今後の動向に注意する必要があると考えられます。

2. M&A:経産省「公正な買収の在り方に関する研究会」の議論状況

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 山内 大将
アソシエイト 佐藤 和哉

2023年3月28日、経産省において第6回「公正な買収の在り方に関する研究会」(以下「本研究会」といいます。)が開催され、公正な買収のあり方に関する新たな指針(以下「本指針」といいます。)の原案が示されました。

経産省は、これまで、買収に関する公正なルール形成を促すことで企業価値を高めるという考え方から、買収防衛策やMBO等について、その在り方やベストプラクティスを整理する指針及び報告書を策定してきましたが、これらの指針の策定から時間が経過する中で、現行の指針では取り上げられていない有事導入型の買収防衛策の発動及びその差止めを巡る司法判断や、独立社外取締役の増加等の上場会社を取り巻く社会経済状況の変化など、様々な状況変化が生じたことから、2022年11月に本研究会を立ち上げ、買収に関する当事者の行動の在り方等について検討を行っています。
本指針は、上場会社の経営支配権を得る買収を巡る当事者の行動の在り方を中心に、M&Aに関する公正なルール形成に向けて企業社会において共有されるべき原則論及びベストプラクティスを提示することを目的としており、2019年策定の「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「公正M&A指針」といいます。)は、MBO及び支配株主による従属会社の買収を中心としているのに対し、本指針では、公正M&A指針の考え方継承しつつ、買収者が上場会社の株式を取得することでその経営支配権を得る行為が主な対象として想定されています。本研究会は、本年春頃を目途に議論を取りまとめ、指針を策定(又は改訂)することを目指しています。
現時点における指針原案の概要は以下のとおりです。

 ➢ 上場会社の経営支配権を得る買収一般において尊重されるべき3つの原則
  • 企業価値・[一般]株主利益の原則
  • 株主意思の原則
  • 透明性の原則
 ➢ 買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範
  • 買収提案を巡る行動規範の一般論
  • 取締役会が買収の実行に向けて行動することを決定している場合
  • 買収提案の検討・交渉における具体的な行動の在り方
  • 特別委員会による機能の補充・留意点
  • 平時において取り得る方策
 ➢ 買収に関する透明性の向上
  • 買収者による情報開示・情報提供
  • 対象会社による情報開示
  • 株主の意思決定を歪める行為の防止
 ➢ 買収への対応方針・対抗措置
  • 買収への対応方針・対抗措置に関する考え方
  • 同考え方を前提に、これまでの司法判断も踏まえ、株主意思の尊重、必要性・相当性の確保、事前の開示、資本市場との対話という観点から言及された買収への対応方針・対抗措置

 

本指針は、買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範や買収防衛策の在り方など、実務上参照すべき具体的な指針となることが想定されていますので、その動向を注視する必要があると考えられます。

 

3. 訴訟/仲裁:仲裁法の改定(令和5年2月28日閣議決定)

パートナー 石川 拓哉
パートナー 薬師寺 怜
アソシエイト 長尾 玲佳

(1) はじめに

今年2月28日、経済取引の国際化の進展等の仲裁をめぐる諸情勢の変化に鑑み、仲裁法の一部を改正する法律案が閣議決定されました(仲裁法の一部を改正する法律案 | 内閣法制局 (clb.go.jp))。仲裁手続は裁判手続と比較し、手続や使用言語に柔軟性があること、非公開の手続のために企業の秘密や評判を守ることができること、及び条約の枠組みにより国境を越えた強制執行が可能となること等から、国際的な商事紛争の解決手段として重要な手段の一つになっています。もっとも、日本においては、仲裁専用施設や仲裁手続に精通した仲裁人が少ないといった事情から日本が仲裁地として選ばれることが少なく、欧米諸国やシンガポール等から後れをとっているのが実情です。そこで、国際仲裁の活性化の取組みの一つとして、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が策定した国際商事仲裁モデル法(平成18年改正)に対応し、最新の国際水準に見合った法制度を備えるべく、仲裁法を改正する法律案が閣議決定されるに至りました。

