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牛島総合法律事務所 Client Alert 2024年5月17日号
<目次>

  1. コーポレート/会社法:
    「重要な契約」の開示拡充に係る内閣府令等の改正の概要
  2. M&A:
    公開買付制度及び大量保有報告制度に関する金融商品取引法改正案の国会提出
  3. 訴訟/仲裁:
    株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡の効力(最判令和6年4月19日)
  4. 不動産/ファイナンス:
    金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案について
  5. 事業継承/株主権:
    日本商工会議所、「『事業承継に関する実態アンケート』調査結果」を公表
  6. 危機管理/不祥事対応:
    「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析-不正の早期発見・是正に向けた経営トップに対する提言-」の公表
  7. 独占禁止法:
    石油化学コンビナートの構成事業者によるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為に係る相談事例について
  8. 環境法:
    資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案
  9. 労働法:
    フリーランスに対するハラスメント防止の体制整備義務について
  10. 税務:
    非上場株式の相続税評価について財産評価基本通達第6項の適用が否定され、納税者側が勝訴した事例(東京地裁令和6年1月18日判決)
  11. 事業再生/倒産:
    「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」の改定
  12. IT/個人情報/知的財産:
    個人情報保護法改正の動向等
  13. 国際業務:
    セキュリティ・クリアランス法案が衆議院で可決

1. コーポレート/会社法:「重要な契約」の開示拡充に係る内閣府令等の改正の概要

パートナー  石田 哲也
アソシエイト 木村 洋介

2023年12月22日、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年内閣府令第81号)が公布され、2024年4月1日、同改正内閣府令が施行されました(関連する改正ガイドラインも同日より適用されます。)。本改正は、「重要な契約」として開示すべき対象や内容を明確化することで、投資判断にとって重要な情報の提供を推進し、企業と投資家との間の円滑なコミュニケーションを強化するものです。

以下、本改正の概要をご説明します。

(1) 「重要な契約」として明示された3つの類型

本改正は、「重要な契約」として開示が義務づけられる契約として、①企業・株主間のガバナンスに関する合意、②企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意、③ローン契約と社債に付される財務上の特約の3つの類型を明示しました。これら合意等で施行日以後に締結されたものは、2025年3月期以降の有価証券報告書等で「重要な契約」として開示すべきことが明確化されました。さらに、③については、2025年4月1日以降に提出される臨時報告書にも記載する必要があります。また、これら合意等で施行日前に締結されたものについては、開示について一定の猶予期間が設けられております。

(2) 企業・株主間のガバナンスに関する合意

会社と株主との間で締結される(a)役員候補者指名権の合意、(b)株主による議決権行使に制限を定める旨の合意、(c)株主総会又は取締役会の決議事項について株主の事前承諾を要する旨の合意は、「企業・株主間のガバナンスに関する合意」として、有価証券報告書等で開示すべきこととなりました。

(3) 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意

会社と大量保有報告書を提出している株主との間で締結される(a)保有株式の譲渡等について会社の事前承諾を要する旨の合意、(b)保有株式の買増しの禁止に関する合意、(c)株式の保有割合の維持の合意、(d)契約終了時の保有株式の売渡請求の合意は、「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」として有価証券報告書等で開示すべきこととなりました。

(4) ローン契約と社債に付される財務上の特約

臨時報告書における開示

財務上の特約が付された金銭消費貸借契約の締結又は社債の発行をした場合で、金銭消費貸借契約の債務元本額又は社債の発行額が会社の連結純資産額の10%以上である場合、臨時報告書で財務上の特約の内容等を開示すべきこととなりました。なお、連結子会社との間で金銭消費貸借契約を締結した場合又は連結子会社に対し社債を発行した場合は臨時報告書の提出は不要です。

開示内容は、財務上の特約の内容のほか、契約締結(社債発行)日、元本額(発行価額)、弁済期限(償還期限)及び契約(社債)に付された担保の内容となります。財務上の特約の内容としては、抵触事由の基準となる財務指標の内容やその数値、財務上の特約に抵触した場合の効果等を記載することが考えられます。

有価証券報告書等における開示

財務上の特約が付された金銭消費貸借契約の締結又は社債の発行をした場合で、金銭消費貸借契約の債務又は社債の期末残高が会社の連結純資産額の10%以上である場合、有価証券報告書等で財務上の特約の内容等を開示すべきこととなりました。

(5) 終わりに

以上のように、本改正によって、「重要な契約」として開示が必要な契約類型が明示されました。紙幅の都合上、詳細な開示事項及び開示内容については言及しておりませんが、関連情報を適宜アップデートの上、2025年3月期以降の有価証券報告書等へ対応することが必要です。

2. M&A:公開買付制度及び大量保有報告制度に関する金融商品取引法改正案の国会提出

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 百田博太郎

 

2024年3月15日、金融庁は、金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案(以下「本改正案」といいます。)を国会に提出しました。本改正案は、2023年12月25日付け金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告」における公開買付制度及び大量保有報告制度の改正に向けた提言を踏まえたものです。

以下では、本改正案の内容のうち、公開買付制度及び大量保有報告制度に関し、その概要を紹介します。

(1) 公開買付制度の改正案

本改正案は、以下の①及び②のとおり、規制対象取引を拡大する内容となっています(改正金融商品取引法27条の2第1項1号)。
①市場内取引(立会内)も「3分の1ルール」(公開買付けを義務付ける規制)の適用対象にする。
②公開買付けを義務付けるか否かの閾値を「3分の1」から「30%」に引き下げる。

現行法上、市場内取引(立会内)は、原則として公開買付けを義務付ける規制の対象外でしたが、本改正案はこれを規制対象としています。本改正案の上記内容は、近時の市場内取引等を通じた非友好的買収事例(例えば、東京機械製作所の事案等)の増加、M&Aの多様化といった環境変化を踏まえ、取引の適正化・公正性の向上を図るものです。また、閾値の引下げについては、議決権行使割合や諸外国の水準も踏まえています。

