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Newsletter

牛島総合法律事務所 Client Alert 2025年1月29日号
<目次>

  1. コーポレート/会社法:
    商事法務研究会が開催する会社法制研究会
  2. M&A:
    東証の「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」において示された親子上場等に対する考え方と今後の方針(案)
  3. 訴訟/仲裁:
    高額転売対策としてチケットの転売禁止及びキャンセル制限を定める利用規約の効力(大阪高判令和6年12月19日)
  4. 不動産/ファイナンス:
    改正マイナンバー法の施行に伴う犯収法上の本人確認書類の変更について
  5. 事業継承/株主権:
    会計検査院、「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価」に関する所見を公表
  6. 危機管理/不祥事対応:
    「公益通報者保護制度検討会報告書―制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて―」の公表
  7. 独占禁止法:
    荷主たる事業者の物流事業者に対する委託に関する確約計画認定の概要等について
  8. 環境法:
    水道水中のPFAS(PFOSおよびPFOA)濃度が水質基準に格上げ
  9. 労働法:
    公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する罰則の制定
  10. 税務:
    組織再編成に係る行為計算否認規定の適用事案で納税者勝訴判決(PGM事件第一審判決)
  11. 事業再生/倒産:
    「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を踏まえた事業者支援の徹底等について
  12. IT/個人情報/知的財産:
    各国(日本、中国、EU)におけるデータプライバシー/セキュリティ関連法令の立法動向
  13. 国際業務:
    国際業務:輸出管理に関するアメリカの動向(続報)

1. コーポレート/会社法:商事法務研究会が開催する会社法制研究会

パートナー  石田 哲也
アソシエイト 佐藤 和哉

令和6年11月25日、公益社団法人商事法務研究会が開催する会社法制研究会(座長は神作裕之学習院大学教授。以下「本研究会」といいます。)の第3回会議が行われました。本研究会は、会社法の改正に関する検討を行うものであり、昨年9月から開催されています。そのため、本研究会の前身である会社法制に関する研究会を含めると、令和5年2月から会社法の改正の必要性に関する議論がなされていたことになります。本研究会は、経済産業省、金融庁及び法務省といった関係省庁も参加して、改正の検討が必要な会社法の各種論点について議論を進めております。

(1) 本研究会の目的

本研究会は、以下の背景を踏まえ、会社法について見直すべき点がないかを検討し、論点を整理することを目的としています。

  • 会社法は平成17年に成立し、平成26年及び令和元年に実質的な改正がされたところではあるが、令和元年の改正から約5年が経過しようとしており、国内外の情勢変化に伴い、課題の検討が必要な時期に至っている。
  • 政府の「規制改革実施計画」(令和6年6月21日)において、法務省は、従業員等に対する株式の無償交付制度及び株式交付制度に関する会社法の改正を検討し、令和6年度中に法制審議会への諮問等を行い、結論を得次第、法案を国会に提出する、と記載されている。
  • 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024改訂版」(令和6年6月21日)において、スタートアップに対する知的財産権等の現物出資、従業員に対する株式の無償交付、指名委員会等設置会社制度の運用実態の検証と改善検討といった会社法に係る具体的な課題が指摘されている。

(2) 本研究会における検討事項

現時点で公表されている資料によれば、本研究会において検討対象となっている主な事項は以下のとおりです。

① 従業員等に対する株式の無償交付制度の創設
② 株式交付制度の見直し(利用範囲の拡大等)
③ 現物出資規制の見直し(検査役調査制度の柔軟化・不足額填補責任の性質及び範囲の見直し)
④ バーチャル株主総会・バーチャル社債権者集会に関する規律の創設
⑤ 実質株主確認制度の創設
⑥ 指名委員会等設置会社制度の見直し
⑦ 株主総会の招集手続等に関する検査役の選任の申立権者の見直し
⑧ 株主提案権の議決権数の要件の見直し(議決権数を基準とする要件の見直し)
⑨ 会社法316条2項に規定する調査者制度の見直し(調査権限の濫用への対策)
⑩ 株主総会資料の電子提供制度における書面交付請求制度の見直し
⑪ 役員等の責任に関する見直し(株主代表訴訟の要件厳格化・責任限定契約の適用範囲拡大)
⑫ 会社法462条1項の責任(剰余金の配当等の業務執行者等の責任)の見直し(填補責任の緩和)
⑬ 会社法上の計算書類と金商法上の財務諸表の一体化

なお、本研究会とは別に、経産省に「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会(座長は神田秀樹東京大学名誉教授。以下「CG研究会」といいます。)が設置されており、CG研究会でも本研究会の検討対象とほぼ同様の論点について議論が進められております。一方で、公表資料による限り、上記①ないし⑬のうち、⑦及び⑫については本研究会でのみ議論がなされているようです。