(2) 改正の概要

主な改正点は、➀暫定保全措置の明確化、②仲裁合意の書面性の緩和、及び③仲裁関係事件手続の変更にあります。以下詳述します。
1つ目は仲裁廷が命じることができる暫定保全措置(暫定保全措置命令)の内容を明確化した点です。当該改正は、仲裁判断だけではなく暫定的な保全措置にも執行力を認めた点に特に価値があります。
現行法上、仲裁廷がいかなる場合に、いかなる内容の暫定保全措置をすることができるか明らかではなく、仲裁判断をする仲裁廷の裁量にすべて委ねられています(現行仲裁法24条1項)。そこで、暫定保全措置の類型及びその発令要件を明文で定めることとし、例えば、①財産保全措置(一方当事者が支払に充てる財産を隠匿するおそれ等がある場合に、その当事者の財産の処分等を禁止する措置を命ずる旨の命令。仲裁法の一部を改正する法律案(以下「改正案」といいます。)24条1項1号、2号)や、②損害発生防止・原状回復措置(当事者に生じる損害等を避けるため、当該損害等の発生を防止し、又は紛争の対象となる物又は権利関係の現状の回復をする旨の命令。同項3号)、③証拠保全措置(必要な証拠の保全を命じる旨の命令。同項4号、5号)が新設されています。
また、現行法では、仲裁廷の暫定保全措置は裁判所を通じて執行できるものとはなっておりませんでした。改正案では、仲裁判断に基づく民事執行(仲裁判断の執行決定。現行仲裁法46条)と同様に、暫定保全措置命令の実効性を確保するべく、裁判所の執行等認可決定(改正案47条)を前提として、仲裁地(国外も含む。)を問わず裁判所が当該命令に基づく民事執行を許す旨(改正案48条)や、申立てにより、当該命令に違反した場合に裁判所が違反金支払命令を発することを許す旨(改正案49条)の暫定保全措置命令の強制的な実現の手続が規定されました。当該改正により、相手方当事者の行為を禁じる緊急性が高い場合において仲裁を利用するメリットが増加し、仲裁手続を利用する傾向が強まることが想定されます。
2つ目は、仲裁合意の書面性の要件を緩和した点にあります。現行法上、仲裁合意は書面によってしなければならないこととなっています(現行仲裁法13条2項)が、改正案では、書面によらないでされた契約(例えば、電子契約)においても、仲裁合意の内容が書面や電磁的記録により記録され、契約においてそれら書面等が引用されているときは、その仲裁合意は書面によってされたものとみなす旨を規定(改正案13条6項)し、書面要件を維持しつつもこれを緩和しています。近年、企業間取引の契約が電子化しつつあることからすると、書面要件の緩和により、かかる電子の契約にて仲裁合意を引用する実務運用が活発化することが想定されます。
3つ目は、仲裁手続を迅速に行うとともに、当事者の負担を軽減するため、仲裁手続に関する規律を変更した点にあります。具体的には、裁判所で行われる仲裁関係事件手続について、仲裁地が国内であれば、仲裁地や当事者の合意にかかわらず、東京地裁と大阪地裁にも申し立てられる旨の規定(改正案5条2項)や、一定の場合に仲裁判断書等の日本語訳の省略を認める規定(改正案46条2項等)があります。当該改正により、東京・大阪地裁に事件が集中することで両地裁の専門性が高まり、国際紛争解決に適した仲裁地として世界から評価されるようになることや、軽い負担で当事者が仲裁を利用できるため、紛争解決に仲裁を用いるケースが増加することが想定されます。

(3) 終わりに

現在、上記の仲裁法を改正する法律案は衆議院において審議されています。同法案が可決されることにより仲裁法が改正されれば、日本での仲裁手続が国際水準に引き上げられることになり、日本を仲裁地に指定することが容易になります。そのため、日本企業としても、外国企業との契約交渉において仲裁地の指定等で有利な協議を行えるよう、上記改正の内容について理解を深めておくことが重要です。

4. 不動産/ファイナンス:金融商品取引法等の一部を改正する法律案について

パートナー 塩谷 昌弘
パートナー 牧田 奈緒

「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、2023年3月14日、第211回国会において提出されています(国会提出法案等 : 金融庁 (fsa.go.jp))。今般の改正は、デジタル化の進展等の環境変化に対応し金融サービスの顧客等の利便の向上及び保護を図るための制度を整備するためのものです。内容は多岐にわたりますが、本稿では不動産ファイナンスに関連するものを取り上げて紹介します。

(1) 不動産特定事業共同契約に係るセキュリティトークンに関する規制

不動産特定共同事業契約に基づく権利を分散台帳技術(ブロックチェーン)を活用してトークン(デジタル)化し、流通させようとする動きが見られていることを踏まえ、他の電子記録移転権利と同様、当該トークンにも金融商品取引法の販売勧誘規制等のルールが適用されることになります。                                   
「電子記録移転権利」とは、有価証券の性質を有するセキュリティトークン(ST)(価値の裏付けがある様々な資産を、ブロックチェーン技術を用いてデジタル化したもの)を意味します。2019年6月の金融商品取引法の改正によりトークンに係る規制の整備がなされましたが、不動産特定共同事業契約に基づく権利は、集団投資スキーム持分としての特徴を有するものの、不動産特定共同事業法による事業監督が及んでいること等に鑑み、有価証券の1つである集団投資スキーム持分の定義から除かれており(特例事業の場合を除く。)、当該権利をトークン化したものを含めて、金融商品取引法上の販売・勧誘規制等が適用されない状況にあり、また、不動産特定共同事業法上も金融商品取引法のような規制の整備は行われていない状況にありました。しかし、ブロックチェーン技術を活用したサービスの市場規模は今後ますます拡大することが予想されているなか、投資家保護の観点からより実効的な監督体制の整備を図っていくため、不動産投資分野においてもトークンに対応した制度整備が求められ、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第二次中間整理(2022年12月21日)においても法改正が提言されているところでした。今般の改正はかかる提言を踏まえてなされたものであり、今般の改正後はかかるトークンについて、不動産特定共同事業法のみならず金融商品取引法上の各種規制にも対応する必要があります。

(2) ソーシャルレンディングに関する規制

ソーシャルレンディング等に関与する第二種金融商品取引業者について投資家に適切な情報提供等が行われなかった事例を踏まえ、ソーシャルレンディング等の運用を行うファンドの募集等を行う第二種金融商品取引業者に対して運用報告書の交付が担保されていないファンドの募集等を禁止するなど、運用報告に関する規定が整備されます。
「ソーシャルレンディング」とは、インターネットで集めた出資を企業等に貸し付ける仕組みを意味します。主として有価証券に投資する有価証券投資型ファンドに対しては投資運用業に関するルールが整備されていますが、実態として同様の投資・運用行為を行っているソーシャルレンディングを含むいわゆる事業型ファンドにはこうしたルールが適用されず、投資家被害防止の観点から必要な措置を講じるべきということが、前記ワーキング・グループでも指摘されていました。今般の改正後は、かかる分野においても運用報告に係る体制等を整備する必要があります。

(3) その他留意事項

金融商品取引業者等について、顧客属性に応じた説明義務が法定されるとともに、顧客への情報提供に関する規定が見直され、書面を原則としていた規定について、顧客のデジタル・リテラシーを踏まえつつ、書面とデジタルのどちらで情報提供することも可能とする改正等がなされます。なお、今般の改正後は、「金融サービスの提供に関する法律」の名称が「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に変更されますので、この点も実務上留意が必要です。