なお、現行法上、一定の場合に市場内取引(立会内)にも公開買付けを義務付ける「急速な買付け等」の規制(※1)が定められていますが、上記①のとおり市場内取引(立会内)を「3分の1ルール」の適用対象とする場合には、「急速な買付け等」の規制が適用される典型的な場面においても「3分の1ルール」が適用されることから、本改正案においては、「急速な買付け等」の規制の条項(現行法27条の2第1項4号)が削除されています。

(※1)「急速な買付け等」の規制(現行法27条の2第1項4号)とは、3か月以内に、市場内外を問わず10%を超える株式を取得し、当該取得の中に市場外取引またはToSTNeT取引等による買付け等が合計5%を超えて含まれており、当該取得後の所有割合が3分の1を超える場合には、公開買付けを義務付ける規制です。

(2) 大量保有報告制度の改正案

本改正案は、以下の①ないし③の全てに該当する場合には「共同保有者」に該当しないこととしています(改正金融商品取引法27条の23第5項)。
①当該保有者及び他の保有者が金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者又は投資運用業を行う者に限る。)、銀行その他の内閣府令で定める者であること
②共同して重要提案行為等を行うことを合意の目的としないこと
③共同して当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することの合意(個別の権利の行使ごとの合意として政令で定めるものに限る。)であること

本改正案の上記内容については、金融庁の説明資料において、複数の投資家が「経営に重大な影響を与えるような合意」を行わない限り、「共同保有者」に該当しないことを明確にしたものであるとされています。具体的には、配当方針や資本政策の変更といった企業支配権に直接関係しない提案を共同して行う場合等については「経営に重大な影響を与えるような合意」には該当せず(※2)、「共同保有者」に該当しないこととすることが想定されています。

現行法上、大量保有報告制度における「共同保有者」の範囲が不明確であることが協働エンゲージメントの支障となっていると指摘されていましたが、本改正案は、かかる指摘を受けて、「共同保有者」の範囲を明確にすることを意図したものです。

(※2)昨年末の上記報告では、重要提案行為等の範囲の明確化又は限定について提言されており、具体的には、上記の配当方針や資本政策の変更といった企業支配権に直接関係しない提案行為を目的とする場合については、一定の態様による場合に限り、重要提案行為等に該当する規律とすることが適当である旨が言及されています。したがって、今後は、これに対応した政令の見直し等が進められることによって重要提案行為等の範囲が明確になるのではないかと考えられます。

(3) 終わりに

上記(1)及び(2)の公開買付制度及び大量保有報告制度の改正案はM&A実務に多大な影響を与えることになるため、改正に向けた今後の動向を注視する必要があるものと考えられます。

3. 訴訟/仲裁:株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡の効力(最判令和6年4月19日)

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 薬師寺 怜
アソシエイト 片桐 和也

(1) はじめに

株券発行前にした株券発行会社の株式の譲渡については、「株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。」とされるとともに(会社法128条1項)、「株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。」と規定されており(会社法128条2項)、会社との間では効力を生じないことは明確ですが、譲渡当事者間においてもその効力が否定されるかについては見解が分かれていました。最判令和6年4月19日(以下「本判決」といいます。)は、この点について最高裁判所として初めて判断を示し、譲渡当事者間においてはその効力が否定されることはないと判示した点で重要な意義をもつものと考えられます(※1)。

※1:裁判所ウェブサイト https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/912/092912_hanrei.pdf

(2) 事案の概要

本件は、ある株券発行会社において、出資により株主となった当初株主らから株式が転々譲渡される過程において、当該会社の設立から約13年後に当時の株主らが債権者代位権に基づき当初株主らの株券発行請求権を代位行使して自らに株券を発行させ、その後更に株式を譲渡したところ、当該株式の譲受人から当初株主らに対して、自己が株主であることの確認を求める訴訟が提起されたという事案です。なお、当該会社においては、上記株式に関し、設立以来、上記株券の発行までの間に株主からの株券の交付を求められたこともなく、一度も株券を発行したことはありませんでしたが、各株式譲渡についてはいずれも会社において譲渡が承認されていました。

(3) 判旨

本判決は、上記の事案において、次の①及び②の理由から、「株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である」と判示し、会社法128条1項に関する解釈につき最高裁判所としての立場を明確にしました。

① 会社法128条の構造に関し、株券の発行前にした譲渡について、仮に同条1項が適用され、株券の交付がないことをもって、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同項とは別に株券発行会社に対する関係に限って同条2項の規定を設けた意味が失われることとなる。

② 株券の発行前にした譲渡につき、株式が、意思表示のみによって譲渡することができるという原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定すべき合理的必要性があるということもできない。

また、本判決は、「株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文・・・により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である」とした上で、「株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができる」と判示し、株券発行請求権の代位行使に際して、株式の譲受人自らが株券の交付を受けることで有効な株券発行と認められる旨を明確にしました。

(4) おわりに

現在は非上場会社においては株券不発行会社が多数となっているものの、設立時期の古い株券発行会社においては、株券が発行されないまま株式譲渡が行われていることもままあり、株式譲渡の有効性や株主の特定について悩ましい問題が存することがままありました。また、従前、株式取得によりこのような株券発行会社を買収するM&A取引等においては、株券発行前の株式譲渡の効力に見解の対立があったことから、株券発行前であるか否かを問わず、株券の交付を欠いた株式譲渡については無効であることを前提に、瑕疵を治癒する方法を検討すること(例えば、株券を発行した上で、株券の交付を伴う形で過去の各株式譲渡の全てをやり直すという手続をとること等)が行われていました。
今後は、M&A取引等においても、本判決を前提に、株式譲渡の有効性や株主の特定について検討することになるものと思われます。
このように、本判決は、株券発行前にした株式の譲渡の効力について明確な基準を示すものとして実務上重要な意義を有するものと考えられます。

4. 不動産/ファイナンス:金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案について

パートナー 小山 友太
アソシエイト 甲斐 成輝

1.はじめに

令和6年3月15日、金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案(閣法第56号)(以下「本改正案」といいます。)が第213回国会に提出されました(金融庁ウェブサイト)。

本改正案は、現在国会において審議中であり、今後成立する法律においてその内容が変わり得るものではありますが、大要、(1)投資運用業者の参入促進、(2)非上場有価証券の流通活性化、(3)大量保有報告制度の対象明確化、(4)公開買付制度の対象取引の拡大という4つの改正を内容とするものです(金融庁の説明資料)。

