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牛島総合法律事務所 Client Alert 2025年6月27日号
<目次>
令和7年4月30日、経済産業省は、上場企業の「稼ぐ力」を強化するため、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(以下「本研究会」といいます。昨年9月から議論がスタートし、座長は神田秀樹東京大学名誉教授です。)において進められてきた検討を踏まえ、「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則(以下「取締役会5原則」といいます。)及び「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(以下「本ガイダンス」といいます。)を策定しました。
コーポレートガバナンス(以下「CG」といいます。)は、複雑化する経営環境下で、企業が「稼ぐ力」の強化に向けて自社の競争優位性を伴った中長期目線での成長戦略を構築・実行し、「攻めの経営」に取り組むための基盤です。日本再興戦略改訂2014において「コーポレートガバナンスの強化」が施策として掲げられて以降、CGの取組みは着実に進展している一方で、コーポレートガバナンス・コードのコンプライが目的化し、形式的な体制整備にとどまっている企業が多いとの指摘がなされています。そこで、日本企業の「稼ぐ力」の強化に向けたCG改革の進め方や会社法の改正の方向性等について検討することを目的として本研究会が設置されました。
取締役会5原則は、「稼ぐ力」の強化に向け、取締役会として踏まえるべき内容をまとめたものであり、本ガイダンスの主要なメッセージとして抜粋したものです。その原則は以下のとおりです。
原則1:自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリー(※1)を構築する。
原則2:経営陣が、価値創造ストーリーの実現に向け、事業ポートフォリオの組替えや成長投資等、適切なリスクテイクを行うよう、後押しする。
原則3:取締役会自体が短期志向に陥らないよう留意しつつ、経営陣が、中長期目線で、成長志向の経営を行うよう、後押しする。
原則4:マイクロマネジメントとならないよう留意しつつ、経営陣の意思決定過程・体制が、迅速・果断な意思決定に資するものとなるよう促す。
原則5:最適なCEOの選定と報酬政策の策定を行うとともに、毎年、原則1~4の内容も踏まえたCEOの評価を行い、再任・不再任を判断する。
(※1)長期的に目指す姿の実現に向けて、どのようなビジネスモデルを通じて、どのような社会課題を解決し、どのように長期的な企業価値向上に結び付けられていくかについての一連のストーリーをいいます。
上記各原則に対応して、CEOら経営陣においても、しかるべき行動をとることが望ましいとされ、当該行動についても整理がなされております。
本ガイダンスは、TOPIX500を構成する企業を主な対象とし、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組みの前提となる考え方を示した上で、実際に取組を行う際に有益と考えられる内容を整理したもので、記載されている取組を一律に要請するものではありません。本ガイダンスは、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組の前提となる考え方(本ガイダンス2)及び取組の進め方(本ガイダンス3)並びに検討ポイント・取組例(本ガイダンス4)及び企業事例(本ガイダンス別添企業事例集)を示すことで、CEO及び社外取締役が、自社におけるCGの在り方について、改めて考えるきっかけとすることや取締役会等が「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組を行う際に参考とすることが想定されております。
「稼ぐ力」をテーマとしたガバナンス研究会は世界にもあまり例がないとされる画期的な取組みです。特に注目度が高いとされる取締役会5原則は、従前、「監督」や「モニタリング」といった抽象的な言葉で表現されていた取締役会に求められる機能を具体化したもので、企業が自社のCGの実効性を再評価するうえで参考になるものですので、本ガイダンスを基に、自社のCG体制を再検証することが考えられます。なお、同じテーマの下、本研究会では、今年1月17日付けで会社法改正に関する報告書も公表しているところ、今年2月から、法務省の法制審議会で会社法改正に向けた議論がスタートしておりますのでその動向にも注目する必要があります。
2025年4月14日、東京証券取引所は、「MBOや支配株主による完全子会社化等に関する上場制度の見直し等について」(以下「本見直し案」といいます。)を公表しました。近年、企業価値向上を目的とした事業ポートフォリオの見直し等が進む一方で、構造的な利益相反リスクの高いキャッシュアウト案件も増加しています。2019年に経済産業省が策定した「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下「公正M&A指針」といいます。)に基づく実務も進展しつつある中、特別委員会の実効性や開示の充実を求める声が投資家から上がっており、本見直し案は、公正M&A指針の枠組みの実効性を高めることを目的として、企業行動規範の内容を大要以下のとおり見直すものです。
現在、支配株主等による完全子会社化の場合などが意見入手の対象となっていますが、MBOやその他の関係会社(※)等による完全子会社化等についても、同様に構造的な利益相反リスクがあることを踏まえ、これらも対象に含められることとなりました。
具体的には、MBOや支配株主・その他の関係会社等による公開買付けへの意見表明や、支配株主・その他の関係会社等が関連する株式交換等の決定(上場廃止が見込まれる場合に限る)などが想定されています。
(※)「その他の関係会社」とは、財務諸表等規則第8条第17項第4号に規定されるその他の関係会社(会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等のこと)を指し、例えば、対象会社の議決権の20%以上を保有している株主などがこれに該当します。
現在、特別委員会に限らず、利害関係を有しない者からの意見入手が求められていますが、実務の進展も踏まえ、利害関係を有しない社外取締役、社外監査役、社外有識者で構成される特別委員会からの意見入手が義務付けられることとなりました。すなわち、対象行為を行うに際しては、特別委員会の設置が実務上必須の措置として位置付けられることとなります。
現在、「少数株主にとって不利益でないことに関する意見」を入手することを求められていますが、価格の公正性に懸念があるにもかかわらず一定のプレミアムが付されていることをもって「不利益でない」と意見する事例があることから、公正M&A指針も踏まえ、企業価値の増加分が一般株主に公正に分配されるような取引になっているかという観点から「一般株主にとって公正であることに関する意見」の入手が求められることとなりました。また、現在は、入手した意見の概要について開示することが求められていますが、意見書そのものの開示が求められることになりました。