5. 危機管理/不祥事対応:「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」(外国公務員贈賄罪に対する罰則の強化・拡充部分)の概要

パートナー 大澤 貴史
アソシエイト 阿部  航

(1) 外国公務員贈賄罪に対する罰則の強化・拡充の概要

令和5年3月10日に、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。本法律案には、以下のとおり、外国公務員贈賄罪に対する罰則の強化と拡充が盛り込まれています。

  1. 自然人への法定刑を、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(又はこれらの併科)」から「10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金(又はこれらの併科)」に引き上げ
  2. 法人への法定刑を、「3億円以下の罰金」から「10億円以下の罰金」に引き上げ
  3. 自然人・法人ともに公訴時効を5年から7年に延長
  4. 日本企業の外国人従業員等による海外での単独贈賄行為を処罰対象とする適用管轄の拡大(両罰規定により法人の処罰対象も拡大)

(2) 外国公務員贈賄罪に対する罰則の強化・拡充の経緯

平成9年にOECDにおいて「外国公務員贈賄防止条約」が採択され、先進国を中心に外国公務員贈賄防止について当該条約の規定と同等の措置が講じられることになりました。我が国でも、平成10年に、不正競争防止法が改正されて外国公務員贈賄罪が新設されました。その後、OECD贈賄作業部会の相互審査等に対応して規律が強化されてきましたが、令和元年に実施された同作業部会第4期審査において、同罪に係る規律をさらに高いレベルとするための概要以下の4つの優先勧告が示されました。

  1. 自然人に対する罰金額の上限引き上げ
  2. 大規模汚職事案の抑止のため法人への法定刑の上限引き上げ等の対応
  3. 効果的な訴追確保のため公訴時効期間の延長
  4. 海外で活動する日本企業による賄賂が日本人以外の従業員によって支払われた場合を含めた管轄権の確保

このような状況等を受け、産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会の下に新たに設置された「外国公務員贈賄に関するワーキンググループ」が上記勧告への対応を検討していましたが、令和5年3月10日付で「外国公務員贈賄罪に係る規律強化に関する報告書」が取りまとめられ、これを受けて本法律案が作成されました。

(3) 本法律案において留意すべきポイント

本法律案が成立すれば、外国公務員贈賄罪に対する罰則が強化・拡充されることになりますので、外国公務員贈賄に関する社内研修や内部規定を改めて見直すなど、平時からの予防や有事の際の対応策等について改めて見直しておくことが重要です。
特に、日本本社の外国人従業員やエージェントが海外で贈賄を行った場合、現行法においては同社の日本人従業員か(日本人でなくとも)日本所在の従業員の関与がなければ同社は処罰対象ではありませんでしたが、本法律案の成立により、これらの関与がなくとも日本本社が処罰対象となります。したがって、外国人従業員やエージェントの教育や管理については見直しておく必要性が高いと考えられます。
平成17年の外国公務員贈賄罪の罰則引き上げから令和4年5月までの上記報告書が把握している適用事例は8件とされておりますが、令和4年11月には東南アジアの現地公務員に現金を渡したなどとして上場会社及びその元役員に同罪が適用されたとされており、本法律案による罰則の強化・拡充を機に本罪の立件が増える可能性も考えられます。

6. 独占禁止法:米司法省「Evaluation of Corporate Compliance Programs(ECCP)」を改訂

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 東道 雅彦
パートナー 川村 宜志
アソシエイト 池田 侑希

2023年3月3日、米国司法省(以下「DOJ」といいます。)は、企業コンプライアンス・プログラムの評価(Evaluation of Corporate Compliance Programs(ECCP))と題するガイダンスについて、二つの重要な改定を行ったことを発表しました。

1. ECCPについて

ECCPは、検察官が、刑事事件における訴追の判断を行う際に、対象会社のコンプライアンス・プログラムをどのように評価するかについての考え方を示すことを目的として策定されています。すなわち、検察マニュアルの「企業訴追の諸原則」は、検察官が企業の調査を実施し、起訴するかどうか等を決定する際に考慮すべき要素として、「違反時および起訴決定時における企業のコンプライアンス・プログラムの妥当性と有効性」などを挙げています。
また、米国の量刑ガイドラインは、適切な罰金額を計算する際には、企業が不正行為の時点で効果的なコンプライアンス・プログラムを実施していたかを考慮するよう助言しています。
今般の改訂は、従前のガイダンスをより詳細にするとともに、その内容を拡充するものです。

2. 改訂の詳細

DOJは、①ECCPの報酬体系及び結果管理の項目についての改訂を行い、改訂ECCPの下におけるコンプライアンス・プログラムの評価に際し、検察官が企業の報酬構造及び結果管理をより綿密に考慮することを明らかにするとともに、報酬の取り組みとクローバックに関するパイロット・プログラム(Pilot Program)と、②企業が従業員による個人用デバイスや通信プラットフォームの使用を管理する方法を評価するための新しいガイダンスを発表しました。

A) 報酬体系及び結果管理について

今回の改訂は、「コンプライアンスに対するインセンティブとコンプライアンス違反に対するディスインセンティブの確立」が効果的なコンプライアンス・プログラムの特徴であるとした旧版のガイダンスを更新し、その内容をより詳細にしたものです。改訂ECCPでは、企業がコンプライアンスに適切なインセンティブを与えているかを評価するに際し、①企業のコンプライアンスポリシー等に関する行動について、報酬を延期もしくはエスクローする報酬システムの設計により、コンプライアンスが奨励されているか、②コンプライアンス違反による報酬の返還または減額の規定があるか、当該規定が実際に実施されているか、③コンプライアンスが昇進の検討材料として、あるいはボーナスの重要な指標として用いられているか等、を考慮するとしています。