(3) 終わりに

①本研究会の座長である神作教授はCG研究会の委員であること、②法務省及び金融庁の同一担当者が両研究会に立会っていること、また、③両研究会の開催日が近接していることからすると、本研究会での議論が、CG研究会における会社法改正に係る議論の下地になっていると考えられます。
また、(2)で挙げた本研究会の検討事項⑦や⑫のように、本研究会でのみ議論されている会社法上の論点もあります。
上記(1)のとおり、法務省は令和6年度中に会社法の改正について法制審議会への諮問等を行い、結論を得次第、法案を国会に提出するとのことですので、会社法改正の議論状況を追うにあたっては、本研究会の議論状況を注視すべきと考えられます。

2. M&A:東証の「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」において示された親子上場等に対する考え方と今後の方針(案)

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 稗田 直己
パートナー 山内 大将
パートナー 百田博太郎

2024年10月17日、株式会社東京証券取引所(以下「東証」といいます。)は、従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会(第2期)の「第6回 東証説明資料」において、親子上場等に対する考え方と今後の方針の案を示しました。
以下では、東証が親子上場等に対する考え方と今後の方針の案を示すに至る背景、その案の概要及び今後の展開について、紹介します。

(1) 東証が親子上場等に対する考え方と今後の方針の案を示すに至る背景

東証は、子会社上場には親会社と少数株主との間の潜在的な利益相反関係が存在することを踏まえ、少数株主保護のための上場制度を整備してきました。
具体的には、東証は、2007年に、子会社上場への考え方の表明等を行い(2007年6月25日付東証上場第11号「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方について」)、2023年3月には、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請、同年12月には、「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」等を求めています。 しかしながら、上場会社をはじめとする市場関係者からは、親子関係・持分法適用関係にある会社の上場に対するそもそもの東証のスタンスや、今後の施策の方向性が見えづらいため、グループ経営の在り方に関する検討を進めにくい等の指摘がありました。。

(2) 親子上場等に対する考え方と今後の方針の案

今般、東証が示した親子上場等に対する考え方と今後の方針の案は、概要以下の①ないし⑥のとおりであり、少数株主保護の必要性が言及されています(「第6回 東証説明資料」22頁)。

① 親子関係や持分法適用関係等にある上場会社においては、少数株主との間の構造的な利益相反関係を踏まえ、少数株主保護を適切に図る必要がある

② 資本市場の公正性に対する信頼の醸成及び少数株主を含む投資者が安心して投資するための環境整備に向けて、少数株主保護の観点から必要な上場制度の整備について検討を継続していく(独立社外取締役の独立性確保など)

③ 上場子会社や上場する関連会社を有する上場会社においては、グループ経営におけるシナジーの面のみならず、少数株主保護を適切に図る必要性が生じることも踏まえて、どのようにグループの全体最適を図り、中長期的な企業価値向上を実現していくかについても、取締役会で継続的に検討・議論するとともに、自社の株主・投資者への説明責任を果たしていくことが求められる(※)

④ こうした考え方を踏まえ、2023年12月には「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」の整理・公表

⑤ 一方で、これを踏まえた開示は現時点では限定的であり、内容についても、株主・投資者の予測可能性を確保する観点からは改善が必要

⑥ 今後、企業において、グループ経営や少数株主保護の在り方の検討や、株主・投資者への開示の充実が自発的に進んでいくよう、今回、情報開示の充実をお願いした背景にある東証の考え方をあらためて発信していくとともに、引き続き、開示内容の充実に向けた取組みやフォローアップを継続していく

(※)上記③については、注記が付されており、親子関係、持分法適用関係といった特定の関係自体を否定・制限するものではなく、株主・投資者に対して、グループ経営上そうした関係を取っている理由や少数株主保護に関する考え方・方針等を十分に検討・説明することが重要であることが記載されています。

(3) 今後の展開

2024年12月10日、東証の市場区分の見直しに関するフォローアップ会議において、「グループ経営や少数株主保護の在り方に関する検討・開示を促す」として、親子上場等に対する東証の考え方・方針、投資者の目線・ポイントを2025年の年明け頃に公表することが示されています(「今後のフォローアップについて」)。
2025年1月には、東証が、上場会社のMBOに関し、企業行動規範に新たな項目を加える予定であることなどが報道されています。その背景は少数株主の利益保護とされており、今後も少数株主保護の観点からわが国の上場会社のM&Aの在り方が整備されるものと考えられますので、引き続き動向を注視する必要があります。

3. 訴訟/仲裁:高額転売対策としてチケットの転売禁止及びキャンセル制限を定める利用規約の効力(大阪高判令和6年12月19日)