さらに、特別委員会の意見には、対象会社・一般株主の利益を図る観点から、①対象行為の是非(企業価値向上に資するか)、②取引条件の公正性、③手続の公正性の検討及び判断の内容を含める旨が明確化されることとなりました。取引条件の公正性については、公開買付者との協議・交渉の過程、株式価値算定内容とその前提とした財務予測・前提条件等の合理性、過去の市場株価や同種案件に対するプレミアム水準の合理性の観点から説明が求められることとなります。また、手続の公正性については、公正M&A指針で例示される公正性担保措置(特別委員会の設置、外部専門家の専門的助言等、マーケット・チェック、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件、強圧性排除、情報開示)の実施状況に加えて、一部を実施しない場合の理由や全体の公正性の観点からの説明が求められます。
現在、MBOや支配株主等による公開買付けへの意見表明などが対象となっていますが、その他の関係会社等による完全子会社化等の適時開示についても、構造的な利益相反リスクが存在することを踏まえ、必要かつ十分な開示が求められることとなりました。
MBOや支配株主・その他の関係会社等による公開買付けへの意見表明や、支配株主・その他の関係会社等が関連する完全子会社化等の決定(上場廃止が見込まれる場合に限る)において求められる株式価値算定の重要な前提条件(財務予測や算定手法の前提となる考え方)の開示が拡充されることとなりました。拡充が求められる内容としては、例えば、DCF法による場合、財務予測の期間の設定に関する考え方、財務予測の前提となる考え方(事業内容や事業環境等についてどのような前提を置いているか)、割引率の種類、割引率について小規模リスク・プレミアムの考慮等の特殊な前提条件がある場合にはその内容と根拠、継続価値の具体的な数値(レンジ可)、その算定に用いたそのパラメータの設定に関する考え方、個別資産(賃貸等不動産、政策保有株式、余剰資金など)の算定上の取扱い(事業資産と非事業用資産の切り分けについての考え方など)(算定において重要性を有する場合に限る)や、第三者評価機関の報酬体系(M&Aの成立等を条件に支払われる成功報酬か、M&Aの成否にかかわらず支払われる固定報酬か等)などがあります。
本見直し案は、構造的な利益相反リスクを伴うMBOや支配株主・その他の関係会社等による完全子会社化等において公正M&A指針の枠組みをより実効的に機能させるためのものであり、2025年5月14日までパブリック・コメントが実施されており、同年7月を目途に実施が予定されています。施行日以後にMBOや支配株主・その他の関係会社等による完全子会社化等を決定するものから適用される見通しであり、今後の運用や実務の動向にも十分留意しながら、適切な対応を図ることが求められます。
動画配信サービス「ニコニコ動画」を運営する株式会社ドワンゴ(以下「ドワンゴ」といいます。)は、同サービスで利用されるコメント表示システムに関する特許権を保有しています。令和元年、ドワンゴは、米国法人FC2, Inc.(以下「FC2」といいます。)が運営するインターネット上のコメント付き動画配信サービス「FC2動画」において自社特許発明が無断実施されているとして、FC2及び株式会社ホームページシステム(FC2の日本における業務代行拠点として設立された日本法人)に対して特許権侵害の差止め及び不法行為に基づく損害賠償等を求める2件の訴訟を提起しました。FC2側は、FC2側サービスでサーバが海外に設置されていたため、特許の属地主義(特許権の効力は当該国の領域内においてのみ認められるという原則)を主張し、「サーバが国外にある以上、日本の特許権侵害には当たらない」との立場をとりました。
上記2件の訴訟はそれぞれ侵害対象となる特許を異にするものでしたが、いずれも主として上記の論点を中心とする特許侵害訴訟であり、別個に並行して審理がなされていたところ、いずれも一審は請求棄却、控訴審では一部認容(差止及び損害賠償)と判断が分かれていました。これにつき、最高裁判所は令和7年3月3日、いずれの件についてもFC2側の上告を棄却し、FC2側の行為がドワンゴの有する特許権を侵害することを認める判断を示しました(※1。以下、総称して「本件判決」といいます。)。
※1:裁判所ウェブサイト:
令和5年(受)第14号、第15号 特許権侵害差止等請求事件
令和5年(受)第2028号 特許権侵害差止等請求事件
最高裁は、本件判決において、「我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められる」と述べ、特許の属地主義の原則を確認の上、国境を越える情報の流通等が極めて容易となった現代において、インターネットを通じた発明の実施行為について、行為の一部(例えばサーバ設置やインターネットを通じたプログラム配信の一部)が国外で行われている場合に、常に特許権の効力が及ばないとするのは、「特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなどし、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという」特許法の目的に沿わないとし、「問題となる行為を全体としてみて、実質的に我が国の領域内における・・・(特許発明の実施行為)・・・に当たると評価されるときは、当該行為に我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はないというべき」であるとの基準を示しました。
その上で、FC2等の行為については、形式上は一部が国外で行われていても実質的には国内で行われた特許発明の実施行為(具体的には、特許法2条3項1号にいう「電気通信回線を通じた提供」、同法101条1号にいう「譲渡等」、同法2条3項1号にいう「生産」)と評価できると判断し、控訴審の判断を是認しました。
本件判決では、プラットフォーム運営の観点から、サービス提供インフラの一部を海外に置くことで日本の知的財産権上の責任を回避できるとは限らないことが明確化されました。日本国内のユーザ向けサービスを提供している企業は、自社サービスが他社の日本特許を侵害していないか、改めて点検・洗出しを行う必要があります。逆に、知的財産権管理の観点からは、自社が保有する特許発明について海外事業者がインターネットを通じて提供するサービスによって侵害されている場合でも、本件判決を踏まえれば日本国内で差止や損害賠償等を求めることが可能となる点が注目されます。
このように、本件判決は、国際的なオンラインサービスに関して特許権の保護が認められる範囲について今後の実務に重要な影響を与える判決であると考えられます。
