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牛島総合法律事務所 Client Alert 2023年8月15日号
<目次>

  1. コーポレート/会社法
    公開買付制度及び大量保有報告制度等の検討課題の概要
  2. M&A:
    経産省「企業買収における行動指針(案)」に係るパブリックコメントの受付を開始
  3. 訴訟/仲裁:
    社内イントラネットへの新聞記事の掲載に関する近時の裁判例
  4. ファイナンス:
    第15回不動産投資市場政策懇談会について
  5. 不動産/ファイナンス:
    マンションの相続税評価に係る通達案について
  6. 事業継承/株主権:
    同族会社が株式交付税制の適用対象から除外に
  7. 危機管理/不祥事対応:
    「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」の公表
  8. 独占禁止法:
    「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の制定
  9. 環境法:
    GX脱炭素電源法成立に伴う関連法令の改正
  10. 労働法:
    労働条件の明示に関する改正について
  11. 税務:
    信託型SOの課税関係を巡る国税庁Q&Aの公表
  12. 事業再生/倒産:
    収益力改善支援に関する実務指針
  13. IT/個人情報/知的財産:
    個人データの漏えいに関する個人情報保護委員会の行政指導、注意喚起等
    「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」第1.1版の公表
    改正次世代医療基盤法の公布
    日本への十分性認定のファーストレビューに関する声明の公表
    ベトナム個人情報保護政令の施行
  14. 国際業務:
    輸出管理に関するアメリカ及び中国の動向

1. コーポレート/会社法:公開買付制度及び大量保有報告制度等の検討課題の概要

パートナー   石田 哲也
アソシエイト 遠田 昂太郎

今年4月12日付けのClient AlertClient Alert 2023年4月12日号|牛島総合法律事務所|Ushijima & Partners (ushijima-law.gr.jp)にてご説明しました、公開買付制度及び大量保有報告制度の改正に向けた検討に関しまして今年6月5日、金融庁のワーキング・グループの第1回目の会議(以下「本会議」といいます。金融審議会「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」(第1回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp))が開催され、公開買付制度・大量保有報告制度等の検討課題の概要が示されました。以下、その内容について簡単に紹介いたします。

(1) 公開買付制度に関する検討課題について

近時の市場内取引等を通じた非友好的な買収事例の増加(東京機械製作所の事案等)といった市場環境の変化を受け、本会議では、現状の公開買付制度に関する問題点が複数指摘されました。具体的には、強制公開買付規制の適用対象の範囲の拡大(現行制度では適用対象とされていない市場内取引(立会内)により議決権の3分の1超を取得する取引等も適用対象とすべきか)の問題、及び実際の議決権行使比率にかんがみれば議決権の3分の1に満たない株主でも事実上会社法上の特別決議を阻止することができることを考慮した、閾値の引き下げの問題(3分の1より低い割合とすべきか)が挙げられました。現行法上は存在しない公開買付けの差止制度を設けることの是非についても議論がなされております。

(2) 大量保有報告制度に関する検討課題について

機関投資家による上場会社とのエンゲージメントが活発化する中、大量保有報告制度に関する解釈の不明確さが効果的なエンゲージメントを妨げているという問題意識から、本会議では、現状の大量保有報告制度に関する問題点が複数指摘されました。具体的には、共同保有者で合計5%超の株券等を保有する場合には大量保有報告書を提出する義務があるところ、当該「共同保有者」の範囲の明確化の必要性等が指摘されました。加えて、現状、大量保有報告書の提出遅延等が課徴金の対象となっているものの、実際には、課徴金納付命令が出されることは非常に稀で、提出遅延等が相次いでおり、大量保有報告制度の実効性が確保できていないのではないかという問題点が挙げられております。

(3) 実質株主の透明性に関する検討課題について

現行制度において、名義上の株主ではなく株式について議決権指図権限や投資権限を有する実質株主については、大量保有報告制度の適用対象となる場合を除き、企業や他の株主が実質株主を把握する制度が十分でないという問題点が指摘されてきました。本会議では、諸外国の制度(例えば米国では、SECが、運用資産が一定金額以上の機関投資家に対して保有銘柄についての明細の提出を求め、それを公開しています。)も参考に、企業や他の株主が実質株主を効率的に把握するための方策について検討がなされるべきとの指摘がなされました。

(4) 終わりに

本会議では、主として上記各検討課題に過不足はないか、各課題の優先順位をどのように考えるか等に関する議論が行われました。これらの議論はまだ緒に就いたばかりですが、強制公開買付規制の適用対象の範囲の拡大等、本会議での検討結果に基づき大きな法改正が行われた場合、M&Aのプロセスに大きな影響を与えますので、今後の動向を注視していただく必要があると考えられます。

2. M&A:経産省「企業買収における行動指針(案)」に係るパブリックコメントの受付を開始

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 山内 大将
アソシエイト 阿部  航

2023年6月8日、経産省は「企業買収における行動指針(案)」(以下「本指針案」)に係るパブリックコメントの受付を開始しました。

経済産業省は、公正なM&A市場における市場機能の健全な発揮により、経済社会にとって望ましい買収が生じやすくすることを目指し、買収を巡る両当事者や資本市場関係者にとっての予見可能性の向上やベストプラクティスの提示に向けた検討を進めるべく、2022年11月に「公正な買収の在り方に関する研究会」(以下「本研究会」)を立ち上げ、買収に関する当事者の行動の在り方等について検討を行ってきました。Client Alert2023年4月12日号では2023年3月28日に開催された本研究会(第6回)における議論用に作成された指針原案について取り上げましたが、そこからさらに2回にわたり本研究会が開催され、指針原案も都度修正されてきました。主な修正点は以下のとおりであり、買収当事者等のベストプラクティスに係る考慮要素や範囲に変更が加えられています。

  • 買収提案を受領した場合に取締役会に付議するか報告に留めるかを判断するに当たっては、買収提案の具体性のみならず、買収者として企業を成長させたというトラックレコードや資力の蓋然性など買収者の信用力を考慮することが考えられる旨の追記
  • 「買収に関する検討時間の提供」の項目の追記
  • 利害関係者以外の過半数を要件とする決議に基づく対抗措置の発動がどのような場合に許容されるかについて、ベストプラクティスを示すことをやめ、参考として関連する裁判例を記載するに留めた(議論の一致をみなかったため)