B) パイロット・プログラムについて

DOJは、報酬の取り組みとクローバックに関するパイロット・プログラムが、2023年3月15日の発効から3年間、DOJの刑事課が扱うすべての企業案件に適用されるとしています。当該パイロット・プログラムは、①コンプライアンスの強化、②罰金の減額の二部から構成されており、そのうち①では、刑事課が関与するすべての企業案件において、当該企業が報酬及び賞与システムについてのコンプライアンスに関する基準(例えば、コンプライアンス要件を満たさない従業員へのボーナスの禁止など)を策定することが求められるとしています。また、②では、刑事課は、企業が全面的に協力し、調査中の不正行為への関与者等から補償金を取り戻すためのプログラムの実施を適時かつ適切に行った場合には、罰金の減額を検討するとしています。

C) 個人用デバイス等の管理について

改訂ECCPの下で、検察官は、違法行為等の特定、報告及び調査等のための企業の方針及び仕組みを評価するにあたって、従業員による個人用デバイス等の使用を管理する企業のポリシーと手順を考慮するとしました。具体的には、①個人用デバイスや通信プラットフォーム、メッセージアプリ(短期間で自動消去されるものを含む)の使用を管理する企業のポリシーや手順が整備されているか、②当該ポリシーや手順が従業員に周知されているか、および③当該ポリシーや手順が継続的かつ一貫して実施されているか、を考慮するとしています。当該ポリシーにおいては、可能な限り会社がビジネス関連のデータや通信にアクセスし保全できることが求められます。

評価ガイダンスには、DOJが各企業に求めるコンプライアンスが反映されていますので、国際的に事業を行う企業は当該ガイダンスを慎重に検討し、自社のコンプライアンス・プログラムがガイダンスに合致しているかを検証する必要があります。

7. 環境法:アスベスト処理の法規制とリスクコミュニケーションガイドラインの改正

パートナー 猿倉 健司

(1) 改正大気汚染防止法の施行(2023年10月

国土交通省の発表によると、アスベスト含有建材が使用されている建物の解体工事は急激に増加してきており(2018年は約6万棟)、そのピークは2028年前後(約10万棟)であると推計されています。今後も、アスベスト含有建材を使用している建物の解体等工事は増加することが見込まれます(2038年でも約7万棟)。
厚生労働省の人口動態統計によると、中皮腫による死亡者は2019年には1466人とされ約20年間で約3倍にも増加しています。このようにアスベストによる健康被害が懸念される中、2020年6月に大気汚染防止法、2020年7月に石綿障害予防規則の改正がなされています。
建築物の解体等の作業を行うときに義務付けられているアスベスト含有の有無の調査(事前調査)について、原則として全ての材料について、設計図書等の文書での書面調査、目視での現地調査を実施し、アスベスト含有の有無が明らかとならない場合には分析調査を実施することが義務付けられました。2022年4月以降は、事前調査結果の都道府県への報告義務が新たに規定されています。
また、2023年10月以降は、一定の資格者(一般建築物石綿含有建材調査者、特定建築物石綿含有建材調査者等)により調査を実施することが義務付けられます。厚生労働省によれば、約12万人の資格者が必要であると試算されています。

(2) リスクコミュニケーションガイドラインの改訂(2022年3月)

2022年3月に、環境省から「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン 改訂版」が公表されました。
同ガイドラインでは、解体等工事の石綿飛散防止対策に関するリスクコミュニケーションを進めるにあたっての基本的な考え方や具体的な手順等を解説しています。
同ガイドラインにおいては、リスクコミュニケーションを行うに先立ち、法・条例等の規定の確認が求められますが、そこでは、法令のほか、リスクコミュニケーションに関する条例等の有無を確認し、条例等の規定がある場合はかかる規定に基づく対応が必要となることが指摘されています。また、アスベスト漏洩・飛散事故発生時等のコミュニケーションとしては、地方公共団体等に対し、事故の状況 ・対応状況等を迅速に報告する必要があることが指摘されています。
実務上もっとも悩ましいのは、アスベスト規制には、法令のほかに、規則、通知、ガイドライン等も理解する必要があり、また、自治体ごとに条例・規則・指導要綱などが存在するなど、理解しなければならない規制の内容も多く、その範囲が極めて広範でありかつ複雑であるということです。また、自治体においては、各規制に関して必ずしも明確な基準・解釈が設定されているわけではなく、特に環境行政においては自治体の裁量に委ねられている面があることから、注意が必要です。

(参考資料)

8. 労働法:改正職業安定法が求人メディア等に与える影響について

パートナー 山中 力介
スペシャル・カウンセル 柳田  忍

1. はじめに

従前より、就活サイト等を運営する事業者は、募集情報等提供事業者として職業安定法により規制されてきました。しかし、近年、求人メディアの多様化等により従来の「募集情報等提供事業者」の枠内に収まらない事業者が出てきたことや、実際の就業条件とは異なる情報が提供されるなどのトラブルが発生するようになったことなどから、募集情報等提供事業者に対する規制の強化が求められてきました。そして、2019年に起きたリクナビ事件(就活サイト「リクナビ」の運営企業が就活生の内定辞退率を予測して有償で企業に提供していた問題)を一つのきっかけとして、(1)募集情報等提供事業者の定義の拡大、(2)特定募集情報等提供事業者への届出制の適用、(3)募集情報等提供事業者に対する規制の強化等を内容とする職業安定法の改正がなされ(以下「改正法」といい、改正前の職業安定法を「旧法」といいます。)、2022年10月1日より施行されています。
以下において、募集情報等提供事業者に関する改正法の概要を説明します(なお、改正法には、本稿で説明するもの以外にも、求人企業や職業紹介事業者に対する新たな規制が含まれていますので、ご留意ください。)。