2024年5月に公布された「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年5月22日号外法律第32号)のうち投資運用関係業務受託業に係る改正が2025年5月1日より施行されています。かかる改正法の施行に伴い、金融庁のウェブサイトにおいて、投資運用関係業務受託業の登録申請書類や記載例・記載要領が公表されています。
投資運用関係業務とは、投資運用業等(投資運用業、適格機関投資家等特例業務又は海外投資家等特例業務)に関して行う計理業務及び法令等遵守のための指導に関する業務のことをいいます(金融商品取引法第2条第43項)。投資運用関係業務受託業とは、投資運用業等を行うことができる者の委託を受けて、当該委託をした者のために投資運用関係業務のいずれかを業として行うことをいいます(金融商品取引法第2条第44項)。
改正前、金融商品取引法上の投資運用業者として投資運用業を行うためには、「資産運用部門とは独立してコンプライアンス部門(担当者)が設置され、その担当者として十分な知識及び経験を有する者が十分に確保されていること」が必須とされていましたが、本改正により、投資運用関係業務受託業者に投資運用関係業務を外部委託することで、当該要件について緩和を受けることができる(具体的には、「投資運用関係業務の監督を適切に行う能力を有する者」を確保すれば足りる)ことになりました。この点については、令和7年6月「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」Ⅵ-3-1-1(1)①ニ(367頁)もご参照ください。
登録申請には、所定の事項を記載した登録申請書と一定の添付資料(こちらのリンクご参照)の提出が必要になります(金融商品取引法第66条の72第1項、第2項各号、金融商品取引業等に関する内閣府令第350条第1項各号)。このうち、「業務の内容及び方法を記載した書類業務の内容及び方法を記載した書類」、「業務に係る人的構成及び組織等の業務執行体制を記載した書面」、「履歴書」、「誓約書(役員用・法人用)」、「純財産額を算出した書面」については金融庁のウェブサイトに書式及び記載例・記載要領が公表されており、参考になります。
投資運用関係業務受託業の登録審査の際には、例えば、以下のような事項について審査が行われるものとされています(令和7年6月「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(別冊)投資運用関係業務受託業者向けの監督指針」Ⅲ-3-1-2(13頁))。もっとも、かかる事項は、審査するために総合的に勘案する要素の一部であり、特定の要素への該当をもって直ちにその人的構成の適否等を判断するものではないとされていることには注意が必要です。
① その行う業務に関する十分な知識及び経験を有する役員又は使用人の確保状況及び組織体制に照らし、業務を適正に遂行することができると認められるか
② 役員又は使用人のうちに、業務運営に不適切な資質を有する者があることにより、投資運用関係業務受託業に係る業務の信用を失墜させるおそれがあると認められることはないか
登録申請者の資本金及び純資産額が、投資運用業(顧客から金銭又は有価証券の預託を受けず、かつ、金融商品取引法施行令第15条の4の2に規定する者に顧客の金銭又は有価証券を預託させない場合に限る。)に係る資本金要件(1000万円)と同程度の水準になっているか(同施行令第15条の7第1項第4号参照)。
投資運用関係業務に係る2024年の金融商品取引法の改正の詳細については以下のニューズレターもご参照ください。
ニューズレター(2024年9月20日):「投資運用業に関する令和6年(2024年)金融商品取引法改正と登録要件・審査手続のポイント」
パートナー 井上 正範
パートナー 稗田 直己
アソシエイト 山本 祐紀
老朽化したマンションの増加等の社会経済情勢の変化に鑑み、マンション等の区分所有建物の管理及び再生の円滑化等を図ることを目的として、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「マンション管理再生円滑化法」といいます。)が2025年5月30日に公布され、2026年4月1日から施行されます。本稿では、マンション管理再生円滑化法により改正された法律のうち、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)について、主な改正の概要をご紹介します。なお、改正後の区分所有法を「改正法」、改正前の区分所有法を「旧法」といいます。
集会の議事は、区分所有法又は規約に別段の定めがない限り、「出席した」区分所有者及びその議決権の各過半数で決することとされました。改正前は、欠席者は反対者と同様に取り扱われていました。また、裁判所は、区分所有者又はその所在を知ることができない場合は、当該区分所有者(「所在等不明区分所有者」)以外の区分所有者(「一般区分所有者」)又は管理者の請求により、一般区分所有者による集会の決議ができる旨の裁判をすることができることとされ、所在等不明区分所有者は、集会における議決権を有しないこととされました。
改正前は、共用部分の変更は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決するとされていました。改正法では、共用部分の変更に関して、以下のように集会の決議の多数決要件が緩和されました。
① 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、集会において、区分所有者の過半数かつ議決権の過半数を有する者が出席し、出席した区分所有者及びその議決権の各4分の3以上の多数による決議で決する。
② 上記①の決議により共用部分の変更をする場合において、規約に特別の定めがあるときは、当該共用部分の変更に伴い必要となる専有部分の保存行為等は、集会において、区分所有者の過半数かつ議決権の過半数を有する者が出席し、出席した区分所有者及びその議決権の各4分の3以上の多数による決議で決することができる。
③ 共用部分の設置又は保存に瑕疵があり、他人の権利又は法律上保護される利益が侵害されるおそれがある場合等については、上記①及び②の集会の決議要件の「4分の3」は「3分の2」とする。
集会における建替え決議は、改正前と同様に、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数による決議が必要です。しかし、建物が、地震又は火災に対する安全性に係る建築基準法等への不適合などに該当する場合には、決議要件が5分の4以上から4分の3以上に緩和されました。また、建替え決議があったときは、建替え決議に賛成した区分所有者等は、専有部分の賃借人に対して賃貸借の終了を請求でき、当該賃貸借は請求があった日から6か月を経過することによって終了することとなりました。但し、当該賃借人に対する損失補償が必要です。
裁判所は、区分所有者又はその所在を知ることができない専有部分等について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、「所有者不明専有部分管理人」に対して管理することを命ずる処分(「所有者不明専有部分管理命令」)をすることができるとされました。