今般、経済産業省は、本研究会における議論等を踏まえて、我が国経済社会において共有されるべきM&Aに関する公正なルールとして、「企業買収における行動指針」(以下「本指針」)を新たに策定する予定であるとし、広く国内外から意見を募集すべくパブリックコメントの受付を開始するに至りました。意見募集期間は2023年6月8日から2023年8月6日までとされており、提供のあった意見・情報については、本指針の最終決定における参考とされる予定です。意見は電子メールやe-Govの意見提出フォームから提出することができます。
本指針は取締役の善管注意義務・忠実義務について整理することを直接企図したものではないとされていますが、提示されたベストプラクティスを参照し、行動することによって、上記義務違反のリスクを下げるとともに、当事者間で合意した取引条件が尊重されやすくなることが期待されているということもあり(本指針案10頁脚注10。この点は本研究会(第7回)における指針原案で追記されました。)、本指針に係る動向については注視する必要があります。パブリックコメントの結果等の公示の中で実務上参照すべき経産省による考え方が示される可能性もありますので、パブリックコメントの結果についてもキャッチアップしていく必要があります。

 

3. 訴訟/仲裁:社内イントラネットへの新聞記事の掲載に関する近時の裁判例

パートナー 石川 拓哉
パートナー 石田 哲也
パートナー 薬師寺 怜
アソシエイト 甲斐 成輝

(1) はじめに

新聞記事をスキャンした多数の画像データを従業員が閲覧可能な社内イントラネット内の掲示板に掲載した行為が、新聞社の著作権を侵害するとして、日本経済新聞社と中日新聞社がつくばエクスプレスを運行する第三セクターである首都圏新都市鉄道に対してそれぞれ約4400万円の損害賠償を求めていた件に関して、知財高裁は、令和5年6月8日、著作権の侵害を認め、首都圏新都市鉄道に対して、日本経済新聞社に696万円、中日新聞社に約133万円を支払うよう命じる判決を下しました(※1)。
この裁判は、新聞記事が著作権法上保護される「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当すると知財高裁が判断した初めての裁判だと見られます。

※1:裁判所ウェブサイト掲載(日本経済新聞社が原告となる事件中日新聞社が原告となる事件)。なお、中日新聞社は判決全文を自社ホームページにて公開しています。

(2)新聞記事の「著作物」該当性について

首都圏新都市鉄道は、社内イントラネットに掲載された新聞記事は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)であるため、「著作物」に該当しないと主張しました。
これに対して知財高裁は、新聞記事一般については「訃報や人事異動等の事実をそのまま掲載するものから、主題を設定して新聞社としての意見を述べる社説まで様々なものがあって、…新聞記事であることのみから当然に著作物であるということはできない」としましたが(中日新聞社についての判決)、社内イントラネットに掲載された新聞記事については、「相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなど表現上の工夫」がされており、「当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、…取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫」がされているため、「いずれも作成者の思想又は感情が創作的に表現されたもの」と認められる(中日新聞社についての判決文)、「記事内容を分かりやすく要約したタイトルが付され、文章表現の方法等について表現上の工夫が凝らされている」(日本経済新聞社についての判決文)として、知財高裁として初めて新聞記事の「著作物」該当性を認めました。

(3)新聞社が受けた「損害」について

知財高裁は、損害については、著作権侵害が故意又は過失による場合、著作権者は「その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を損害額として賠償請求できることを定める著作権法114条3項の枠組みを用いて算定を行いました。
具体的には、新聞社が定める「著作物使用料規定【記事】」の内容には社内イントラネットでの利用が想定されている文言があることを認定した一方で、社内イントラネットの掲載に関する同規定に基づく徴収実績が必ずしも明らかでないこと、掲載から短期間で記事にアクセスする者が事実上いなくなることも認定したうえで、「(著作権への)侵害態様、著作権法114条3項に規定する額は著作権侵害があったことを前提に事後的に定められる額であること等を総合的に考慮すると…(同項に規定する額は)それぞれの記事の掲載の時期及び期間にかかわらず、掲載された記事1本当たり5000円」である(中日新聞社についての判決文)と判断しました。日本経済新聞社についても、同様に記事1件当たり5000円と認定しています。その上で、無断掲載があったと認定される日本経済新聞社の記事は1266本、中日新聞社の記事は232本として、これに一部弁護士費用相当額を加えた上記金額を損害として認定しています。

(4)終わりに

新聞記事にも様々な内容があり、社内で新聞記事の複製を行おうとする場合、著作権による保護の対象となるか否かについては慎重な判断が求められます。今般、新聞記事の著作物性が知財高裁においても明確に判断されました。これを契機に、改めて企業内での新聞記事を含めた著作物の複製行為の取扱いについて、コンプライアンスの観点からルールの見直しを行うことが求められるものと考えられます。

4. ファイナンス:第15回不動産投資市場政策懇談会について

パートナー 牧田 奈緒

令和5年7月11日、国土交通省不動産・建設経済局不動産市場整備課主催により、第15回不動産投資市場政策懇談会が開催され、不動産投資市場に係る政策動向を踏まえた上で、不動産投資市場の現状と課題について議論がなされました(建設産業・不動産業:不動産投資市場政策懇談会につい – 国土交通省 (mlit.go.jp))。
本稿では、同懇談会で議論された内容のうち、不動産ファイナンス分野に大きく関わると考えられる事項を中心に紹介します。 

(1)築古物件の戦略的更新

20年後の東京23区オフィスストック状況の予測によると、中小規模ビル・大規模ビルともに築古化が進むこと、2000年以降増加が続いているオフィスストックの総量も減少することを踏まえたうえで、築古物件の戦略的更新の対応として、①国土交通省・環境省共同主管の耐震・環境不動産形成促進事業について見直しがなされ、対象事業の環境要件の引き上げ、出資スキームの合理化等が行われていること、②不動産分野におけるESG投資の促進に向けた取組を後押しするものとして「不動産分野TCFD対応ガイダンス」や「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンス等が作成されていること、③環境認証ビル(グリーンビル)や不動産のレジリエンス評価に関する認証制度(ResReal)の活用等が紹介されました。現状、投資家が投資先にESGに係る配慮を求める動きが高まるなか、リートにおけるESGの取組が進んでいることなども踏まえ、今後、いかにしてこれらをより一層普及し、活用していくか、築古物件の更新に向けて不動産投資市場においてどのような取組が必要となるかが検討されることになりそうです。

(2)アセットの多様化

リート等の資産総額の順調な拡大傾向を受け、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」フォローアップ(令和4年6月9日閣議決定)において、「2030年頃までにリート等の資産総額を約40兆円とすること」を目標に掲げていること、また、鉄道業・建設業をはじめとした不動産業以外の新規リート設立の動きもあること等を踏まえたうえで、今後の課題として、証券化が進んでいない建物用途(具体的には、工場、研究所、本社ビル、小規模の店舗、競技場、ホール、病院、大学など)についても、実際に証券化された事例も踏まえつつ、潜在的なニーズと阻害要因等につき検討を進める必要があること等が確認されました。また、私募リート・不動産特定共同事業法に基づくクラウドファンディング・セキュリティトークンなど、新たな証券化手法が発展してきており、証券化の余地は拡大していることも指摘されています。