本稿では、本改正案のうち、上記(1)及び(2)の概要をご紹介いたします。上記(3)及び(4)の改定案の概要については上記「2. M&A:公開買付制度及び大量保有報告制度に関する金融商品取引法改正案の国会提出」をご参照ください。

なお、上記(1)及び(2)の施行期日は、改正法の公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日が原則とされていますが(本改正案附則第1条柱書本文)、下記3(2)の改正については公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日とされています(本改正案附則第1条第2号)。

2.投資運用業者の参入促進に関する改正案(概要)

(1)投資運用関係業務受託業に係る制度の導入

本改正案においては、投資運用業等に関して行う計理及びコンプライアンスに係る業務(ミドル・バックオフィス業務)について「投資運用関係業務」との定義を設けたうえで、投資運用業等を行うことができる者の委託を受けて、その者のために投資運用関係業務のいずれかを業として行う「投資運用関係業務受託業」に係る制度を導入することとされています(改正金商法案第2条第43項、第44項)。

具体的には、この投資運用関係業務受託業を行う者(投資運用関係業務受託業者)についての登録制度を設けるとともに(改正金商法案第2条第45項、第66条の71~75)、当該業者に対し、誠実義務(改正金商法案第66条の76)や忠実義務・善管注意義務(同第66条の77)のほか、業務管理体制の整備(同第66条の78)や名義貸しの禁止(同案第66条の79)その他の義務(同第66条の80、81)を課し、同業者の監督に関する規定(同第66条の82~89)も整備することとされています。

(2)ミドル・バックオフィス業務の外部委託等

本改正案においては、投資運用関係業務受託業者にミドル・バックオフィス業務(投資運用関係業務)を委託することで、投資運用業への登録要件(人的要件)を緩和することとされています(改正金商法案第29条の4第1項第1号の2)。

また、金融庁の説明資料によれば、政令改正事項になりますが、投資運用業者が金銭等の預託を受けない場合について、資本金要件を5000万円から例えば1000万円に引き下げることも検討されています。

(3)運用(投資実行)権限の全部委託

現行の金商法や投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)においては、運用権限や運用指図権限の全部委託はできないこととされていますが(現行金商法第42条の3第2項、投信法第12条第1項)、本改正案においては、これらの規定を削除し、投資運用業者が運用(投資実行)権限を全部委託することを可能とするとともに、運用(投資実行)権限を委託する場合について、委託元(ファンドの企画・立案をする投資運用業者)が運用の対象や方針を決定し、委託先を管理することを義務付けることとされています(改正金商法案第42条の3第2項)。

3.非上場有価証券の流通活性化に関する改正案(概要)

(1)非上場有価証券の仲介業者の登録要件の緩和

特定投資家(プロ投資家)等を対象として非上場有価証券の仲介等のみを行う第一種金融商品取引業について、自己資本規制比率に関する規制、兼業規制及び金融商品取引責任準備金の積立に関する規制の適用を除外することとされています(改正金商法案第29条の4の4等)。

(2)非上場有価証券の電子的な取引の仲介業務(PTS)の参入要件の緩和

非上場有価証券の電子的な取引の場を提供する場合で、取引規模が限定的であるときには、PTS(私設取引システム)の認可を要することなく第一種金融商品取引業への登録のみで運営を可能とすることとされています(改正金商法案第30条第1項等)。これにより現在の認可において求められている追加的な資本金要件(3億円)等が課されないことになります(現行金商法第30条の4第2号、同施行令第15条の11第1項参照)。

5. 事業継承/株主権:日本商工会議所、「『事業承継に関する実態アンケート』調査結果」を公表

パートナー 東山 敏丈
パートナー 藤井 雅樹
パートナー 山内 大将
パートナー 関口 恭平

日本商工会議所は、2024年3月22日に、「事業承継に関する実態アンケート」の調査結果をとりまとめ、ホームページで公表しました(※1)。

※1:日本商工会議所「『事業承継に関する実態アンケート』調査結果」:https://archive.jcci.or.jp/20240322jigyosyokei_chosa.pdf

(1) 日本商工会議所「『事業承継に関する実態アンケート』調査結果」の概要

上記調査は、中小企業における事業承継・経営資源の引継ぎに関する実態や課題、後継者不足を背景に活発化している中小企業のM&Aの実施状況等を調査したものです(調査期間は2023年7月14日~8月10日)。

上記調査結果によれば、事業承継の現状として、後継者不在企業は22.3%となっており、2020年に行われた前回調査結果(22.8%)からほとんど変わっていません。後継者への事業承継に要する期間について、約7割の企業が、事業承継を意識してから後継者の承諾を得るまでに1年以上を要しており、また、5割超の企業が、後継者の承諾を得てから事業承継が完了するまでに3年以上かかるとの回答であったとのことです。

また、事業承継にあたっての障害・課題については、「後継者への株式の移転」が約4割と最多であり、後継者の資金面での負担(相続税・贈与税の納税資金の確保、又は、株式買取資金の確保)が課題となっており、また、代替わりするたび、現代表者とその後継者の株式保有割合は低下しており、事業承継のたびに株式がその他親族や従業員等に分散している状況がうかがえるとのことです。

事業承継税制については、株価1億円超で後継者決定済みの企業のうち、約5割が「事業承継税制の内容は知っているが、検討していない」、「事業承継税制を知らない」と回答しているとのことです。

(2) 事業承継の検討・対応

上記調査結果からも明らかなとおり、事業承継には、後継者の育成、後継者の株式の移転のスキームの検討、資金確保等のために相当の期間を要するため、いずれの企業であっても、事業承継を常に念頭において、可及的速やかに事業承継の検討・準備を始める必要があります。

また、事業承継のたびに、代表者(後継者)の株式保有割合が低下してしまっては、安定した企業経営ができなくなってしまうおそれがあるため、可能な限り代表者(後継者)の株式保有割合を高くする方向で事業承継を検討することが重要です。また、代表者(後継者)の株式保有割合を高くする過程において、会社法上の問題等様々な法的問題点を検討する必要があり、法的問題点の検討及びこれへの対応を怠った場合は、後に様々な紛争が生じ、会社の支配関係が不安定となり、経営に集中することができなくなることがあります。