裁判所は、区分所有者による専有部分の管理が不適当であることによって他人の権利が侵害される場合等において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、「管理不全専有部分管理人」による管理を命ずる処分(「管理不全専有部分管理命令」)をすることができるとされました。また、裁判所は、区分所有者による共用部分の管理が不適当であることによって他人の権利が侵害される場合等において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、「管理不全共用部分管理人」による管理を命ずる処分(「管理不全共用部分管理命令」)をすることができるとされました。
改正前は、集会の招集通知には会議の目的たる事項を示して、少なくとも1週間前に区分所有者に発しなければならないとされ、この1週間という期間については規約で伸縮できるとされていました。改正法では、招集通知には、議案の要領まで記載することが必要となり、期間の伸長のみできることとされました。また、利害関係を有する占有者がいる場合の集会の招集の掲示についても議案の要領を掲示することが必要となりました。
区分所有者は、国内に住所等を有しない場合等には、その専有部分等の管理に関する事務を行わせるため、国内に住所等を有する者を管理人として選任できるとされました。
専有部分のある建物が滅失した場合において、当該建物に係る敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であった場合、又は当該建物の附属施設等につき数人が共有持分を有していた場合は、それらの権利を有する「敷地共有者等」は、その滅失の日から起算して5年を経過する日までの間は、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるとされました。また、上記の集会において、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で、建物の再建決議及び敷地売却決議をすることができるとされました。
建替え承認決議について、集会において、議決権の過半数を有する団地建物所有者が出席し、出席した団地建物所有者の議決権の4分の3以上の多数によりすることができるとされました。改正前は、集会において議決権の4分の3以上の多数による承認決議が必要とされていたため、決議要件が緩和されました。
一括建替え決議について、集会において、①団地内建物の区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数ですることができることとし、かつ、②当該集会において、当該団地内建物のうちいずれか1以上の建物につき、その区分所有者の3分の1を超える者又は区分所有法第38条に規定する議決権の合計の3分の1を超える議決権を有する者が反対した場合は、この限りでないこととされました。改正法では、上記①の全体要件は旧法と同様の要件としつつ、上記②の各棟要件について、各棟につき3分の2以上の賛成がある場合に限り一括建替えが可能となる仕組みを改め、各棟につき3分の1以上の反対がない限り一括建替えを可能とする仕組みとしました。
当該団地内建物及びその敷地につき一括して全部を売却する旨の決議(「団地内建物敷地売却決議」)についても同様です。
パートナー 東山 敏丈
パートナー 藤井 雅樹
パートナー 山内 大将
パートナー 関口 恭平
パートナー 三嶽 一樹
金融庁は、2025年4月18日、「事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)」等(案)を取りまとめ、公表しました(※1、※2)
(※1)金融庁:「『事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)』等(案)の公表について」
(※2)金融庁:「事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)(案)」
2024年に成立した事業性融資の推進等に関する法律は、不動産担保や経営者保証等によらず、事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるように、企業価値担保権を創設しました。
企業価値担保権の活用により、ノウハウや顧客基盤等の無形資産を含む事業全体の価値を担保として資金調達することが可能となるため、企業価値担保権の利用が期待される事例として、事業承継をした場合、経営者保証が求められることを懸念して事業承継することを躊躇している事業者が挙げられています。
事業性融資の推進等に関する法律及びそのガイドラインは、このような懸念を持つ事業者による事業承継を促進させ得るという点において大きな影響があると考えられます。
事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン(案)は、企業価値担保権について、以下の点などについて留意が必要である等と述べています。
① 「企業価値担保権の設定及び実行それ自体は、企業価値担保権設定者が締結している他の契約の相手方(商取引の相手方、労働者等)を拘束するものではなく、このことは、企業価値担保権が設定されていない場合と同様である」「例えば、企業価値担保権の実行手続において債務者の事業が第三者に譲渡される場合においても、会社法等の事業譲渡と同様に、個々の契約の移転にあたり契約の相手方の個別の同意が必要となる」
② 「企業価値担保権の設定そのものによリ、労働契約その他の契約や労働条件について、変更が生じるものではない。また、企業価値担保権者等は労働条件等(債務者における人員整理や労働条件の引下げ等)について決定する等の権限を有するものではなく、企業価値担保権設定の目的も、企業価値担保権者等が労働条件等に影響を及ぼすことでない」
③ 「金融機関においては、企業価値担保権が設定されている場合に限らず、借り手に対して取引上の優越的な地位を不当に利用し、労働条件の引き下げ強制を含む、取引の条件又は実施について不利益を与えるような行為を行うことは銀行法令等において禁じられている」
④ 「企業価値担保権の実行においては、事業を解体せず雇用を維持しつつ承継することが原則となる」「企業価値担保権の実行にあたっては、管財人には、事業譲渡の金額の多寡のみを問題にするのではなく、雇用の維持や取引関係の維持、その他多様な事情を考慮して最も適切な承継先を選定することが求められると考えられる」
⑤ 「事業者においては、企業価値担保権を設定する場合も含め、例えば、労働組合等への情報提供などにより、事業者が置かれている環境や経営課題・資金調達の方法等(担保権が設定される場合には、その内容も含む)について、事業者の状況に応じて労働者と意見交換を図ることが考えられ、労使の意見も踏まえながら、そうした労働組合等への情報提供等の促進に向けて取り組むことが望ましい」