(3)デジタル田園都市対応

不動産特定共同事業法の平成29年改正により、小規模不動産特定共同事業の創設、クラウドファンディングに対応した環境整備がなされましたが、同改正後に不動産特定共同事業(クラウドファンディング案件を含む)の実績(地方での事業実績も含む)が増加傾向にあること、クラウドファンディングによる専門学校の事業拡大や保育所の開発などこれまで機関投資家からの投資対象とはなりづらい分野が案件化したこと(社会課題への解決にも繋がる事案)などが紹介されました。また、不動産を裏付けとしたセキュリティトークンの発行事例が増加傾向にあること、セキュリティトークン化された不動産特定共同事業持分についても開示規制が適用されること等を内容とする金融商品取引法の改正案が国会に提出されるなど環境整備が進んでおり、かかるセキュリティトークン(デジタル証券)が証券化対象資産及び投資家層の多様化の促進につながると期待されることも指摘されています。今後、このようなデジタル化の進展によりもたらされた新しい金融手法を用いて、いかにしてさらなる証券化対象資産及び投資家層の多様化を促進し、地方創生等にもつなげていくべきか、課題として検討されることになりそうです。

5. 不動産/ファイナンス:マンションの相続税評価に係る通達案について

パートナー 井上 正範
パートナー 稗田 直己
オブ・カウンセル 荒関 哲也
シニア・アソシエイト 小山 友太

マンションの相続税評価に係る通達案(「居住用の区分所有財産の評価について(案)」)が、2023年7月21日に公表され、現在、当該通達案に関する意見公募手続が実施されています。当該通達案は、マンションの相続税評価額と実勢価格の差を利用したいわゆる「マンション節税」を抑止することを目的としたものであり、不動産取引実務にも一定の影響のあるものと考えられますので、本稿で紹介します。

(1) 概要

相続税等(相続税・贈与税)における財産の価額は、相続税法第22条の規定により、「財産の取得の時における時価による」こととされており、これを受け、財産評価基本通達において各種財産の具体的な評価方法が定められています。現在、居住用の区分所有財産(いわゆるマンション)の相続税評価額については、区分所有建物の価額(建物の固定資産税評価額×1.0)と敷地(敷地利用権)の価額(敷地全体の面積×共有持分×平米単価(路線価等))の合計額とされていますが、かかる評価額については、時価(市場売買価格)との大きな乖離が生じているケースも確認されています。
上記の通達案においては、かかる乖離が生じていることを踏まえ、現行の相続税評価額を前提とした上で、市場価格との乖離要因から乖離率を予測して「評価乖離率」を計算し、その評価乖離率に応じて所定の補正率を現行の相続税評価額に乗じて評価することとされています。具体的には、評価乖離率が1.67倍を超えるもの(評価水準が60%未満となっているもの)については、60%となるよう評価額を補正します。

(2) 具体的な相続税評価額の算定方法

新しい相続税評価額の具体的な算定に当たっては、まず、現行の相続税評価額と市場価格がどの程度乖離しているかを示す「評価乖離率」を求めることとされています。「評価乖離率」は、以下の算定式に基づき計算されます。

評価乖離率=A+B+C+D+3.220
 上記算式中の「A」、「B」、「C」及び「D」とは、それぞれ次のとおりです。
 「A」=当該一棟の区分所有建物の築年数×△0.033
 「B」=当該一棟の区分所有建物の総階数指数×0.239
 「C」=当該一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階×0.018
 「D」=当該一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度×△1.195
 ※詳細は上記通達案の1(11)をご参照ください。

かかる計算式は、市場価格と現行の相続税評価額の乖離要因が、(A)築年数、(B)マンションの総階数、(C)居室の所在階、(D)敷地持分の狭小度にあることを踏まえ、これら4つの指数を統計的手法により検証し、市場価格理論値が現行の相続税評価額の何倍であるかを求めるものです。建物の評価額は一棟全体の再建築価格をベースに算定されますが、市場価格はそれに加えて築年数や建物の総階数、マンション一室の所在階が考慮されます(上記(A)~(C))。また、マンション一室を所有するための敷地利用権は、共有持分で按分した面積に平米単価を乗じて評価されますが、一般に高層マンションほどより細分化され狭小となるため、このような敷地持分が狭小なケースにおいては立地条件の良好な場所でも相続税評価額が市場価格に比べて低くなります。そこで、これら4つの指数に基づいて相続税評価額を補正することとされています。
次に、上記で算定した評価乖離率で1を除することにより、当該マンションの「評価水準」を算出します。評価水準は、当該マンションの現行の相続税評価額が市場価格理論値の何%程度であるかを示すものになります。
そして、(i) 評価水準が60%未満となっているものについて、60%(乖離率1.67倍)になるよう評価額を補正します(具体的には、現行の相続税評価額に「評価乖離率×0.6」で計算した補正率を乗じます)。(ii) 評価水準が60%以上、100%以下の場合は現行の相続税評価額を補正せず、(iii) 評価水準が100%を超えるときは100%となるよう現行の相続税評価額を減額します。
上記の60%という基準については一戸建ての評価の現状を踏まえたものとされていますが、この基準や上記の算式については適時見直しを行うこととされています。

(3) 実務上の留意点

近年、例えば、現物不動産を投資対象とした任意組合型の不動産特定共同事業に関する投資商品においては、投資家が現物不動産の共有持分を保有することになるため相続税評価額が下がる(=節税効果が期待できる)ことを商品の特性として掲げるものが見受けられますが、今回の通達案の適用によって節税効果の有無・程度に変化が生じる場合もあるものと考えられます。
例えば、築年数が数十年以上にもかかわらず立地やデザイン性などが評価されて近隣の物件より高額で取引されるマンション(いわゆるビンテージマンション)においては適正な評価乖離率が算定されないことや、区分所有建物を対象とするものであるためマンションを一棟買する場合に適用がないことなどは既に指摘されているところであり、今回の通達の適用の有無や影響の度合いは投資対象物件の内容・状況によって異なります。意見公募手続の実施結果が出ていない現状ではありますが、商品の勧誘・販売において誤った内容の説明を行った場合、業法上の勧誘規制に抵触するおそれがあるほか、民事上も説明義務違反等の責任を負うリスクもありますので、今回の通達が適用されるか、また、適用されるとしてどの程度評価額に影響があるのかについては、個別の物件ごとに専門家に確認を行っていくことが望ましいものと考えられます。

6. 事業継承/株主権:同族会社が株式交付税制の適用対象から除外に

パートナー 東山 敏丈
パートナー 藤井 雅樹
パートナー 山内 大将
アソシエイト 佐藤 和哉

同族会社において同族以外の者がキャスティングボードとなることを防ぐ方法として、同族で持株会社を設立し株式交付を行うことがありますが、本年10月1日以降に行われる株式交付について、令和5年度の税制改正により、株式交付の直後の株式交付親会社が一定の同族会社に該当する場合、株式交付に係る税制(租税特別措置法上の株式譲渡損益課税の特例措置。以下「株式交付税制」といいます。)の適用対象から除外されることになりました(租税特別措置法37条の13の4、66条の2)。