2. 改正法の概要

(1) 募集情報等提供事業者の定義の拡大

旧法下では、「募集情報等提供」とは、求人企業又は求職者の依頼を受けて、求職者又は求人企業に求人情報・求職者情報(募集情報等)を提供することを指していました。改正法により、依頼なくインターネット上で募集情報等を収集(クローリング)して提供する者や、他の職業紹介事業者や募集情報等提供事業者の依頼を受けて求人情報・求職者情報を提供する者も募集情報等提供事業者として規制を受けることになりました(改正法4条6項)。

(2) 特定募集情報等提供事業者の届出制の導入

旧法下では、募集情報等提供事業の実施には許可や届出は要件とされていませんでしたが、募集情報等提供事業の重要性に鑑み、事業者の実態を把握するために、改正法において、募集情報等提供事業者のうち求職者に関する情報を収集して行う者(これを「特定募集情報等提供事業者」といいます。)について届出制が導入されました(改正法43条の2)。特定募集情報等提供事業者に対しては、年に1回の事業概況報告書の提出が義務づけられています(改正法43条の5)。

(3) 募集情報等提供事業者に対する規制の強化

求人等に関する情報の的確表示

旧法下では、募集情報等提供事業者は、求人企業や求職者から依頼を受けて提供する情報が的確に表示されたものとなるよう、依頼をした者に対し、必要な協力を行う努力義務を負っていたに過ぎませんでした(旧法42条2項)。
改正法により、募集情報等提供事業者自身が、求人情報や求職者情報等を正確かつ最新の内容に保つ措置を講ずる義務を負い、また、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない義務を負うものとされています(改正法5条の4第1項、第3項)。

個人情報保護規定の適用

旧法は、募集情報等提供事業者を職業安定法上の個人情報の保護等に関する義務の対象としていませんでしたが、改正法においては、特定募集情報等提供事業者について以下の義務が課されることになりました(改正法5条の5第1項)。

  • 業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報を収集・使用・保管しなければならない
  • 業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない
  • 求職者等の個人情報をみだりに第三者に提供してはならない

なお、旧法下でも、募集情報等提供事業者は、個人情報保護法に基づき個人情報の利用目的の明示義務等を負っていましたが、改正法により、特定募集情報等提供事業者に対して、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項等の収集については、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合を除き原則として禁止されるなど(職業紹介事業者等指針*第5.1.(2))、個人情報保護法よりも厳しい規制が課されることになった点に注意が必要です。

* 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)

その他

改正法により、募集情報等提供事業者に対して、適切な苦情処理のための体制整備義務などが課されることになりました(改正法43条の7)。また、募集情報等提供事業者について、旧法においても認められていた行政指導に加えて、職業安定法違反が認められる場合に改善命令等の行政処分の対象とされることになりました(改正法48条の3)。

3. 結語

近年、厚生労働省がいわゆる就活ハラスメントを起こした企業への指導を徹底する方針を打ち出すなど、求職者の保護を意図した規制が強化される傾向が見られますので、求職者を巡る規制の動向については今後も注視する必要があると考えられます。

9. 税務:アイルランド法人が日本における代表者の選任及び外国会社の登記をした場合の恒久的施設の有無の判定

パートナー 大澤 貴史
オブ・カウンセル 荒関 哲也

(1) はじめに

東京国税局は、2023年3月8日付けで「アイルランド共和国に本店を有する法人が我が国会社法の規定に基づき日本における代表者の選任及び外国会社の登記をし、その代表者が日本において一定の行為をした場合の恒久的施設の有無の判定」(文書回答事例)を公表しました(以下「本件回答」といいます。)。本件回答は、日本のユーザー向けのオンラインマーケットプレイスを運営するアイルランド法人(以下「本件アイルランド法人」といいます。)が、一定の条件で外部弁護士(以下「本件弁護士」といいます。)を日本における代表者として定め、外国会社の登記をした場合、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約」(以下「日愛租税条約」といいます。)における恒久的施設に該当しない旨判断したものです。

(2) 背景

外国法に準拠して設立された外国会社(会社法2条2号)が日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者(一人以上は日本に住所を有する者である必要があります)を定めなければならず(会社法817条1項)、日本における代表者を定めた外国会社は登記をする必要があります(会社法933条)。
しかしながら、一部の海外IT大手は日本における代表者を定めて外国会社の登記をすることで法人税を負担する事態となるリスクを懸念して、これまで登記等をしてこなかったようですが、これにより、インターネットで中傷被害を受けた者が加害者の発信者情報開示を海外IT大手に請求する手続が円滑に行われないなどとの指摘があり、法務省及び総務省が電気通信事業者である外国会社に登記申請を行うよう要請していたところです。本件回答にかかる照会をした本件アイルランド法人も、法務省からの要請を受け、会社法に基づき日本における代表者を定め外国会社の登記していました。

(3) 本件回答の概要と留意点

本件アイルランド法人と日本における代表者となる本件弁護士との間の契約には概要以下の内容が含まれていました。

① 本件アイルランド法人と本件弁護士が以下を確認・合意する。
 ➢ 本件アイルランド法人は、法務省の要請に応えて本件弁護士を日本における代表者とし、外国会社として登記する。
 ➢ 本件弁護士は、これまで本件アイルランド法人の事業に従事・関与したことがなく、今後も従事・関与せず、また、その権利・権限を付与されない。
② 本件弁護士は、本件アイルランド法人を当事者とする裁判書類の送達がされた場合に、送達のあった事実を伝えるとともに、裁判書類の写しを送付する(以下「本件送達等行為」といいます。)。