事業承継税制には、事業承継時の税負担を軽減するメリットはありますが、納税猶予期間中に、後継者が代表権を有しなくなった場合や、この制度の適用を受けた株式を譲渡する場合等には、納税が猶予されている税額と利子税を納付しなければならない等のデメリットもあるため、事業承継税制の利用については、慎重な検討が必要となります。

このように事業承継に当たっては、様々な法的問題点をクリアする必要がありますので、会社法に詳しい専門家への相談が必須となっております。

6. 危機管理/不祥事対応:「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析-不正の早期発見・是正に向けた経営トップに対する提言-」の公表

パートナー 大澤 貴史
アソシエイト 堀田 稜人

(1) はじめに

令和6年3月27日、消費者庁より「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析-不正の早期発見・是正に向けた経営トップに対する提言-」(以下「本提言書」といいます。)が公表されました。本提言書は、近年の相次ぐ企業不祥事に関する第三者委員会の調査報告書等を対象として内部通報制度の実効性を阻害する要因を把握・分析し、経営者に対し内部通報制度の実効性確保に向けた提言をするものです。

(2) 企業に求められる内部通報に関する体制の整備

企業においては、違法・不適切行為の早期発見やこれらへの適切な対応という観点から、内部通報制度の体制整備をする必要があります。公益通報者保護法は、事業者に対し、公益通報(通報のうち同法が規定する一定の要件を満たすもの)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備を義務付けており(労働者が300人以下の事業者に対しては努力義務。同法11条)、例えば、通報者の役務提供先等への公益通報については、受付窓口の設置や、通報者の不利益取り扱いの防止措置、役職員への教育・周知等をする必要があります(※)。上場会社については、コーポレートガバナンス・コードにおいて、経営陣から独立した窓口の設置、情報提供者の秘匿と不利益取扱いの禁止に関する規律の整備などが求められています(原則2-5及び補充原則2-5①)。
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)

(3) 本提言書が指摘する内部通報制度の実効性を阻害する要因と企業の経営トップに対する提言

本提言書は、平成31年1月以降に公表された企業不祥事に関する調査報告書265本を収集・分析し、以下の5点について、内部通報制度の実効性を阻害する要因の指摘及び経営トップに対する提言をするものです。

① 規範意識の鈍磨
【阻害要因】
✓ 問題行為が繰り返されていたことや法令違反該当性への確信のなさから、当該行為を問題視しない又は正当化する独自の規範意識が形成された。
【経営トップに対する提言】
✓ 従業員がどのような行為が法令違反に該当するかの具体的イメージを持って不正に対処することができるように、自社業務において想定される不正行為事例の紹介等の研修・教育を実施し、経営者からもメッセージ発信をする。

② 内部通報窓口の問題
【阻害要因】
✓ グループ子会社から親会社への通報手段や日本語以外での通報手段がなかったり、上司への報告が内部通報の条件であると誤解されるような制度周知がされていた。
【経営トップに対する提言】
✓ グループ経営管理の観点から、グループ会社の従業員等からの通報受付体制の整備や通報窓口の多言語対応をするとともに、具体的な内部通報の方法を周知する。

③ 内部通報制度に対する認識欠如
【阻害要因】
✓ 従業員が内部通報制度の存在を認識していなかったり、通報対象はパワハラ等の労働問題に限定されるとの誤解があった。
【経営トップに対する提言】
✓ 従業員が安心して不正行為を通報できるように内部通報制度における通報の対象範囲の説明や、アンケートにより従業員の同制度に対する理解度を定期的に確認したり、同制度の運用実績の分析・開示を実施する。

④ 内部通報を妨げる心理的要因
【阻害要因】
✓ 通報者として特定され不利益を被る懸念や、不正行為に関与している者等が内部通報対応に従事しており実効的な調査が行われない懸念が生じていた。
【経営トップに対する提言】
✓ 従業員が内部通報後のプロセスをイメージできるように、通報を理由とした不利益取り扱いの禁止や情報共有の範囲・管理方法等を具体的に周知したり、通報者が特定されない調査方法の工夫、社外取締役等の関与等を通じて同制度への信頼確保に努める。

⑤ 内部通報後の不適切対応
【阻害要因】
✓ 内部通報があったにも関わらず、報告を受けた者の思い込みや調査担当者の権限・能力不足、大事になることを避ける目的から、適切な対応が取られなかった。
【経営トップに対する提言】
✓ 内部通報窓口及び調査担当者の適切な人選と研修・教育を通じて担当者のモチベーション向上を図り、調査担当部署に独立的な調査権限を付与するとともに他部署に対しても調査への協力を周知する。

(4) 本提言書を受けた対応

本提言書の内容は、(2)で述べた企業に求められる体制の整備・向上の際に参考になるものですので、各企業におかれましては、本提言書を踏まえて自社の内部通報制度を改めて見直すことが重要です。

当事務所では、公益通報者保護法準拠の匿名の外部通報窓口サービス(グローバル対応)も提供しておりますので、あわせてご参照下さい。

7. 独占禁止法:石油化学コンビナートの構成事業者によるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為に係る相談事例について

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 東道 雅彦
パートナー 川村 宜志
アソシエイト 福田 竜之介

公正取引委員会は、令和6年2月15日、石油化学コンビナートの構成事業者によるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為に係る相談事例について、相談概要・回答要旨を公表しました(※)。本事例は、公正取引委員会が令和5年3月31日に発表したグリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方(以下「グリーンガイドライン」という。)に関して初めて公表された相談事例です。

※公正取引委員会「(令和6年2月15日)石油化学コンビナートの構成事業者によるカーボンニュートラルの実現に向けた共同行為に係る相談事例について」

(1) 事例の概要

本事例は、山口県周南市所在の石油化学コンビナート(以下「周南コンビナート」という。)において石油化学製品等(以下「製品」という。)の製造販売を行っている出光興産株式会社、東ソー株式会社、株式会社トクヤマ、日鉄ステンレス株式会社及び日本ゼオン株式会社(以下「出光興産ほか4社」という。)が、以下の①~③までを主とした取組を共同で行うことについて独占禁止法上問題がないかを公正取引委員会に相談したものです。