適用対象から除外されることになった同族会社は、以下の条件を満たす同族会社です(租税特別措置法37条の13の4、66条の2)。

  1. 法人税法2条10号に規定する同族会社(概略としては、株主の3人以下並びにこれらと親族関係などの特殊の関係のある個人及び法人が、発行済株式(自己株式を除く)の50%を超える株式を有する会社)である。
  2. 上記1の同族会社であることの判定の基礎となった株主に法人税法2条10号に規定する同族会社でない法人がある場合、当該法人をその判定の基礎となる株主から除外して判定した場合においても、同号に規定する同族会社となる。

令和3年度の税制改正で創設された株式交付税制は、法人が、会社法の株式交付により、その有する株式を譲渡し、株式交付親会社の株式等の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べることとする制度です(令和3年度税制改正の大綱42頁)。

株式交付税制は、株式対価M&Aを促進するための措置として創設されましたが、オーナーが個人保有する株式を株式交付により資産管理会社に移すことで、オーナーの私的な節税に利用されているとの問題が指摘されていました(※1)。
令和5年度の税制改正により、同族会社は株式交付税制の適用対象から除外されたため、企業オーナーが同制度を節税に利用することができなくなります。

同改正は、本年10月1日から施行され(附則1条1号ロ)、同日以降に行われる株式交付について適用される一方で(附則33条、47条)、節税効果を狙って同日までに株式交付を行ったとしても、法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の対象となる可能性があるため(※1)、同条の対象となるか否かについて留意する必要があります。

※1 一般に、資産管理会社を通じて株式を管理する保有する方法は、節税策として知られています。
※2 財務省の令和3年度税制改正の解説「租税特別措置法等(法人税関係)の改正」664頁は、株式交付は、現物出資の一種であり、法人税法132条の2の対象となるとしています。
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2021/explanation/p404-757.pdf

7. 危機管理/不祥事対応:「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」の公表

パートナー 大澤 貴史
アソシエイト 松尾 茂慶

(1) はじめに

2023年6月30日、金融庁は、「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」(以下「本レポート」といいます。)を公表しました。

金融庁は、2019年以降、各年度におけるシステム障害事例の傾向、原因及び対策をまとめて毎年公表しており、本レポートは、2022年度に発生したシステム障害事例を対象としています。

(2) 2022年度のシステム障害の特徴・傾向

2022年度に金融機関から報告されたシステム障害においては、設定ミス・操作ミス等の「管理面・人的要因」及び「ソフトウェア障害」が例年から引き続き多数を占めていますが、2022年度に発生したシステム障害の特徴的な傾向として、例えば以下のようなサイバー攻撃・不正アクセス等の意図的なシステム障害事例が紹介されています。

  • 外部委託先のシステムへの外部からの不正アクセスにより、大量の顧客情報が漏えいするといった重大なインシデントの発生事案
  • サポート期限切れの機器を使用したことに起因した脆弱性に対する外部からの不正アクセスによるランサムウェア被害事案
  • なりすましメールに添付されたファイルを開封したことによるエモテットへの感染事案
  • 外部委託先を含む金融機関へのDDoS攻撃(※1)により、金融機関のホームページの閲覧ができなくなる事案

金融庁は、本レポートにおいて、“重要な外部委託先も含めたサイバーセキュリティ対策等の整備状況の把握及びその実効性の検証といったITレジリエンス(※2)の向上”が重要であると説明しています。

※1 「DDoS攻撃」とは、Distributed Denial of Serviceの略で、分散型サービス妨害攻撃のことをいいます。
※2 「レジリエンス」とは、ITシステムにおける障害発生時の業務の早期復旧や顧客影響の軽減をいいます。

(3) システム障害事例への有事対応

金融機関としては、本レポートを踏まえてITレジリエンスの向上を図る必要があります。また、サイバー攻撃・不正アクセス等による情報漏えいが発生した場合には、不正な挙動の早期検知やサービスが停止しないようにするための技術的な措置に加えて、情報漏えいの有無・内容・規模・拡散範囲・原因等について速やかに調査を実施するとともに、会社への通知・公表や当局対応などの方針の検討を行う必要があります。
特に近時では、漏えいした情報を利用して金銭支払の要求がなされる事案も増えており、かかる場合はただちに弁護士等の専門家に相談のうえ捜査機関への情報提供(さらには被害届の提出や告訴等)を検討することになります。
なお、本レポートでは、昨年までのレポートに加え、新たに「システム障害後の対応が円滑に行われた事例」が追加され(第3部第2章第5節)、障害対応の好事例も記載されました。これらは金融庁が好事例と評価した対応が実例ベースで紹介されているものであり、金融機関だけでなく事業会社においてもシステム障害対応における実務対応の参考になるものと思われます。

8. 独占禁止法:「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の制定

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 東道 雅彦
パートナー 川村 宜志
アソシエイト 池田 侑希

1.はじめに

令和5年4月28日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス保護法」といいます。)が可決成立し、同年5月12日に公布されました。
フリーランス保護法は、令和4年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、フリーランスが報酬の支払い遅延や一方的な仕事内容の変更といったトラブルに多く直面しているとの指摘がされたことを踏まえ、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境の整備をするという観点から、フリーランスに係る取引の適正化及び就業環境の整備を行うことを目的としています。

2.フリーランス保護法の規制概要

フリーランス保護法は、企業のフリーランスに対する業務委託に関し、以下のような規制を設けています。

【取引の適正化に関する規制】

仕事の内容や報酬額などを書面や電磁的方法で示すこと(3条)
・フリーランスから納品などにより仕事の成果物を受け取った日から60日以内(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)に報酬支払期日を設定し支払うこと(4条)
・委託事業者に対する以下の行為の禁止(5条)
 ①フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
 ②フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
 ③フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
 ④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
 ⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
 ⑥自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
 ⑦フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

【就業環境の整備に関する規制】

・広告などで仕事を募る場合に、虚偽の表示をせず、その内容を正確で最新の内容に保つこと(12条)
・フリーランスと一定期間契約がある場合(継続的業務委託)に、育児や介護などを両立して業務ができるよう、フリーランス側からの申出に応じて必要な配慮をすること(13条)
・ハラスメント行為に関する相談体制を整えること(14条)
・継続的業務委託を中途解除する場合などには、原則、30日前までにフリーランス側に事前に予告すること(16条)