なお、本件アイルランド法人は、本件弁護士が同契約に基づいて本件送達等行為を行うこととなる場所を同法人の事業のために使用する権限は有しないということです。
本件回答は、上記の内容等を前提に、本件弁護士あるいは本件送達等行為を行う場所が日愛租税条約に規定する恒久的施設に該当しないと判断しました。これにより、一定の条件で日本における代表者を定めて外国会社の登記をした場合、恒久的施設として認定され法人税を負担することにはならないことが明確化されました。
もっとも、本件回答は上記の合意内容を前提とすることや、法人税法上の恒久的施設とは異なる定めがある日愛租税条約における恒久的施設に該当しない旨の判断(法人税法2条12の19号但書参照)であることにご留意ください。

10. 事業再生/倒産:担保法制の見直しに関する中間試案と倒産手続についての留意点

パートナー 東山 敏丈
パートナー 川村 宜志
パートナー 猿倉 健司
アソシエイト 椙村 昂平

(1) はじめに(中間試案の概要)

法制審議会担保法制部会は、2022年12月6日の第29回会議において「担保法制の見直しに関する中間試案」(以下「中間試案」といいます。)を取りまとめました。その内容は、動産・債権の譲渡担保等に関する従来の判例法理及び実務慣行をベースとした法制度の明文化及び新たな法制度の導入等、多岐に亘ります。
融資実務においては不動産担保や経営者の個人保証が重視されてきましたが、これらの担保及び保証が事業展開や事業再生等を阻害する要因となっているといった弊害も指摘されていました。そこで、多様な資金調達手法を整備するため、動産や債権を担保として活用することが考えられています。現行民法では動産の担保として質権が存在しますが、担保目的物の占有を事業者の元にとどめておくことができず事業に使用することはできませんでした。一方、担保権設定者が所有する動産の占有を維持したまま担保の目的とする規定は存在しません。
中間試案では、不動産以外の財産を担保の目的とする取引の実情等に鑑み、その法律関係の明確化や安定性の確保等の観点から、担保に関する法制の見直しを行うべく、譲渡担保や所有権留保等の効力、対抗要件の優劣や実行方法(第1章ないし第3章)、法的倒産手続との関係(第4章)を明文化する提案がなされています。また、事業担保権や、動産及び債権以外の財産権を目的とする担保権(第5章)についても検討が行われています。

(2) 法的倒産手続との関係(第4章)

これまで譲渡担保や所有権留保等の非典型担保について、倒産法がどのように適用されるかはこれまで解釈・運用に委ねられてきた部分が大きいため、今般の担保法制の見直しにあたり、倒産手続における担保権の取扱いについて、概要以下のとおり規律を明確化することが議論されています。なお、中間試案においては、譲渡担保や所有権留保等の担保取引により債権者が取得する権利を「新たな規定に係る担保権」と呼称していますので、以下では当該呼称を用います。

(1) 別除権としての取扱い(第16)

破産手続及び再生手続において、新たな規定に係る担保権を有する者を別除権者、更生手続において、更生担保権者として、それぞれ扱うものとする。

(2) 担保権実行手続中止命令に関する規律(第17)

新たな規定に係る担保権の実行手続を、民事再生法上の担保権実行手続中止命令の適用対象とするとともに、実行手続の開始前に発令されるものとして担保権実行手続禁止命令の規定を設ける。担保権実行手続取消命令の規定を設ける必要があるかどうかについて、引き続き検討する。

(3) 倒産手続開始申立特約の効力(第18)

再生手続開始又は更生手続開始の申立てを理由として、新たな規定に係る担保権の目的物を設定者の責任財産から逸出させることになる契約条項は無効とする。なお、集合動産や集合債権を目的物とする場合に、同様の事由の発生を理由として設定者の処分権限や取立権限を喪失させる旨の特約の有効性については、引き続き検討する。

(4) 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力(第19)

倒産手続開始後に、新たな規定に係る集合動産譲渡担保又は将来債権譲渡担保の目的の範囲に新たに加入した動産又は債権がある場合、当該財産に対して担保権の効力が及ぶか否かに関して、動産又は債権についてそれぞれ複数の案が提示されており、いずれかの案によるものとする。

(5) 担保権の実行がされた担保目的財産に係る費用の負担(第20)

第19の案の1つ(【案 19.1.1】)が採用された場合に、倒産手続が開始された後に目的債権を発生させる費用を設定者が支出し、担保権が実行された場合に設定者が償還を受けることができるとするための規律について複数の案が提示されており、引き続き検討する。

(6) 否認(第21)

個別の動産や債権等が新たな規定に係る集合動産譲渡担保又は将来債権譲渡担保の目的の範囲に加入した場合に、どのような要件で偏頗行為否認の対象となるかについて、引き続き検討する。

(7) 担保権消滅許可制度の適用(第22)

新たな規定に係る担保権について、破産法、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とする。

(3) 実務への影響

「新たな規定に係る担保権」が創設されることによって、経営者の個人保証以外の担保が充実する結果、経営者個人の負担が減り、新たな起業が促進されることが予想されます。倒産手続との関係では、担保権実行手続禁止命令等の新たな制度が創設されるため、実務における影響は大きいものと思われます。
より詳細な内容については、担保法制の見直しに関する中間試案の補足説明もご参照ください。
中間試案に関する意見募集に対しては、各団体から様々な意見が公表されていますので(たとえば、一般社団法人全国銀行協会、公益社団法人リース事業協会、日本弁護士連合会、日本司法書士連合会、経営法友会など)、今後の動向に留意する必要があります。

11. IT/個人情報/知的財産:「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」の公表CPRA施行規則の公表、近時のGDPR課徴金事例韓国個人情報保護法の改正法公布個人情報越境標準契約弁法の公布