① 燃焼時に二酸化炭素の排出がないアンモニア等を燃料とする共同の発電設備等の設置及び利用等
② 製品の原材料である基礎化学品について、二酸化炭素の排出が少ない原材料を用いたバイオ基礎化学品等に転換するための原材料の共同購入等
③ 二酸化炭素の共同での回収、燃料・原材料への再利用または貯留

(2) 公正取引委員会の判断

事業者が、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すれば、「不当な取引制限」(独占禁止法第2条第6項)に該当するものとして、独占禁止法上問題となります(独占禁止法第3条)。しかしながら、公正取引委員会は、本事例における前記①~③までの共同行為について、以下のように判断し、製品の販売価格のカルテルといった競争制限行為に該当する場合を除いて、一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはないと考えられるとして、独占禁止法上問題がないと回答しました。

取組の目的について

  • 前記①~③の取組は、グリーン社会の実現に向けた取組であることが認められる。

取組が製造販売市場における競争に与える影響について

  • 前記①~③の取組は、出光興産ほか4社が周南コンビナートにおいて製造する製品のコストに影響を与える取組であるが、多くの製品について、出光興産ほか4社間に競合関係がなく、共同行為による競争制限効果が見込まれない。
  • 競合する製品であっても、地理的範囲が「日本全国」として画定されることなどから、他に有力な競争事業者が存在したり、当該製品の需要者からの競争圧力が働いていたりするなどの状況にあるため、一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはない。

アンモニア及びバイオマス等の共同購入がこれらの購入市場における競争に与える影響について

  • (a)アンモニア及びバイオマス等は、世界的なカーボンニュートラルの動きによって需要及び供給が拡大される見込みであることから、それを購入する市場における競争は活発になることが見込まれること、(b)共同行為によって購入されることが想定されるアンモニア等及びバイオマス等の量は供給量に比して限定的であることから、共同行為による競争制限効果が見込まれるものの、一定の取引分野における競争の実質的制限が生じることはなく、独占禁止法上問題となるものではない。

公正取引委員会のグリーンガイドラインでは、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、多くの場合、事業者間の公正かつ自由な競争を制限するものではなく、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を持つものとされ、また、競争制限効果と競争促進効果の両方が認められる共同取組については、目的の合理性及び手段の相当性を勘案しつつ、競争制限効果・競争促進効果について総合考慮して問題の有無が判断されるとしています。かかる判断の枠組みは必ずしも明確とは言えませんが、上記①~③の取組は、グリーン社会の実現を目的とする取組であり、新たな技術や優れた商品を生み出す等といった競争を促進する効果が認められる一方で、関連する製品を販売する市場やアンモニア・バイオマス等を購入する市場における競争制限効果は乏しいと考えられることから、独占禁止法上問題ないとの判断がなされたものと考えられます。

(3) おわり

近年の世界的な環境意識の高まりにより、今後も事業者によるグリーン活動に関する共同行為は増加することが予想されます。本件のように共同行為によるグリーン事業への取組について検討している企業においては、グリーンガイドラインや本相談事例を参考に独占禁止法上の問題点を検討することになりますが、グリーンガイドラインで示された判断枠組みは必ずしも判断が容易とはいえないことから、本件のように公正取引委員会への事前相談を行うことも選択肢として考慮すべきものと考えられます。

8. 環境法:資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案

パートナー 猿倉 健司
アソシエイト 上田 朱音
アソシエイト 加藤 浩太

リサイクル事業等の高度化の促進に関し、判断基準となるべき事項の策定、産業廃棄物処分業者のリサイクルの実施状況等の報告及び公表等の措置を講ずること等を内容とする「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案」(以下「本法案」といいます。)が、2024年5月22日、第213回国会で成立しました。

(1) 再資源化の促進

本法案では、資源循環産業のあるべき姿を示し、資源循環産業全体の底上げを図るため、再資源化事業等の高度化の促進に関する廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項を環境省令で定めることとされています(本法案8条)。
また、資源循環の促進に向けた情報基盤を整備して、製造業者等とのマッチング機会の創出を通じた産業の底上げを図るため、特に処分量の多い産業廃棄物処分業者(「特定産業廃棄物処分業者」)の再資源化の実施状況を報告させ、これを環境大臣が公表することとされています(本法案38条)。
なお、上記報告の結果、再資源化の実施状況が、本法案8条に規定する判断基準に照らして著しく不十分であると判断された場合、特定産業廃棄物処分業者は、環境大臣から再資源化の実施に関し必要な措置をとるべき旨の勧告を受ける可能性がある点に注意が必要です(本法案10条1項)。

(2) 再資源化事業等の高度化の促進―高度再資源化事業―

再資源化のための廃棄物の収集、運搬及び処分の事業(「高度再資源化事業」といい、プラスチックのマテリアルリサイクル、ペットボトル等の水平リサイクル、アルミニウム等の金属類の水平リサイクル等が想定されています。)を行おうとする者は、高度再資源化事業計画を作成し、環境大臣の認定を受けることによって、認定計画の範囲内で、廃棄物処理法による許可を受けずに再資源化に必要な行為を業として実施し、廃棄物処理施設を設置することができます(本法案11条、13条)。
なお、再資源化に関する国内外の規制については、猿倉健司「プラスチック資源循環促進法(2022年4月施行)において排出事業者の盲点となる実務的措置」(BUSINESS LAWYERS・2022年6月28日)、猿倉健司・堀田稜人「EUの包装および包装廃棄物規則2024年合意案について」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2024年4月17日)も参照してください。

(3) 再資源化事業等の高度化の促進―高度分離・回収事業―

高度な技術を用いて廃棄物から有用なものの分離及び再生部品・資源の回収を行う再資源化のための廃棄物の処分の事業(「高度分離・回収事業」といい、対象としては、太陽光や風力の発電設備、リチウムイオン電池、使用済み紙おむつ等のリサイクルが想定されています。)を行おうとする者は、高度分離・回収事業計画を作成し、環境大臣の認定を受けることによって、認定計画の範囲内で廃棄物処理法による許可を受けずに、再資源化に必要な行為を業として実施し、廃棄物処理施設を設置することができます(本法案16条、18条)。