企業価値担保権の導入は、事業承継に新たな可能性をもたらします。企業価値担保権の設定や実行、金融機関との交渉、契約書の作成等について弁護士が関与することが有効であると考えられるため、必要に応じて弁護士に相談することをご検討下さい。
東京証券取引所は、2025年5月13日、2024年度に発生した不適正開示の状況を公表しました(「2024年度の不適正開示の発生状況等について」。以下「本公表資料」といいます。)。「不適正開示」は有価証券上場規程に基づく会社情報の開示、具体的には適時開示が適正に行われなかったことを意味します。本公表資料は、上場会社における不適正開示の現況と対策を説明するものです。不適正開示の件数は近年増加していますので、上場会社においてはその予防策を講じるとともに、発生してしまった場合の対応策をあらかじめ整理しておくことが重要です。
直近3ヶ年度における不適正開示が発生した件数及び上場会社数は以下のとおり推移しており、近年では発生数が増加傾向にあることが分かります。
2024年度の不適正開示の原因としては開示漏れ・遅延が73.4%と最も多い状況です。また、同一年度内に不適正開示が複数回発生した事例や、前年度に引き続き不適正開示が発生した事例もあり、再発防止に向けた取組みの重要性が指摘されています。
開示項目別では、いわゆるバスケット条項に不適正開示が生じやすいとされています(集計対象とした全213件のうち77件)。個別の開示項目に該当しない場合や、個別の開示項目に該当するものの軽微基準をみたす場合に、バスケット条項に該当するとの認識がなく開示漏れとなる事例が多く報告されています。特に、決定事実は「資金の借入」や「有価証券の売却」、発生事実は「子会社からの配当金」や「補助金・助成金収入」について開示漏れが生じやすい傾向にあります。特にこれらの項目の開示が漏れることがないよう留意が必要です。「主要株主又は主要株主である筆頭株主の異動」についても不適正開示が多く生じています(集計対象とした全213件のうち48件)。新株予約権の行使や株式の発行、自己株式の取得・処分により、総株主の議決権の数が変動し主要株主の異動が生じていたものの、その確認が漏れてしまう例が多く生じています。
上記のほか、本公表資料において不適正開示との関係で留意すべき点として以下が強調されています。
本公表資料は、単純な確認漏れや適時開示制度の理解不足が不適正開示につながっていることから、不適正開示の発生防止のため以下の対応が重要としています。
仮に不適正開示が発生した場合には、改善報告書の提出や公表措置、上場契約違約金などの措置が課され得ます(上場管理等に関するガイドラインIIIの3や4に規定の事情が考慮されます)。上場会社においては、早急に原因究明を行うとともに、適切かつ的確な情報開示を行うなどの対応をする必要がありますので、対応フロー等をあらかじめ整理しておくことも重要です。
パートナー 渡邉 弘志
パートナー 東道 雅彦
パートナー 川村 宜志
アソシエイト 福田竜之介
公正取引委員会は、令和6年11月1日から施行が開始された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス保護法」といいます。)に関して、令和7年5月15日、令和6年度におけるフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組とフリーランス保護法第2章の運用状況を公表しました(※1、以下「本公表」といいます。)。フリーランス保護法は、事業者とフリーランスとの取引を規律してきた独占禁止法・下請法(新・中小受託取引適正化法)に加わる新たな法律であり、本公表は、フリーランス保護法施行後初の運用状況の公表であって、実務の参考となることから、その概要等をご紹介いたします。
(※1)公正取引委員会「令和6年度におけるフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組及びフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況」(令和7年5月15日)
フリーランス保護法は、フリーランス(特定受託事業者(第2条第1項))が安心して働けるよう、フリーランスと発注事業者の間の取引の適正化とフリーランスの就業環境の整備を目的とする法律であり(第1条)、具体的には、発注事業者について、①書面等による取引条件を明示する義務(第3条)、②報酬支払期日を設定する義務(第4条)、③禁止行為(第5条)、④募集情報の的確表示義務(第12条)、⑤育児介護等と業務の両立に対して配慮する義務(第13条)、⑥ハラスメント対策に係る体制整備の義務(第14条)、⑦中途解除等の事前予告・理由開示の義務(第16条)を定めるものです。
なお、フリーランス保護法と独占禁止法のいずれにも違反する行為又はフリーランス保護法と下請法のいずれにも違反する行為については、原則として、フリーランス保護法が優先して適用されることとされています(※2、フリーランス保護法の定義・解釈等の詳細についてはこちらのガイドラインをご参照ください。)。
(※2)内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和6年10月18日改定)
本公表においては、フリーランスに係る取引の適正化に向けて行われた取組として、①フリーランス取引の状況についての実態調査、②フリーランス保護法の普及啓発、③フリーランス保護法に係る相談対応があげられています。このうち、②の一環として公正取引委員会ウェブサイトの「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」ページに掲載されている「フリーランス・事業者間取引適正化等法に関するQ&A」(※3)は、フリーランス保護法の定義の解釈や運用を理解する上で重要ですので、発注事業者とフリーランスのいずれにおいても確認することが必要です。
(※3)公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」(令和6年12月20日最終更新)
本公表においては、フリーランス保護法の運用状況として以下の調査の実施状況等や違反被疑事件の処理状況も公表されています。
● フリーランスとの取引に関する調査
公正取引委員会は、フリーランス保護法第11条第1項及び第2項並びに第20条第1項及び第2項の規定に基づき、問題事例の多い業種に係る発注事業者3万名を対象に、アンケート形式で調査を行いました。当該調査における質問の内容は、取引条件の明示義務や期日における報酬の支払義務、継続して発注する場合の委託事業者の遵守事項との関係で問題がないかといった観点からのものとなっています(※4)。
また、本調査については定期的に行われることが示唆されています。調査対象となった業務委託事業者が報告をせず、又は虚偽の報告をした場合には罰金や過料に処せられる場合がありますので(フリーランス保護法第24条~第26条)、注意が必要です。
(※4)公正取引委員会ウェブサイト「事務総長定例会見記録」(令和7年2月5日)
● フリーランス保護法に基づく違反事実の申出(第6条・第17条)件数・・・92件