パートナー 影島 広泰
アソシエイト 殿井 健幸

(1) 【国内】「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」の公表

2023年3月23日、個人情報保護委員会は、「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書」を公表しました。本報告書は、顔識別機能付きカメラシステムを導入する際に、個人情報保護法の遵守や肖像権・プライバシー侵害を生じさせないための観点から留意すべき点や、被撮影者や社会からの理解を得るための自主的な取り組みについて、個人情報保護委員会が設置した検討会が整理を行ったものです。
本報告書は、個人情報取扱事業者が、顔識別機能付きカメラにおいて、顔画像及び顔特徴データを取り扱う場合を中心的な対象範囲としています。また、本報告書は、顔識別機能付きカメラシステムにより顔画像を取り扱うことについて事前に本人の同意を得ることが困難な、不特定多数の者が出入りする大規模な空間において、犯罪予防や安全確保のために顔識別機能付きカメラを利用する場合を対象としております(マーケティングなどの商用目的での利用は対象とされていません。)。
本報告書においては、顔識別機能付きカメラシステムについて個人情報保護法の関連する条文について整理が行われており、今後、犯罪予防や安全確保を目的とする顔識別機能付きカメラの利用について、本報告書を踏まえた適切な運用がされることが期待されます。

(2) 【米国】CPRA施行規則の公表

2023年3月30日に、カリフォルニアプライバシー権法(CPRA)施行規則の最終案が、カリフォルニア州行政法制局(OAL)に承認され、直ちに施行されました。
2023年1月1日にCPRAが施行済みであり、2023年7月1日よりCPRAの違反事例について当局の執行が開始するため、日系企業においても、施行規則の内容を踏まえ、プライバシーポリシーの策定・改訂をはじめとする対応を2023年の上半期中には終える必要があります。
ニューズレター
・「カリフォルニア州プライバシー権法(CPRA)による改正に対応したCCPA規則が施行

(3) 【欧州】GDPR課徴金事例

2023年3月8日、ノルウェー当局は、米国企業に対してGDPR違反により、500,000クローネの課徴金を科す決定を行いました。当該米国企業は、2021年5月21日頃、自社の従業員に関する個人データに対して不正アクセスを受け、2021年7月19日には不正アクセスを受けた個人データの中に、ノルウェーを含む欧州域内の従業員の個人データが含まれていることを認識したにもかかわらず、2021年9月24日までノルウェー当局にその旨を通知しませんでした。GDPR33条1項は、個人データ侵害が発生した場合、管理者は、その侵害に気づいた時から遅くとも72時間以下に、監督当局に対して個人データ侵害を通知しなければならないとしています。
2022年8月には、日系企業の欧州子会社に対する初の課徴金事例が発生しており、欧州に拠点を有する日系企業は、今後より一層の注意が必要となります。

(4) 【韓国】韓国個人情報保護法の改正法公布

2023年2月27日、韓国の個人情報の保護に関する包括的な法令である個人情報保護法の改正(改正PIPA)が成立しました。改正PIPAは、データ主体の同意を得ずに個人情報の収集・利用を行うことができる場合に関する要件の緩和、個人情報の国外移転を行うことができる場合の拡充、データ主体の権利の拡大(データ・ポータビリティの権利、自動化された決定に対する説明を求める権利・拒否権の新設)等の内容を含んでいます。
改正PIPAは、データ・ポータビリティの権利及び自動化された意思決定に関する権利に関する規定を除き、2023年9月から施行される予定ですので、日系企業においても対応を行う必要があります。

(5) 【中国】個人情報越境標準契約弁法の公布

2023年2月24日、中国の国家インターネット情報弁公室は、個人情報越境標準契約弁法を交付しました。本弁法は、個人情報処理者が国外受領者と個人情報越境標準契約(中国版SCC)を締結することによって中国国外に個人情報を提供する場合の規律を定めたもので、本文と別紙(中国版SCC)によって構成されています。中国から中国国外に個人情報の越境活動を行っている日本企業においては、2023年11月30日までに、中国版SCCに準拠したデータ移転契約を締結した上で当局に届出を行う必要があることにご注意ください。
ニューズレター
中国で個人情報越境標準契約(中国版SCC)弁法が交付
特集記事
中国の個人情報保護法(データ3法)の下での国外移転の実務(前編:制度概要)
中国の個人情報保護法(データ3法)の下での国外移転の実務(後編:実務対応)
「重要データ」の中国からの越境移転

12. 国際業務:[英国]職場でのモニタリング及び労働者の健康情報に関するガイダンス案の公表

パートナー 井上 治
パートナー 石川拓哉
パートナー 薬師寺怜
パートナー 辻 晃平

英国の独立したデータ保護機関である英国個人情報保護監督機関(ICO)は、2022年10月12日、職場でのモニタリングに関するガイダンス(以下「モニタリングガイダンス」)案を、また、2022年10月27日には、労働者の健康情報に関する雇用慣行とデータ保護に関するガイダンス(以下「ヘルスデータガイダンス」)案を、それぞれ発表しました。

モニタリングガイダンス及びヘルスデータガイダンスは、Q&A形式で作成されており、データ保護法に基づき労働者をモニタリングする際や健康情報を取り扱う際のデータ保護義務について、雇用主に実務的な指針を提供し、良いプラクティス(good practices)を促進することを目的としています。モニタリングガイダンスについての意見募集は2023年1月20日に、ヘルスデータガイダンスについての意見募集は2023年1月26日にそれぞれ締め切られました。現行のガイダンスとしては、1998年データ保護法に基づき2011年に公表されたICO雇用慣行コードが存在するものの、英国一般データ保護規則(英国GDPR)及び2018年データ保護法が制定されてからは更新されていませんでした。ICOは、上記意見募集を、現行のICO雇用慣行コードを英国GDPRに焦点を当てた新しいガイダンスに置き換えるプロジェクトの第一段階と位置付けています。