3.フリーランス保護法の実務への影響

フリーランス保護法の成立によって、組織として事業を行う発注事業者から従業員のいない個人である受注事業者への業務委託について広く規制が及ぼされることとなりました。そのため、従前資本金が 1 千万円を超えないことから下請法の適用を受けず下請法の対策等を行ってこなかった中小企業にあっては、今後はフリーランス保護法に対応するための社内制度(発注条件を明示できるようにするための体制やハラスメント対応体制など)をゼロから作り上げる必要があり、相応の負担を伴うものと思われます。
また、本年10月から導入が予定されているインボイス制度との関係においては、発注後に事後的にフリーランスがインボイス発行事業者でないことを理由に報酬の減額を求めることは不当な報酬減額(フリーランス保護法5条1項2号)の問題になりえ、また、委託者の依頼に応じてフリーランスがインボイス発行事業者になったにもかかわらず、その後委託者が一方的に報酬額を据え置くことは、買いたたき(フリーランス保護法5条1項4号)の問題になりえるので注意が必要となります。

4.おわりに

フリーランス保護法では、同法に違反した場合の対応として、公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働省による違反行為についての指導、助言、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令を下すことができるとされており、また、報告徴収・立入検査の妨害や命令違反には、50万円以下の罰金も科せられることとなっています。
フリーランス保護法は、公布日(令和5年5月12日)から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日に施行することとされているところ、フリーランスに外注をしている各社においては、今後制定される見込みの各種ガイドライン等も参照のうえ、同法違反とならないよう自社においてフリーランス保護法に対応することができる社内体制が整っているかについて十分な確認を行うことが重要です。

9. 環境法:GX脱炭素電源法成立に伴う関連法令の改正

パートナー 猿倉 健司
アソシエイト 上田 朱音
アソシエイト 加藤 浩太

(1)改正の経緯及び概要

エネルギー市場の混乱や国内における電力需給ひっ迫等への対応に加え、グリーン・トランスフォーメーション(GX)が求められる中、脱炭素電源の利用促進、及び電気の安定供給を確保するための制度整備の必要性が高まっています。
そこで、①地域と共生する再生可能エネルギーの最大限の導入促進、②安全確保を大前提とした原子力の活用という二つの課題に対応するべく、関連する5つの法律(電気事業法、再エネ特措法、原子力基本法、炉規法、再処理法)の改正を内容とした、脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(以下「GX脱炭素電源法」といいます。)が、2023年5月31日に通常国会で可決・成立しました。

(2)主な改正点の内容(再エネ特措法)

既存再エネの最大限の活用のための追加投資促進

従来の制度では、更新・増設により太陽光電池の合計出力を3kW以上又は3%以上増加させる場合には、一部例外を除いて、最新の調達価格・基準価格が適用され、当初の買取価格が維持されず、そのため、太陽光発電設備の適切な更新・増設が促進されないという問題がありました。そこで、かかる設備に係る早期の追加投資を促すため、追加投資部分に、既設部分と区別した新たな買取価格を適用する制度が新設されました(再エネ特措法第10条の2)。

地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化

法令違反の未然防止・早期解消等のため、事業規律が強化されました。
まず、関係法令等の違反事業者に、FIT/FIP制度による支援を一時留保する措置が導入されました。具体的には、違反事業者に対して、交付金による支援額の積立てを命じ、違反が解消されない場合は支援額の返還命令を行うこととされました(再エネ特措法第15条の6~同法15条の11)。
また、事業者に委託先事業者の監督義務が課されました(再エネ特措法第10条の3)。
さらに、事業計画の認定要件に、周辺地域に対する事業内容の事前周知が追加されました(再エネ特措法第9条、第10条)。

以上の他、再エネ特措法・電気事業法の改正により、電力の安定供給の確保の点から、従来の系統設置交付金制度の拡充・貸付金制度等の環境整備が行われています。

(3)実務上の留意点

実務上もっとも悩ましいのは、GX脱炭素電源法は複数の法律の改正を内容とした法律であるため、改正内容を実務に反映する際には、各法律の適用関係に対する十分な理解が必要であり、かつ、法律に加え規則・命令等を含めると検討対象が広範かつ複雑であるということです。また、環境法分野においては、GX脱炭素電源法とは別途、電気事業法の改正(2023年3月施行)によって小規模再生可能エネルギー発電設備に対する保安規制が強化される等、近年法改正が相次いでいることから、注意が必要です。

(参考資料)

10. 労働法:労働条件の明示に関する改正について

パートナー 山中 力介
スペシャル・カウンセル 柳田  忍
アソシエイト 服部  梓

(1)はじめに

職業安定法及び職業安定法施行規則並びに労働基準法及び労働基準法施行規則の下では、事業者は、労働者の募集や職業安定事業者への求人申込み時(以下、「労働者の募集時等」といいます。)及び労働契約の締結、更新の際において、求職者ないし労働者に対して所定の労働条件を明示しなければならないと定められていますが、職業安定法施行規則及び労働基準法施行規則の改正(以下、「本改正」といいます。)により、2024年4月1日から、明示すべき労働条件が追加されることになります。このような改正がなされた趣旨としては、労使紛争の未然防止や、労使双方の予見可能性の向上が挙げられています。
以下においては、新たに追加された明示事項と、それぞれを明示すべきタイミング等について説明致します(なお、以下、本改正後の職業安定法施行規則を「改正後職安法規則」、本改正後の労働基準法施行規則を「改正後労基法規則」といいます。)。

(2)労働条件明示にかかる制度改正の概要

① 就業場所・業務の変更の範囲(改正後職安法規則4条の2第3項1号、改正後労基法規則5条1項1号の3)

そもそも、労働者の募集時等並びに全ての労働契約の締結時及び有期労働契約の更新時において、事業者は、就業場所及び従事すべき業務に関する事項を明示しなければならないとされているところ、本改正前は、募集時に予定される雇入れ直後の就業場所・業務内容または労働契約締結時ないし更新時の就業場所・業務内容を書面で明示すれば足りるとされていますが、本改正後は就業場所・業務の変更の範囲、すなわち将来の配置転換などによって変わりうる就業場所・業務の範囲を明示しなければならないことになりました。具体的には、就業場所、従事すべき業務の内容が限定されている場合にはその具体的な意味を示すことになり、これらの事項の変更が予定されている場合には、その旨を示すことになります。例えば、勤務場所が東京23区内に限定されている場合は「勤務地の変更:東京23区内」、勤務地に限定がない場合には、「勤務地の変更の範囲:会社の定める事務所」との記載をすることになるものと考えられます。

② 有期労働契約の更新上限の有無及び内容(改正後職安法規則4条の2第3項2号の3、改正後労基法規則5条1項1号の2)

本改正により、有期労働契約の労働者の募集時等や有期労働契約の締結時・更新時には、更新の上限(通算契約期間又は更新回数の上限)及び内容について明示することが必要になります。さらに、最初の契約締結より後にこれらの上限を新たに設ける場合あるいは最初の契約締結時より上限を短縮する場合には、上限を新たに設ける又は短縮する理由につき、有期契約労働者にあらかじめ説明することが必要になります(2024年4月1日から適用される予定の改正後の「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(以下、「改正後有期労働契約基準」といいます。)1条)。