(4) 再資源化事業等の高度化の促進―再資源化工程の高度化―

再資源化の工程を効率化するための設備や温室効果ガスの量の削減に資する設備の導入(「再資源化工程の高度化」)を行おうとする者は、再資源化工程高度化計画を作成し、環境大臣の認定を受けることによって、認定計画に従って行う設備の導入については、廃棄物処理法による許可を受けたものとみなされます(本法案20条、21条)。

リサイクル事業等の新規ビジネスにおける廃棄物処理判断と行政対応については、猿倉健司「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事・2023年1月25日)も参照してください。

参考資料

9. 労働法:フリーランスに対するハラスメント防止の体制整備義務について

パートナー 山中 力介
パートナー 猿倉 健司
スペシャル・カウンセル 柳田  忍

2024年11月1日施行予定のフリーランス保護法(以下「法」といいます。)は、事業者に対して、特定受託業務従事者に対するハラスメント(セクハラ、パワハラ及び妊娠・出産等に関するハラスメント)の対策に係る体制整備を義務づけており(法14条1項)、その具体的内容は厚生労働大臣の定める指針で示すものとされていますが(法15条)、この度、「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針(案)」(以下「指針案」といいます。)においてその具体的内容が明らかにされました。指針案に定められた特定受託業務従事者に対するハラスメントの対策に係る体制整備義務の内容は、以下のとおり、事業者のその雇用する労働者に対するハラスメントの対策に係る体制整備義務(以下「雇用管理上講ずべき体制整備義務」といいます。)の内容とほぼ同様ですが、特に注意すべきポイントについて説明します。

(1) 特定業務委託事業者が業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関し講ずべき措置の内容

指針案においては、事業者が講ずべき措置として、①特定業務委託事業者のハラスメントに対する方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③業務委託におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応、④①から③までの措置と併せて講ずべき措置(相談者・行為者のプライバシー保護に関する措置や相談者・調査等への協力者に対する不利益な取扱いがなされない旨の周知・啓発に関する措置)が定められています(指針案第4.5)。

このうち、②は相談への対応のための窓口の設置・周知などを内容としますが、新たに業務委託におけるハラスメントの専用の窓口を定めることも可能であるし、その従業員のための相談窓口を業務委託におけるハラスメントの相談窓口として活用することも可能であるとされています。また、専用アプリやメール等の対面以外の方法により相談を受け付ける場合には、当該相談が受け付けられたことを相談者が確実に認識できる仕組みとする必要があるとされています(こちらは雇用管理上講ずべき体制整備義務には含まれていません。)。

(2) 業務委託に係る契約交渉中の者に対する言動に関し特定業務委託事業者が行うことが望ましい取組の内容

上記(1)の義務は特定受託業務従事者に対する言動を対象とするものですが、指針案においては、上記(1)①のうちハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対する言動のみならず、当該業務委託に係る契約交渉中の者に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことや、かかる者からの業務委託におけるハラスメントに類すると考えられる相談について、上記(1)の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが望ましいとされています(指針案第4.6)。

(3) 他の事業者等からの特定受託業務従事者へのハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し特定業務委託事業者が行うことが望ましい取組の内容

指針案は、他の事業者等からの特定受託業務従事者に対するパワハラ及び妊娠・出産等に関するハラスメントや、顧客等からの著しい迷惑行為について、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備や、被害者への配慮のための取組がなされることなどが望ましいと定めています(指針案第4.7)。一方、他の事業者等や顧客等から特定受託業務従事者に対するセクハラについては上記(1)の措置義務に基づく対応が求められていることに注意が必要です(指針案第4.2(2))。

10. 税務:非上場株式の相続税評価について財産評価基本通達第6項の適用が否定され、納税者側が勝訴した事例(東京地裁令和6年1月18日判決)

パートナー 小山 友太
アソシエイト 阿部  航

(1) はじめに

非上場株式の相続税評価に当たって、税務当局が財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます。)第6項の適用を理由に行った相続税の更正処分等が取り消され、納税者が勝訴した最近のケースを紹介します(東京地方裁判所令和6年1月18日判決・週刊税務通信3787号4頁)。

(2) 事案の概要

本件は、納税者(相続人)が、被相続人が代表取締役であった非上場会社(X社)の株式(2万1400株)について、評価通達第178項第180項に基づき類似業種比準価額によって1株8186円、総額1億7518万400円(8186円×2万1400株)と評価して相続税の申告をしたところ、税務当局より、評価通達の定めにより評価することが著しく不適当として、評価通達第6項を適用し、K社作成の株式算定報告書における報告額の17億2000万円(1株あたり8万373円)とすることが適当であるとして、相続税の更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことから、これらを不服として当該処分の取消しを求めた事案です。納税者の評価通達に基づく評価額と税務当局の算定価額が約10倍ほど乖離したケースになります。

本件では、被相続人が、生前、第三者との間で、X社の売却・資本提携等に関して秘密保持契約やM&A等のアドバイスに係る契約を締結し、1株あたり10万5068円でX社株式の譲渡に向けて協議を行うことについての基本合意を締結しており、被相続人が死亡後、納税者(相続人)らにおいて当該基本合意に記載された価額と同額で第三者へのX社株式の売却が行われているという事情があります。

(3) 争点・関連判例

本件では、相続対象となった非上場株式を評価通達第6項により評価することの適否が争点となりました。

評価通達第6項の適否については、最高裁判所令和4年4月19日判決(被相続人が総額13億8700万円の不動産を銀行から10億800万円の借入れを行う形で取得した後死亡し、相続人が当該不動産を評価通達に従って約3億3370万円と評価して相続税の申告をした事案)において、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」(特段の事情)がある場合には、財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額にすることも平等原則に違反するものではない旨の判断がなされており、本件では、この令和4年判決を前提に、「特段の事情」が認められるか否か(評価通達第6項により評価することの適否)が争点となりました。