上記調査や申出等これまでに得た情報を踏まえた公正取引委員会によるフリーランス保護法被疑事件の処理状況は以下のとおりです。
● 新規着手件数・・・137件
● 処理の状況・・・96件を処理(うち、54件について違反行為等があると認め指導を実施され、そのうち45件については、第22条に基づき概要が公表されました。発表された事例のほとんどが取引条件の明示義務違反となっています。)
以上のとおり、フリーランス保護法は施行間もない法律ですが、既に多くの調査・事件処理が行われています。また、近年、下請法が改正されて中小受託取引適正化法になるなど、中小事業者の保護が政府の重要政策となっていることなどから、フリーランス保護法においても、今後も更なる取組や執行の強化が予想されますので、その動向に注目していく必要があります。
「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」(以下、それぞれ「GX推進法改正法」、「資源有効利用促進法改正法」といいます。)が、令和7(2025)年5月、第217回通常国会において可決・成立し、令和8(2026)年4月1日から施行される予定です。
主な改正事項は、脱炭素成長型経済構造(いわゆるグリーントランスフォーメーション(GX))への円滑な移行をさらに推進するための、①排出枠取引制度の法定化(排出量の削減)、②化石燃料賦課金の徴収措置の具体化、③GX分野への財政支援の整備、ならびに④再生資源の利用促進および定期報告義務の導入等で、事業者に対して罰則を伴う義務を課す項目もあります。特に重要なポイントは以下のとおりです。
脱炭素成長型投資事業者(二酸化炭素の直接排出量が一定規模(10万トン)以上の事業者)は、二酸化炭素の排出を、無償で割り当てられた排出枠の限度におさめる義務を負うこととなり、実質的には排出量の削減および排出枠取引制度に参加することが求められることになります(GX推進法改正法34条)。また、排出枠を割り当てられた事業者は排出量実績の報告義務(同35条1項)を負い、これに違反した場合は、50万円以下の罰金(同143条5号)を科される場合もあります。
脱炭素化のために利用することが特に必要な再生資源の利用義務を課す製品(「指定脱炭素化再生資源利用促進製品」。資源有効利用促進法改正法2条11項。)が指定されることとなりました。同製品の生産量が一定規模以上の製造事業者等は、その生産における、脱炭素化再生資源の利用に関する計画の提出義務(同23条1項)及び同計画の実施状況について毎年定期報告を行う義務(同24条)を負うこととなります。また、事業者は、それぞれの義務に違反した場合に20万円以下の罰金を科される場合もあります(同72条1号及び2号)。
今回の改正によって、指定再資源化製品(パソコンおよび小形二次電池。現行法において回収や再資源化義務あり。)については、使用済みの当該製品の自主回収や再資源化を行う事業者がその実施に関する計画を主務大臣に提出し、認定を受けることができるようになります(同30条)。認定を受けた事業者は、産業廃棄物収集運搬および処理業等の廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)上の業許可を受けずに、当該計画に係る再資源化に必要な行為を業として実施することができるようになります(資源有効利用促進法改正法57条)。
上記の改正については、詳細な基準等が政省令に委任されており現時点においては明らかになっていないことから、対象となる事業者においてとるべき具体的な措置については、今後の議論等を注視していく必要があります。
本国会において、企業等にカスタマーハラスメント(カスハラ)防止対策及び求職者に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)防止対策を義務づける改正法(以下「本改正法」といいます。)(※)が成立しました。施行日は公布から1年6月以内の日とされており、2026年中の施行が予定されています。以下、本改正法により義務づけられたカスハラ防止対策及び就活セクハラ防止対策の概要について説明します。
(※)労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律
本改正法において、カスハラは以下のとおり定義されています。
職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより当該労働者の就業環境を害すること |
また、本改正法は、カスハラにつき事業主が雇用管理上の措置義務を負う旨を定めています。措置義務の内容は、厚生労働大臣が今後定める指針において定められる予定ですが、労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)の参考資料(※)においては以下のとおり示されています。
① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ カスハラに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスハラの発生を契機として、カスハラの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのものの改善を図ることも含む)
④ これらの措置と併せて講ずべき措置
(※)第80回労働政策審議会雇用環境・均等分科会(2025年1月24日)参考資料1-1
本改正法において、就活セクハラは以下のとおり定義されています。
求職者その他これに類する者として厚生労働省令で定めるもの(求職者等)による求職活動その他求職者等の職業の選択に資する活動(求職活動等)において行われる当該事業主が雇用する労働者による性的な言動により当該求職者等の求職活動等が阻害されること |
また、本改正法は、就活セクハラにつき事業主が雇用管理上の措置義務を負う旨を定めています。措置義務の内容は、今後厚生労働省の指針により定められる予定ですが、労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)の参考資料(※)においては以下のとおり示されています。
① 事業主の方針等の明確化に際して、面談等を行う際のルールを策定する
② 求職者等の相談に応じられる窓口を求職者等に周知する
③ セクハラ被害が生じた場合に相談対応等を行う
(※)第80回労働政策審議会雇用環境・均等分科会(2025年1月24日)参考資料1-1
上記措置義務に違反した事業主は行政指導や企業名公表の対象となります。カスハラ被害や就活セクハラ被害が生じてこれらが公表された場合、企業にとっては大きなイメージダウンとなることが予想されることから、早急な対策が必要であると思われます。
まず、どのような言動がカスハラに該当するかは「その雇用する労働者が従事する業務の性質」等に照らして判断する必要があることから、各社ごとに整理しておく必要があります。また、厚生労働省が公表した調査結果(※)によると、就活中にセクハラを受けた者は3割超に上り、勤務先で労働者がセクハラを受けた者の割合(6.3%)と比較して非常に高くなっていますので、職場のセクハラと同様に就活セクハラも許されない旨を社内研修等を通じて周知徹底する必要があると思われます。