③ 有期労働契約にかかる無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件の明示(改正後労基法規則5条5項・6項)

本改正前は、有期労働契約の締結時ないし更新時に、有期契約労働者に対して無期転換の申込みができる(※)旨を通知する義務はありませんが、本改正後は、契約の更新時に無期転換申込権が発生する場合には、当該更新時に、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)及び無期転換後の労働条件を明示することが義務づけられることになります。初めて無期転換申込権が発生する時だけでなく、初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、更新のたびに本改正による無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示が必要となります。また、無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時に、無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件を労働者に明示したのちに、労働者の申込みにより無期労働契約に転換した場合には、新たに成立する無期労働契約について、改めて労働条件を通知しなければなりません。

加えて、無期転換申込権が発生する契約更新時において、無期転換後の労働条件を決定するに当たって就業の実態に応じて通常の労働者(いわゆる正社員)との均衡を考慮した事項について、当該労働者に説明するよう努めなければならないとされています(改正後有期労働契約基準5条)。

※ 有期労働契約については、同一の使用者との間で有期労働契約期間が通算5年を超えるときは、労働者は無期転換の申込みをすることができます。無期転換の申込みにより、有期労働契約は期限の定めのない労働契約に転換されます。

(3)事業者が今後とるべき対応

事業者が虚偽の条件を提示して労働者の募集を行った場合や、労働契約の締結時や更新時に労働条件の明示を行わなかった場合、刑事罰の対象となり得ます(前者は6月以下の懲役又は30万円以下の罰金(職業安定法65条9号)、後者は30万円以下の罰金(労働基準法15条1項、120条1号))。
事業者においては、2024年4月1日から施行される本改正に備えて、労働条件通知書の雛形の改定などの対応が必要となるものと考えられます。

11. 税務:信託型SOの課税関係を巡る国税庁Q&Aの公表

パートナー 大澤 貴史
アソシエイト 阿部 航

(1) はじめに

本年5月、国税庁は「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(以下「本Q&A」)(7月に最終改訂)を公表し、約800社(うち約100社は上場企業)が導入しているとされる信託型ストックオプション(以下「信託型SO」)への課税について見解を公表しました。
本Q&Aは、信託型SOへの課税についての実務における従前の認識と異なる見解を示すものであったことから、注目を集めています。

(2) 信託型SOの概要

スタートアップの役職員等に提供されるストックオプション(以下「SO」)には、主として以下の4つの類型があります。
 ① 無償発行で租税特別措置法の適格要件を満たす税制適格SO
 ② 無償発行で租税特別措置法の適格要件を満たさない税制非適格SO
 ③ 有償時価発行のSO
 ④ 信託型SO
上記①~③には、それぞれ、①適格要件を満たそうとするとSOの設計の柔軟性が制限される面があることや、②適格要件を満たさない場合にはSOの権利行使時に給与所得課税がなされてしまうこと、③被付与者がSO取得時にSOの時価相当額を拠出する必要があるといった難点が指摘されています。
④信託型SOは、企業のオーナー等の委託者が金銭を拠出して受益者の存在しない信託を組成し、同信託が発行会社からSOの時価発行を受け、その後に受益者として指定された役職員にSOを付与するスキームで、信託組成・維持のコストがかかるものの、以下のメリットがあると認識されていました。
 (ⅰ) 役職員の発行会社への貢献度などを踏まえて被付与者や付与数を調整できること
 (ⅱ) 上記②の無償発行税制非適格SOと異なり、SOの権利行使時に被付与者に給与所得課税がなされず(課税の繰延)、株式売却時に分離課税の譲渡所得課税がなされるにすぎないこと(上記①の無償発行税制適格SOと同様)

(3) 国税庁が本Q&Aで示した見解

しかし、国税庁は、本Q&Aにおいて、信託型SOは「信託が役職員にストックオプションを付与していること、信託が有償でストックオプションを取得していることなどの理由から、上記の経済的利益[筆者ら注:SOの行使による経済的利益]は労務の対価に当たらず、『給与として課税されない』との見解がありますが、実質的には、発行会社が役職員にストックオプションを付与していること、役職員に金銭等の負担がないことなどの理由から、上記の経済的利益は労務の対価に当たり、『給与として課税される』こととな」るとして、上記(ⅱ)を否定する見解を示しました。

(4) 本Q&Aの影響

本Q&Aの公表を受けて、信託型SOの導入企業においては、被付与者の役職員による権利行使時に給与所得課税がなされることを前提に制度を継続するか、信託型SOの代わりに税制適格SOなど他の制度を改めて導入することが考えられます。その際には、本Q&Aが信託型SOに適用される税制適格要件を明確化したことや、本年7月の租税特別措置法通達及び所得税基本通達の改正による株価算定ルールの明確化により、特に取引相場のない株式を発行する会社は税制適格SOを導入しやすくなったと考えられることなども参考になると考えられます。

12. 事業再生/倒産:収益力改善支援に関する実務指針

パートナー 東山 敏丈
パートナー 川村 宜志
パートナー 猿倉 健司
アソシエイト 椙村 昂平

(1)はじめに(収益力改善支援に関する実務指針とは)

昨今、新型コロナウイルス感染症の影響長期化、原材料価格の高騰、世界的なカーボンニュートラルやデジタル化の流れ等、経営環境が激変する中、増大する債務に苦しむ中小企業の存在が指摘されています。このような中小企業が、財務内容の悪化や資金繰りの悪化等で経営が困難になり、自助努力だけでは事業の再生が難しい状況では、収益力改善やガバナンス体制の整備に関するサポートが必要と考えられます(後述する本実務指針・1頁)。
中小企業収益力改善支援研究会が公表した「収益力改善支援に関する実務指針」(以下「本実務指針」といいます。)は、収益力改善やガバナンス体制の整備に向けた取組みを行う際、経営者と支援者が対話を通して、互いの目線合わせや信頼関係の構築等につなげることを目的とし、官・民の支援者による実効的な収益力改善の支援を展開し、支援の質の底上げを行うため、実務・着眼点を踏まえた対応策として取りまとめられたものです。