(1) モニタリングガイダンス

モニタリングガイダンスの主な注目点は、以下のとおりです。

  • 同ガイダンスは、公共民間を問わないあらゆる組織で、名称(従業員、請負業者、ボランティア等)や契約関係の如何にかかわらず、同組織のために働く労働者を擁するものに広く適用される。
  • 労働者の情報を処理するには、同意、契約、法的義務、重要な利益、公的な業務、正当な利益など、英国GDPR第6条が定める特定の適法な根拠が必要である。ただし、同意は自由に与えられるものでなければならないため、雇用者・被雇用者間の力の差に鑑みて、同意は処理の根拠として通常不適切と考えられる。さらに、人種、政治的見解、宗教、組合員、遺伝学、バイオメトリクス、健康状態、性別などの特別な種類のデータを取得する予定がある場合は、上記の適法な根拠に加え、英国GPDRの第9条が定める「特別カテゴリー条件」(special category condition)と呼ばれる条件を満たす必要がある。
  • モニタリングを開始する前にデータ保護影響評価(DPIA)を実施することは良いプラクティスであり、労働者やその他の者の利益に高いリスクをもたらす可能性のある処理を行う場合には、事前にDPIAを行わなくてはならない。なお、ICOは、DPIAを促進するためのいくつかのチェックリスト及びテンプレートを提供している。
  • 自動化された意思決定(※)を実施する場合には、英国GDPR第22条に基づいて以下のことを行わなくてはならない
      (i) 自動化された意思決定の実施について労働者に知らせる。
      (ii) 労働者が自動化された意思決定の実施について人的介入を要求したり、意思決定に異議を唱える簡便な方法を提供する。
     (iii) 自動化された意思決定にかかるシステムが意図した通りに機能していることを確認するために、定期的にチェックする。
  • 同ガイダンスは、「自然人を一意に識別する目的で処理される場合、バイオメトリックデータは常に特別な種類のデータに該当する」と警告しており、適法な根拠に加え、「特別カテゴリー条件」も満たす必要がある。
    勤怠管理及びモニタリングに使用されるバイオメトリクスデータには、指紋、顔認識テンプレート、及び音声認識テンプレートが含まれる。
(※)個人データの自動処理(主にコンピュータによるデータ処理)に基づく、人を介在させない意思決定をいい、労働者に関する法的効果を発生させ、または、同様の重大な影響を及ぼすプロファイリングを含むとされています。なお、プロファイリングは、英国GDPRにおいて、「自然人に関する特定の個人的側面を評価するための(特に当該自然人の仕事上のパフォーマンス、経済状況、健康、個人的嗜好、興味、信用性、行動、場所または移動に関する側面を分析・予測するための)個人データの使用による、個人データの自動処理を意味する」と定義されています。

(2) ヘルスデータガイダンス

ヘルスデータガイダンスの主な注目点は、以下のとおりです。

  • 同ガイダンスにおいて、「労働者」(worker)または「元労働者」(former worker)は「従業員、請負業者、ボランティア、ギグワーカー、プラットフォームワーカー」など、すべての雇用関係を意味する。
  • 同ガイダンスは、「健康情報は、労働者について処理する可能性のある最も機微性の高い個人情報の一つである」としたうえで、このような機微性に鑑み、労働者の健康情報の取扱いを最小化すべきと勧告している。
  • 健康情報を処理するためには、英国GDPR第6条が定める適法な根拠が必要である。雇用者と労働者の間の力の不均衡を考慮すると、同意は処理の根拠として通常不適切であり、その他の根拠による必要がある。
  • 健康情報は特別な種類のデータであるため、英国GPDR第9条が定める「特別カテゴリー条件」も満たす必要がある。
  • 労働者の健康情報は特別な種類のデータであるため、特に安全に保管する必要がある。そのため、すべての雇用関係記録に特に高いレベルのセキュリティを適用しない限り、労働者の健康情報について特別な取扱いをする必要がある可能性が高い。
  • 労働者の健康情報を処理することの機微性及び権利侵害の可能性に鑑み、DPIAを実施することは良いプラクティスであり、労働者やその他の者の利益に高いリスクをもたらす可能性のある処理を行う場合には、事前にDPIAを行わなくてはならず、場合によっては事前にICOに相談する必要がある。
  • なお、同ガイダンスは、労働者の雇用・採用における健康診断・検査(遺伝子検査を含む)の利用について、詳細な定めを置いている。

これらのガイダンス案は最終的なものではなく、また、労働者の情報の取扱いについて新たな法的要件を課すものではないものの、規制当局が現行法の下で「良いプラクティス」と考えるものを定めているため、ガイダンス案に従った情報の取扱いを行うことで規制当局から制裁(及びそのリスク)を低減することができるという点で、現時点でも重要性が高いと考えられます。
また、各ガイダンス案についてみると、モニタリングガイダンスについては、リモートワーカーの監視やバイオメトリックデータの取扱いといった、新しい働き方や新技術に関する具体的な指針を述べている点が、ヘルスデータガイダンスについては、ICOが労働者の健康情報を最も機微性の高い個人情報の一つであると明言したうえで、労働者の健康情報の取扱いを最小化すべきと勧告している点が参考になります。特に、ヘルスデータガイダンスとの関係では、コロナ禍において、労働者のコロナウィルスへの感染の有無に関する情報が社内メール等で頻繁にやり取りされるようになった昨今の状況に鑑み、労働者の健康情報が漏えいするリスクが高まっています。ICOが健康情報を重要視していることを踏まえると、労働者の健康情報が漏えいした場合に厳しい制裁が科されるリスクがあります。そのような場合に備え、ガイダンス案に沿って健康情報を取り扱うことは制裁(及びそのリスク)を低減するうえで有益であると考えられます。
上述のとおり、これらのガイダンスは、名称や契約関係の如何にかかわらず、あらゆる労働者との関係で適用されるとされているため、英国に拠点を有する企業は、労働者の情報を取り扱うにあたり、これらのガイダンスを参照することが望ましいと考えられます。

ニューズレターのメール配信はこちら