(※)令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書
東京地裁は、非上場株式の相続税評価が争われた事案で、令和7年1月17日、財産評価基本通達(以下「評価通達」といいます。)第6項(いわゆる“総則6項”)を適用して純資産価額方式を採用した国の相続税の更正処分等を取り消しました(令和4年(行ウ)第100号相続税更正処分等取消請求事件)。
本件については、本記事の執筆時点において詳細が公表されておらず、また、近日中に控訴審の判断が示される予定があるとの情報はあるものの最終的な判断内容は確定していません。もっとも、今後のタックスプランニングやウェルスマネジメントに当たって参考になり得る事案ですので、以下、概要をご紹介します。
本件は、原告らが、被相続人から相続又は遺贈により取得した非上場会社(X社)の株式(以下「本件株式」といいます。)について、評価通達第179項(3)但書に基づき併用方式によって価額を評価(1株当たり株価1858円/課税価格の合計21億2513万4000円)をしたところ、税務当局より、本件株式を当該方式によって評価することが著しく不適当として、評価通達第6項を適用し、評価通達第189-3項本文に基づき純資産価額方式により評価(1株当たり株価3443円/課税価格の合計37億3843万7000円)すべきとして、原告らに対し増額更正処分等がなされたことから、原告らより、当該処分等の取消し等の請求がなされた事案です。
評価通達第6項の適否については、最高裁判所令和4年4月19日判決(被相続人が総額13億8700万円の不動産を銀行から10億800万円の借入れを行う形で取得した後死亡し、相続人が当該不動産を評価通達に従って約3億3370万円と評価して相続税の申告をした事案。以下「令和4年判決」といいます。)において、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」(特段の事情)がある場合には、財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額にすることも平等原則に違反するものではない旨の判断がなされています。
本件については、当初、X社は併用方式よりも評価額が高くなる「株式等保有特定会社」「比準要素数1の会社」に該当していました。被告(国)は、令和4年判決を踏まえ、原告らがX社についてこれらの会社に該当しないようにするため、X社による新株発行を決議し、被相続人が出資を行い、また、配当を行った(以下「本件新株発行等」といいます。)として、本件株式の価額を評価通達に定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは平等原則に反しないなどと主張しました。
東京地裁は、本件株式の価額を併用方式により評価することを前提とすると、本件新株発行等により相続税の総額等は相当限度減少するものの、この減少は、原告及び被相続人が本件新株発行等をしたことにより直ちに生ずるものではなく、評価通達第179項(3)が、小会社の株式の価額の評価方法について、納税義務者による純資産価額方式と併用方式の選択を認めていることにも起因するものといえることなどから、実質的な租税負担の公平に反するというべき特段の事情があるということはできないなどとして、増額更正処分等の取消しを認容する判断をしています。東京地裁の判断には様々な評価がなされており、今後の控訴審の判断が注目されます。
パートナー 東山 敏丈
パートナー 川村 宜志
パートナー 猿倉 健司
パートナー 百田博太郎
アソシエイト 甲斐 成輝
令和7年3月14日、中小企業庁は昨今の物価高や人手不足等の影響を受けている中小企業者を支援するため、新たな保証制度として、「協調支援型特別保証制度」及び「経営改善サポート保証(経営改善・再生支援強化型)」の2つの制度の開始を発表いたしました(中小企業庁HP)。以下では、かかる2つの制度について概要をご紹介いたします。
本制度は、原材料の価格高騰、物価高、人手不足等の影響を受ける中小企業者に対し、金融機関のプロパー融資と保証付き融資を組み合わせることなどにより、金融仲介機能の一層の強化を図り、人手不足に対応するための省力化投資による中小企業の経営の安定や事業の発展など、多岐にわたる経営課題解決への取組みを後押しすることを目的とした制度で、令和10年3月末までの3年間の時限措置として運用されます。
利用できるのは、以下のいずれかに該当する中小企業者とされています。
1. 中小企業者が申込をする金融機関から本制度による保証付き融資の実行と原則同時に本保証付き融資額の1 割以上(融資期間12か月以上)のプロパー融資を受ける
2. 中小企業者が申込をした金融機関の支援を受けつつ、自ら経営行動計画の策定並びに計画の実行及び進捗の報告を行う
保証限度額:2億8000万円
保証期間:一括返済の場合1年以内、分割返済の場合10年以内
据置期間:運転資金につき1年以内、設備資金及び運転設備資金につき3年以内
金利:金融機関所定の金利
保証料率:0.45~1.90%
保証料補助:上記①の利用要件1の場合、保証申込日に応じて以下のとおりとなり、上記①の利用要件2の場合 1/4相当となる。
令和7年3月14日~令和8年3月31日保証申込分 1/2相当
令和8年4月1日~令和9年3月31日保証申込分 1/3相当
令和9年4月1日~令和10年3月31日保証申込分 1/4相当
本制度は、令和7年3月31日に終了した「経営改善サポート保証(感染症対応型)」の後継として、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、借入が過大となり、また、物価高や人手不足等の影響により、厳しい状況に置かれている中小企業者について、早期に事業再生の取組みを進めることを目的とする制度です。
利用要件は特に存在せず、保証内容は以下のとおりとなっています。
保証限度額:2億8000万円(一般の普通・無担保保証とは別枠)
保証割合:責任共有保証(80%保証)。ただし、100%保証及びコロナ禍のセーフティネット保証5号からの借換については100%保証(いずれも保証付きの既往借入金の範囲内の額を借り換える場合に限る。)。
保証期間:15年以内
据置期間:3年以内
金利:金融機関所定の金利
保証料率:0.30%(本来の保証料率は原則0.80%または1.00%であるが、国の補助により0.30%負担となる。)
今後も経済情勢に応じて、新たな支援制度が開始され、あるいは、既存の支援制度が廃止されることが定期的に生じ得るため、中小企業の事業再生等における関係者(債務者・債権者・実務専門家等)におかれましては、その時々に応じた最適な支援制度を活用できるよう、タイムリーな情報収集が必要になってくるものと思われます。