(2)本実務指針の内容

本実務指針が定める支援の内容としては、1.収益力改善支援、2.ガバナンス体制の整備支援、3.伴走支援の3つの支援があります。

  1. 収益力改善支援について
    収益力改善に取り組むためには、まず経営者自らが経営改善の必要性に気づき、取組みの選択肢が多い状況にある早期の段階から取り組んでいく必要があります。また、支援者が収益力改善に取り組む際には、経営者と支援者との信頼関係の醸成が重要です。すべての支援プロセスで「対話と傾聴」を基本姿勢として、経営者が「腹落ち」できる取組みをともに模索していくことが望ましいと考えられます。また、中小企業を取り巻く経営環境が刻々と変化するなか、個々に抱える課題も高度化・多様化しており、経営者と支援者だけでは解決できないものも増えております。これらに対応するためには、必要な連携先を幅広く検討し、なるべく早い段階から連携していくことも重要です。
    具体的な支援内容としては、収益力改善計画策定にあたり、会社基本情報、財務状況、商流、業務フロー、外部環境等、定性的・定量的な情報の両面について網羅的に整理・分析して、事業者の特色・問題点等を抽出し、把握した特色・問題点等について、その原因と今後の見通し等について検討し、問題点の除去、収益力改善等に向けて対応すべき経営課題を明らかにしていきます。その後、商流や業務フローの見直しを含めた外部環境や事業者の持つ強み・弱み、取り組むべき優先順位及び実施スケジュール、資源の配分、組織体制(キーパーソン、指揮命令系統等)等の着眼点を参考に、効果的かつ実行可能性の高い解決策を検討することとなります(本実務指針・6~9頁)。
  2. ガバナンス体制の整備支援について
    事業者が、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現していくためには、金融機関を含めた取引先等との良好な信頼関係を構築することが極めて重要です。こうした信頼関係の構築にあたっては、最低限、経営の透明性確保が必要であり、法人資産と経営者の個人資産等を適切に分別・管理すること等のガバナンス強化に取り組むことが望まれます。
    具体的な支援としては、支援者が、経営者から説明を受け、各種財務諸表等の資料を閲覧し、経営者からの説明と資料との整合性に留意しつつ不明点等を経営者に確認することで対話を深めるほか、経営者の資質(誠実さ、経営努力、計画性等)を理解することで現状を把握し、把握した課題点について、原因と今後の対応等について検討し、事業者のガバナンス体制の整備に向けて対応すべき課題を明確化することとなります(本実務指針・13~15頁)。
  3. 伴走支援について
    従来型の伴走支援は、これまで、補助金等の支援といった課題解決を中心とするものでした。しかしながら、かかる支援では多種多様な経営環境の変化に対応することが困難であるため、経営課題の設定とその解決策の提供、及び当該手法に対する経営者の納得感を得て潜在力を引き出すことを内容とする新たな伴走支援が必要となります。具体的には、数値計画と実績の差異状況を定量的に確認し、収益力改善のアクションプランやガバナンス体制の整備に係る計画について、それぞれの取組状況を確認し、数値計画と実績に差異がある場合又は改善策が予定通り実施されていない場合には、原因を分析の上、対応策を検討し、支援者は改善に向けたアドバイスを実施します(本実務指針・17頁)。計画期間終了後は、取組を一過性のものとせず、取組結果を踏まえた上で、次期計画の策定について検討する必要があります(本実務指針・17~18頁)。
    支援者は、これらの取組を通して、課題設定→計画策定(課題解決策の検討)→実行(伴走支援)→検証・見直しのPDCAサイクルを回すことを助言していくこと、収益力を改善できた事業者は更なる改善(事業拡大や新事業展開等)、そうでない事業者も改善に向けた次の挑戦(別アプローチでの改善等)につなげる等、経営者の動機付けを支援していくことが重要となります(本実務指針・18頁)。

13. IT/個人情報/知的財産:個人データの漏えいに関する個人情報保護委員会の行政指導、注意喚起等、「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」第1.1版の公表、改正次世代医療基盤法の公布、日本への十分性認定のファーストレビューに関する声明の公表、ベトナム個人情報保護政令の施行

アソシエイト 小坂 光矢
アソシエイト 中井 杏

(1)【国内】個人データの漏えいに関する個人情報保護委員会の行政指導、注意喚起等

2023年6月29日、個人情報保護委員会は、①一般送配電事業者及び関係小売電気事業者による新電力顧客情報の不適切な取扱い事案及び②資源エネルギー庁が保有する「再エネ業務管理システム」内の保有個人情報の漏えい等事案について行政指導を行いました。本件は、電気事業法上、小売電気事業者が利用することができない個人情報を、グループ企業である一般送配電事業者の顧客管理システムを通じて閲覧・利用していたこと等が問題となった事案で、安全管理措置義務違反等が指摘されています。グループ企業等で共通の情報管理システムを利用する場合には、そのアクセス権限の設定には十分注意する必要があります。
また、2023年7月12日、車両に関する個人データの漏えいについての行政指導が行われました。本件では、漏えいした情報が、社内で個人情報として認識されていなかったことにより、個人データの適切な取扱いが行われなかった事案です。何が個人情報に該当するのかという点を含め、個人データの取扱いに関する人的安全管理措置(従業員教育)についても、改めて留意する必要があります。
その他、2023年6月2日には、生成AIサービスの利用に関する注意喚起等が公表され、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合、(i)利用目的を達成するために必要な範囲内であることや、(ii)プロンプトを、生成AIサービス提供事業者が機械学習に利用しないことを確認することなどが指摘されています。
ニューズレター
生成AIサービスに関する個人情報保護委員会からの注意喚起と実務への影響

(2)【国内】「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」第1.1版の公表

2023年7月7日、総務省と経済産業省は、医療機関等に医療情報システム等や必要な資源や役務を提供する事業者を対象とする「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」の第1.1版を公表しました。
本ガイドラインは、総務省の「クラウドサービス事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン」と経済産業省の「医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン」が2020年8月に統合・改定されて成立した第1.0版について、医療情報システム等に関する委託等の増大やランサムウェア等の多様化・巧妙化するサイバー攻撃への対応の必要性といった観点を踏まえ、さらに改定を行ったものです。なお、厚労省から公表されている「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(本ガイドラインとあわせて「3省2ガイドライン」と総称されます。)についても、同様の観点から大幅な改定が行われ、2023年5月に現在の最新版である第6.0版が公表されています。
本ガイドラインの第1.0版からの主な変更点として、医療機関等から外部保存を受託している事業者が医療機関等に対して情報提供すべき項目が追加されていること、医療機関等がサイバー攻撃を受けるなどした場合の危機管理対応の内容や構築すべき体制を運用管理規程に盛り込むことなどが追加されています。

(3)【国内】改正次世代医療基盤法の公布 ―仮名加工医療情報制度の導入―

2023年5月26日、改正次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律)が公布されました。
本改正では、仮名加工医療情報制度が導入され、認定仮名加工医療情報作成事業者は、匿名加工医療情報よりも緩和された要件で仮名加工医療情報を作成することができるかわりに(同法35条1項)、主務大臣の認定を受けた認定仮名加工医療情報利用事業者に対してのみ、仮名加工医療情報を提供することができることとなり(同法36条1項)、ある人の医療情報についての継続的な分析が可能となります。また、仮名加工医療情報は原則として、再識別や第三者提供が禁止されていますが、薬機法による調査や医薬品の製造販売等の承認のために必要である場合は、再識別や第三者提供が可能となります(同法35条1項、43条1項2号)。
公布から1年以内に施行されることとされており、今後、政令、主務省令、ガイドライン等が改正されるものと見込まれます。特にガイドラインは、個人情報保護法に基づく匿名加工情報を作成する際にも、参考にされてきたため、改正内容に留意が必要となります。