(4) 東京地裁の判断の概要

東京地裁は、評価通達に基づく評価額とK社作成の株式算定報告書における報告額との間に大きな乖離があるということのみをもって直ちに「特段の事情」があるということはできないとしたうえで、租税回避行為をしたことによって納税者が不当ないし不公平な利得を得ていることがうかがわれる令和4年判決の事案とは異なり、本件において租税回避の目的が認められないことその他の事情を踏まえ、「特段の事情」の存在を否定し、税務当局の処分を違法と判断しました。なお、東京地裁が「特段の事情」が認められる場合の一例として次のような判示を行っていることは参考になります。
なお、東京地裁が「特段の事情」が認められる場合の一例として次のような判示を行っていることは参考になります。

「例えば、被相続人の生前に実質的に売却の合意が整っており、かつ、売却手続を完了することができたにもかかわらず、相続税の負担を回避する目的をもって、他に合理的な理由もなく、殊更売却手続を相続開始後まで遅らせたり、売却時期を被相続人の死後に設定しておいたりしたなどの場合であるとか、最高裁令和4年判決の事例のように、納税者側が、それがなかった場合と比較して相続税額が相当程度軽減される効果を持つ多額の借入れやそれによる不動産等の購入といった積極的な行為を相続開始前にしていたという程度の事情が特段の事情として必要なものと解される。」

(5) ポイント

本件は、令和4年判決後、裁判所において評価通達第6項の適用が認められなかった初めてのケースとみられ、今後のタックスプランニングやウェルスマネジメントに当たって参考になる判断と考えられます。

11. 事業再生/倒産:中小企業の事業再生等に関するガイドライン及びQ&Aの改定

パートナー 東山 敏丈
パートナー 百田博太郎

2024年1月17日、中小企業の事業再生等に関する研究会は、中小企業の事業再生等に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)及びQ&Aを改定しました(リンク先はいずれも改定後のもの)。改定後のガイドラインは、同年4月1日から適用されています。今回の改定は、2022年4月のガイドライン適用開始以降の中小企業の事業再構築支援のニーズの高まり等を踏まえ、事業再生における関係者(債務者・債権者・実務専門家等)の平時からの一層の連携等を促すとともに、利用実績を踏まえた運用面における改善や明確化、併せてガイドラインを活用した事業再生の担い手の育成・拡充のための運用規定の改定等を目的とするものです(※)。

以下では、今回の改定内容のうち主なものを紹介します。

(※)金融庁「『中企業の事業再生等に関するガイドライン』およびQ&Aの改定について」

(1) ガイドラインの主な改定内容

ガイドラインの主な改定内容は以下のとおりです。

<平時における中小企業者と金融機関の対応>
▪ 予防的対応として、平時から金融機関や社外の実務専門家との十分なコミュニケーションを図ること等を追記(第二部の1(2)④)。
▪ 「実務専門家の活用」を追加し、中小企業者が実務専門家に求める役割として、「中小企業者の主体的な取組みに対する支援」「外部専門家等との連携体制の確保」が記載された(第二部の1(2)⑤)。

<再生型私的整理手続>
▪ 「事業再生計画案の立案」において、スポンサー候補者については、中小企業者は第三者支援専門家及び主要債権者(必要に応じて、主要債権者以外の対象債権者)に丁寧に経緯を説明し十分に協議を行うなど、透明性の確保に努めることを追記(第三部の4(3))。

<廃業型私的整理手続>
▪ 「弁済計画案の立案」において、中小企業者は、廃業型私的整理においてスポンサーに対する事業譲渡等を前提とする手続利用を予定している場合には、弁済計画案の作成前に、第三者支援専門家を選定し、支援を申し出ること等を追加(第三部の5(2)③)。

(2) Q&Aの主な改定内容

Q&Aの主な改定内容は以下のとおりです。

▪ 第三者支援専門家の認定要件を一部追加(Q&A31)。
▪ 第三者支援専門家の選任方法について、必要に応じて遠方の第三者支援専門家を選任する場合に関する追記(Q&A32)。
▪ 第三者支援専門家補佐人の役割及び選任方法の追加(Q&A33-2、33-3)。
▪ 「一時停止の要請」について、第三者支援専門家の判断により、対象債権者が中小企業者に対して有する債権の状況を第三者支援専門家に対して届け出るよう要請する場合がある旨の追記(Q&A46)。
▪ スポンサー候補者選定に関する説明や透明性の確保に関する具体的な対応の追加(Q&A53-2)。
▪ 債務減免のカット率に関し、カット率は債権者間で同一であることを旨とする従前の回答を、権利関係の調整は債権者間で平等であることを旨とする回答に改定し、例外的に債権者側の負担割合に差異を設けても実質的な公平性を害さない場合の具体例(リース債務残高から利息相当額を控除した未返済元本残高に相当する額を基準額として他の金融債権と同じカット率を適用すること等)を追記(Q&A60、61)。
▪ 財務デューデリジェンス等の基準日の設定方法に関する追加(Q&A61-2)。
▪ 廃業型私的整理手続から再生型私的整理手続への移行に関し、中小企業者がスポンサーに対する事業譲渡等を前提とした弁済計画案を作成しようとする場合は、第三者支援専門家を選任し、第三者支援専門家は、中小企業者の事業の内容や規模、資金繰りの状況等並びに主要債権者の意向も踏まえ、廃業型私的整理手続を適用することが相当であるかを判断することが必要である旨の追記(Q&A81)。

(3) 終わりに

上記のとおり、中小企業の事業再生等における関係者(債務者・債権者・実務専門家等)の平時からの一層の連携等が改定のポイントとなっています。改定後のガイドライン及びQ&Aに基づく今後の運用を注視する必要があるものと考えられます。

12. IT/個人情報/知的財産:個人情報保護法改正の動向

シニアアソシエイト 中井 杏

(1) 【国内】AI事業者ガイドライン(第1.0版)の公表

経済産業省及び総務省は、2024年4月19日、「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を公表しました。本ガイドラインは、同年1月20日から2月19日まで実施されたパブリックコメントの結果を反映したものです。
本ガイドラインは、それ自体に法的拘束力はありませんが、様々な事業活動においてAIの開発・提供・利用を担う全ての者を対象としており、企業が自社業務の効率化のためにAIを利用する場合の社内規程の策定においても参考にすべきものと考えられます。