AIに特化した初めての法律である「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が、2025年6月4日に公布されました。
本法の規定のほとんどは国の責務を定めたものであるものの、民間事業者への責務として、AI関連技術を活用した製品又はサービスを開発・提供・活用しようとする者(「活用事業者」と定義されます。)は、国・地方公共団体が実施する施策(調査研究等)に協力しなければならないとされており(法7条)、国等が実施する施策に協力しなければ、国による指導・助言その他必要な措置の対象となる可能性があります(法16条)。これらを定めた本法の第1章(総則)と第2章(基本的施策)は公布日と同日に施行されています(国の責務を定めた第3章(人工知基本計画)と第4章(人工知能戦略本部)は公布日から3か月以内に施行される予定です。)。
本法は、EU AI Act(AI規則)と異なり、リスクの高いAIシステムの利用の禁止規定や罰則規定は定められておらず、あくまでAIに関する基本法として位置付けられます。今後個別法やガイドラインによりAI推進法を前提とした民間事業者の義務等が定められることも予想されますので、今後の進展に注視していく必要があります。
本法の概要については、U&Pニューズレター「AI推進法(AI新法)の解説-附帯決議を踏まえて-」(眞田大輝)をご参照ください。
いわゆるセキュリティ・クリアランス制度を定めた法律である「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」が、2025年5月16日に施行されました。
セキュリティ・クリアランス制度とは、政府が保有する情報のうち安全保障上重要な情報を指定し、その情報にアクセスする必要がある者に対し、政府が調査を実施して信頼性を確認できた場合に限り、当該情報へのアクセスを認める制度です。
日本では、セキュリティ・クリアランス制度に関する法律として特定秘密保護法が既に存在していますが、同法が①防衛、②外交、③特定有害活動の防止、及び④テロリズムの防止という4分野について対象としているのに対し、本法は重要なインフラや重要な物資のサプライチェーンに関する一定の情報を対象としており、より広い範囲が保護対象となっています。
本法では、以下の3要件を満たす情報として行政機関の長が指定した情報が、「重要経済安保情報」としてセキュリティ・クリアランス制度の対象となります(法3条1項)。
① 「重要経済基盤保護情報」(重要なインフラや重要な物資のサプライチェーンに関する一定の情報)に該当する情報のうち、
② 公になっておらず(非公知性)、かつ
③ わが国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため特に秘匿する必要性があるもの(秘匿の必要性)
重要経済安保情報は、①行政機関から適合事業者として認定された事業者の従業者(派遣労働者を含みます。)であって、②適性評価において重要経済安保情報を漏えいするおそれがないと認められた者に限り、保有し、取り扱うことができますので、重要経済安保情報を取り扱う可能性のある事業者は、適合事業者の認定や従事者の適正評価の実施などの手続を経る必要があります。
また、重要経済安保情報を取り扱う業務に従事する者が業務により知り得た重要経済安保情報を漏らした場合、5年以下の拘禁刑と500万円以下の罰金のいずれか又は両方の対象になり、かつ両罰規定が設けられていることなどから、重要経済安保情報を取り扱う可能性のある事業者は、重要経済安保情報を取り扱う従業者に対して十分な管理・教育等を実施することがポイントになります。
適合事業者の認定や従業者の適正評価のプロセス等については、2025年5月2日に内閣府政策統括官(経済安全保障担当)から公表された重要経済安保情報保護活用法の運用に関するガイドライン(適合事業者編)及び適性評価に関するQ&Aが参考となります。
パートナー 辻 晃 平
ベトナムにおいては、包括的な個人情報保護規制である「個人情報保護に関する政令13号」(以下「PDPD」といいます。)が2023年に施行されました。これをさらに具体化する形で、昨年9月に「個人データ保護法」(以下「PDPL」といいます。)の法案が公表され、本年5月に国会へ提出されました。PDPL(およびその基礎であるPDPD)は、ベトナムに拠点を有する日本企業のみならず、ベトナム向けに事業を行う日本企業にも適用される可能性があり、多くの日本企業にとって看過できない規制といえます。そこで以下では、PDPL法案の概要について、PDPDからの変更点(規制が追加された点)を中心に説明します。
PDPLの適用対象者について、PDPDにおいて定められていた以下の①~④に加え、対象範囲の明確化の趣旨で⑤が追加されました。
① ベトナムの団体、組織及び個人
② ベトナムにある外国の団体、組織及び個人
③ 外国で活動するベトナムの団体、組織及び個人
④ ベトナムにおける個人データの処理に直接関与又は関連する外国の団体、組織及び個人
⑤ ベトナムの領土内で外国人の個人データを収集及び処理する団体、組織及び個人
PDPDでは、本人への情報提供義務、安全管理措置を講じる義務といった一般的な義務に加え、特に注意すべき事業者の義務として、処理活動の記録義務、法令違反を検出した場合の当局(公安省)への72時間以内の通知義務、個人情報処理影響評価の実施・届出義務が定められていました。
PDPL法案では、これに加え、マーケティング目的で個人データを使用する場合に関する詳細な規制が定められました。具体的には、①スパム対策等に関する法律に準拠する義務、②本人の要求に応じて情報送信を直ちに停止する義務、③マーケティング活動を第三者に委託することの禁止が追加されました。
さらに、PDPL法案では、行動ターゲティング広告、ビッグデータの処理、AIの研究開発、従業員のモニタリング及び採用など、特定の利用場面での処理に関する規制も新たに設けられています。たとえば、事業者が行動ターゲティング広告を行う際に、個人データを第三者と共有することについて本人にオプトアウトの機会を与える義務が定められています。
罰則の詳細は別途政令(現時点では未施行)で定められていますが、違反の種類によって①1000万VNDから2000万VND(日本円で約55,000円から110,000円※)の罰金刑又は②5000万VNDから7000万VND(日本円で約275,000円から385,000円※)の罰金刑の対象となります。加えて、営業許可の取消や、公開謝罪が義務付けられる場合があり、注意が必要です。
(※)1VND=約0.0055円で換算
PDPL法案は、2026年1月1日の施行が予定されています。今後、法案審議が順調に進むと仮定すれば、施行までの期間は限られているといえるでしょう。従業員のモニタリングや採用に関する規制がベトナム拠点を有する日本企業に適用されるのはもちろん、マーケティング、行動ターゲティング広告、ビッグデータ、AIの開発といった領域での規制は、ベトナム向けに事業を展開する日本企業に対しても適用される可能性があります。PDPL法案が企業活動に与えうる影響を十分に踏まえ、今後の動向を引き続き注視することが重要です。