(4)【EU・日本】日本への十分性認定の第1回レビューに関する声明を採択

2023年7月18日、欧州データ保護会議は、日本への十分性認定の第1回レビューに関する声明を採択しました。レビューでは、日本の個人情報保護法の改正を、よりGDPRに収束するものとして歓迎するとされました。

また、仮名加工情報制度については、2023年3月に改正された補完的ルール(個人情報の保護に関する法律に係るEU及び英国域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール)において、EU又は英国域内から十分性認定に基づき提供を受けた個人情報を加工して得られた仮名加工情報は、個人情報である仮名加工情報(法41条が適用されるもの)として取り扱われること及び統計目的のためにのみ取り扱われることが定められたことに留意するとされております。
今後、学術研究分野や公的部門などについても日本に対するEUの十分性認定の範囲を拡大する可能性が検討されることが合意されています(日EU相互認証に係る第1回レビュー完了に関する共同プレス声明)。

(5)【ベトナム】個人情報保護政令の施行

2023年7月1日、ベトナムの個人情報保護政令が施行されました。
本政令では、処理の根拠として、原則同意が求められていますが、それ以外の処理の根拠としては、緊急時にデータ主体又は第三者の生命又は健康を保護するために個人データを処理する場合や、契約に基づく義務を法令に従って履行するために個人データを処理する場合などが挙げられているところ、GDPR等とは異なり、正当な利益(Legitimate interest)のための処理が定められていないことに注意が必要です。
また、個人データを処理する場合には、個人データ処理影響評価書類、ベトナムから日本や外国などに越境移転するためには、個人データ越境移転影響評価書類を作成し、個人データの処理から60日以内に公安省に提出しなければならないことにも注意が必要です。7月1日時点で処理している個人データについては、8月30日までに、これらの書類を提出しなければならないとみられ、迅速な対応が必要となります。
特集記事
ベトナム個人情報保護政令(PDPD)への実務対応
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14. 国際業務:輸出管理に関するアメリカ及び中国の動向

パートナー 山内 大将
パートナー 薬師寺 怜
パートナー 辻 晃平

米中対立や昨年2月以来のロシアのウクライナ侵攻を受けて経済安全保障の重要性が高まっているところ、特にアメリカの輸出規制は、アメリカからの輸出だけではなくアメリカ原産貨物や技術が日本から再び輸出される場合にも適用があるため、その動向を注視する必要があることは既報(2022年12月のClient Alert)のとおりです。今回は、その続報として、近時のアメリカにおける輸出管理の動向及びアメリカ等の対中輸出管理への対抗策と見られる中国の輸出管理の動向をお伝えします。

(1)アメリカにおける対ロシア・ベラルーシの輸出管理の動向

ロシアによるウクライナ侵攻から1年となる2023年2月27日、アメリカの商務省産業安全保障局(BIS)は、戦争継続に必要な技術へのロシアのアクセスを遮断する目的で、同日付で輸出管理規則(EAR)に関する2つの規則(いずれも2023年2月24日発効)を発表しました。その概要は以下のとおりです。

  • 輸出管理規則(EAR)を改正し、ロシアとベラルーシの産業部門の制限(石油・ガス生産、商業・工業品、化学・生物前駆体)および奢侈品制裁の範囲を拡大する(規則①)。本規則は、米国の過去の輸出管理規則を基礎としつつ、米国の規制を同盟国が実施する厳格な措置とより整合させ、ロシアに対する多国間制裁の効果を高めることを目的として、ロシアの軍事力に有用な品目及びロシア政府を支持する富裕層を需要者とする奢侈品(酒、たばこ、毛皮、革製品等)へのアクセスをさらに制限するものです。
  • ロシアによるイランの無人航空機(UAV)使用に対処するため、米国人が取引に関与しているかどうかにかかわらず、イラン向けの半導体を含むローテク品目に対してライセンス要件を課す(規則②)。

このほか、BISは、エンティティリスト(米国の安全保障・外交政策上の利益に反する者や大量破壊兵器拡散懸念者等のリスト)の更新を随時行っています。

また、2023年3月30日、米国国務省(DOS)は、第2回民主主義サミットにおいて、米国主導の下、「輸出管理と人権イニシアチブ(ECHRI)に関する行動規範」を有志国(日本を含む24か国)とともに策定したことを発表しました。本行動規範は、主に中国・ロシアを念頭に、深刻な人権侵害を可能にする商品・ソフトウェア・技術の拡散を防止することを目的としており、本行動規範の参加国は以下を約束するものとされています。

  • 深刻な人権侵害や濫用の目的で悪用される可能性のあるデュアルユース商品、ソフトウェア、技術の輸出を検討する際に、人権を考慮する。
  • 人権に関する懸念および輸出管理措置の効果的な実施について、民間部門、学界および市民社会の代表と協議する。
  • 人権に関する懸念をもたらす商品、ソフトウェア、技術の取引に関連する新たな脅威やリスクに関する情報を互いに共有する。
  • 人権の深刻な侵害または濫用につながりかねない方法で悪用、再輸出、または移転される可能性のあるデュアルユース商品および技術の輸出管理の開発および実施におけるベスト・プラクティスを共有する。
  • 自国の民間部門に対し、国内法および「ビジネスと人権に関する国連指導原則」または他の補完的な国際文書に沿ったデュー・ディリジェンスを実施するよう奨励し、同時に非加盟国も同様のことを実施できるようにする。
  • 行動規範に加入していない国が、国内プログラムや手続きに従って行動規範と同じことを行う能力を向上させることを目指す。

本行動規範は、自主的かつ拘束力のない政治的コミットメントにすぎませんが、参加国は、今後、本行動規範を踏まえ、具体的な規制品目等について協議を進める予定であるとされています。

(2)中国における輸出管理の動向

2023年7月3日、中国の商務部及び税関総署は、「輸出管理法」「対外貿易法」「税関法」の規定に基づき、ガリウム関連製品及びゲルマニウム関連製品について、許可なく輸出することを禁じる公告を発表しました。ガリウム及びゲルマニウムは、半導体チップの製造に欠かせないレアアースであり、本公告は、近年のアメリカにおける対中国輸出規制への牽制であるとされています。
本規制は、2023年8月1日に発効し、輸出業者が許可なく輸出したり、許可の範囲を超えて輸出した場合は行政罰が課され、犯罪に該当する場合は刑事責任を問われるとされています。

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