(2) 【国内】改正不正競争防止法の施行

2024年4月1日、改正不正競争防止法が施行されました。

本改正では、限定提供データの定義が明確化されており、これまで秘密管理された情報は限定提供データの対象には含まれていませんでしたが、本改正により限定提供データに含まれることとなりました。
また、営業秘密及び限定提供データについての損害賠償額算定規程の拡充や、使用等の推定規程の拡充がなされているほか、日本国内で事業を行う企業の、日本国内で管理体制を敷いて管理している営業秘密が不正取得され、海外において営業秘密侵害行為が行われた場合に、日本の裁判所で日本の不正競争防止法に基づき民事訴訟が提起できることが明確化されるなど、営業秘密等の保護が強化されております。

(3) 【韓国】個人情報処理方針の作成ガイドラインの公表等

韓国個人情報保護委員会は、2024年4月30日、「個人情報処理方針の作成ガイドライン」を公表しました。

2023年9月15日に改正韓国個人情報保護法(PIPA)が施行され、同意取得の要件の明確化、国外移転に関する規制の追加、漏洩事案等が発生した際の規制の追加等がなされております。本ガイドラインは、事業者がPIPAへの準拠を促進するため、組織が独自のデータ処理方針を策定する際の支援となることを目的としております。

特に日本企業に影響がある点としては、改正前PIPAは個人情報の国外移転にあたりデータ主体の同意を取得することを要していましたが、改正PIPAにより「データ主体との契約の締結及び履行のために個人情報の処理委託・保管が必要な場合で、個人情報の移転に関する一定の事項を個人情報処理方針に開示し、又はデータ主体に通知した場合」も国外移転が可能となりました(PIPA28条の8第1項3号)。本ガイドラインでは、この場合の個人情報処理方針の作成方法についてもポイントが示されております。

(4) 【国内】個人情報保護法改正の動向

個人情報保護委員会は、2023年11月15日に「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討」を公表し、3年ごと見直しに向けた検討を開始しました。これまで有識者や業界団体等からのヒアリングを実施し、2024年2月21日には「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し規定に基づく検討項目」を公表しました。
本年3月以降は、上記検討項目に基づき以下の事項について、具体的な論点の検討が行われております。

・生体データの取扱い

・代替困難な個人情報取扱事業者による個人情報の取扱い

・不適正取得・不適正利用

・個人関連情報の適正な取扱い

・刑事罰

・課徴金制度

・こどもの個人情報等

・団体訴訟制度

以上の項目は、改正に含まれる可能性が比較的高いと考えられます。今後、本年春ごろに「中間整理」が公表され、2025年1月からの通常国会の期間中に改正法が成立・公布される見込みであり、引き続き注視が必要です。
また、今後もClient Alert又はニューズレターで個人情報保護法改正の動向について解説する予定です。

13. 国際業務:セキュリティ・クリアランス法案が衆議院で可決

パートナー 辻 晃平
シニアアソシエイト 小坂光矢

2024年4月9日、経済安全保障分野における機密情報の取り扱いを有資格者のみに認める、「セキュリティ・クリアランス制度」を創設する法案(「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」。以下「本法案」といいます。)が、衆議院本会議で賛成多数で可決されました。AIやサイバー攻撃対策といった分野において民生・軍事双方に技術を用いる「デュアルユース」が多く見られる中、日本における「セキュリティ・クリアランス制度」の不備は、日本企業が海外と共同研究・開発を行う際の障壁となっており、速やかな法制度整備が望まれていました。

本法案の概要については、既報のとおり、①行政機関の長が、保護の対象とする「重要経済安保情報」を指定したうえで、②「我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者」であって「重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備を設置している」等の政令で定める基準に適合するもの(適合事業者)に対して、「重要経済安保情報」を提供できる旨が定められています(③ただし、「重要経済安保情報」の取扱業務は、行政機関の長又は警察本部長が実施する適性評価(セキュリティ・クリアランス)をクリアした者しか行うことができません)。④「重要経済安保情報」を漏らした場合、既遂・未遂、故意・過失を問わず罰則の対象となります(なお、法人に対する両罰規定もあります)。

なお、本法案が衆議院本会議で可決されるに際して、以下のとおり、「重要経済安保情報」の指定・解除のほか、セキュリティ・クリアランスの実施や適合事業者の認定の運用状況について、有識者の意見を聴取するとともに、国会への報告・公表を行うものとする旨の条項が新たに追加されました(下記斜体部分が修正箇所)。

(重要経済安保情報の指定等の運用基準等)
第十八条 政府は、重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定(行政機関の長が、事業者が適合事業者に該当すると認めることをいう。以下第三項及び次条において同じ。)に関し、統一的な運用を図るための基準を定めるものとする。

2 内閣総理大臣は、前項の基準を定め、又はこれを変更しようとするときは、我が国の安全保障に関する情報の保護、行政機関等の保有する情報の公開、公文書等の管理等に関し優れた識見を有する者の意見を聴いた上で、その案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

3 内閣総理大臣は、毎年、第一項の基準に基づく重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定の状況を前項に規定する者に報告し、その意見を聴かなければならない。

 内閣総理大臣は、重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定が第一項の基準に従って行われていることを確保するため必要があると認めるときは、行政機関の長(会計検査院を除く。)に対し、重要経済安保情報である情報を含む資料の提出及び説明を求め、並びに重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定について必要な勧告をし、又はその勧告の結果とられた措置について報告を求めることができる。

(国会への報告等)
第十九条 政府は、毎年、前条第三項の意見を付して、重要経済安保情報の指定及びその解除、適性評価の実施並びに適合事業者の認定の状況について国会に報告するとともに、公表するものとする。

本法案は、現在参議院で審議中であり、今国会中の法案成立が確実視されているところです。本法案の附則によれば、法律の公布から1年以内に施行することとされていることから、特に海外との共同研究・開発や外国政府の公共調達への参加等に関心がある企業においては、対応への準備を進める必要があります。

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