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 石川 拓哉
パートナー 石田 哲也
パートナー 薬師寺 怜

(1) はじめに

昨今、各種イベントチケットを始めとする高額転売が社会問題化しており、テーマパークにおいても、他のチケット発行元と同様に、転売防止の対策として、転売禁止及びキャンセル制限等の利用規約が定められていることが一般的でした(※1)。

このようなテーマパークのチケットの転売禁止及びキャンセル制限を定める利用規約に関し、適格消費者団体である特定非営利活動法人消費者支援機構関西(以下「本消費者団体」といいます。)が、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下「USJ」といいます。)のWEBチケットに関する規約が消費者の利益を一方的に害する等として消費者契約法に違反する旨を主張し訴訟を提起したところ、大阪地判令和5年7月21日では、本消費者団体の請求が棄却されたため(※2。以下「本一審判決」といいます。)、本消費者団体は本一審判決に対して控訴を提起しました。今回、大阪高判令和6年12月19日(以下「本判決」といいます。)では、本一審判決を結論として是認し、この種の転売禁止やキャンセル制限の規約の有効性を認めました(※3)。

(※1)なお、高額転売については、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(芸術・芸能やスポーツイベントなどについてのチケットの転売に関して罰則を設けるいわゆるチケット不正転売禁止法)が施行されるなどして、悪質なチケットの転売を禁止する方向で規制がなされています。しかしながら、チケット不正転売禁止法の規制対象は、映画、演劇、スポーツ等のチケットに関するものであり、本件のようなテーマパークにおけるチケッ卜はその対象となっていません。
(※2)裁判所ウェブサイト:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/333/092333_hanrei.pdf
(※3)裁判所ウェブサイト:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/729/093729_hanrei.pdf
(本消費者団体は本一審判決及び本判決全文を同団体ホームページにて公開しています。)

(2) 事案の概要

消費者であるUSJの顧客がWEBチケットストアによりインターネットを経由して各種チケットを購入する際には、USJのWEBチケットストアの利用規約(以下「本利用規約」といいます。)が適用されることになりますが、本利用規約には、以下のとおり一定の場合を除き購入後のチケットのキャンセルができない旨の条項(本条項1)及びチケットの転売を禁止する旨の条項(本条項2)が存在しました。

(本条項1)
チケットの種別、理由の如何にかかわらず、購入後のキャンセルは一切できません。但し、法令上の解除または無効事由等がお客様に認められる場合はこの限りではありません。

(本条項2)
お客様が、第三者にチケットを転売したり、転売のために第三者に提供することは、営利目的の有無にかかわらず、すべて禁止します。

本条項1及び2により、消費者がUSJのチケットを誤購入した場合や、購入後の事情変更(例えば、病気や怪我、購入後スケジュールに支障が生じた場合など)により当日の利用ができなくなった場合に、消費者はチケット購入のために支払った費用を取り戻すことができませんでした。
そこで、本消費者団体は、上記各条項がいずれも消費者の権利を制限し、消費者の利益を一方的に害するものであるとして、消費者契約法10条に基づき無効であるとの主張を行いました。

(3) 判旨

本一審判決は、本条項1についてはチケット購入契約が民法に規定のない無名契約であるとし、本条項2については転売行為が契約上の地位の移転であること等を前提に、いずれの条項も「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」(消費者契約法10条前段)には該当しないとしたうえで、「消費者の利益を一方的に害するもの」(同法10条後段)にも該当しないと判示し、原告である本消費者団体の請求を棄却しました。
本判決は、結論として本一審判決を是認しましたが、下記のとおり本条項2については一部判断を変更し、「消費者の権利を制限」する条項ではあるとしつつ、本一審判決同様に「消費者の利益を一方的に害するものではない」との判示を行いました。

① チケットの転売は、USJから「役務の提供を受ける権利の譲渡であり、債権譲渡であると解することができる」ため、USJが本条項2によって、「チケットの転売を禁止することは、商慣行として定着していたチケットの有価証券類似の機能を新たに制限するものであって、原則自由とされている債権譲渡を制限することになり、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限するものというべきである」。
したがって、本条項2について、「法10条前段該当性が認められる」。

② しかしながら、「転売目的でチケットを購入した者と後発的にチケットが不要となった一般購入者の客観的な区別は困難であるし」、USJにおいて「転売価格を知ることは不可能であって、本来の防止目的である定価を超える転売であるか、通常転売者に利益の生じない定価以下の転売であるかを知ることもできないのであるから、これらの区別なく一律に転売を禁止することはやむを得ない」。
そして、「転売が禁止された以上、・・・禁止に反して転売されたチケットが無効となり・・・USJ内で提供される役務を受領できなくなった購入者は、チケット購入契約による経済的負担を回収する機会を失うことになるが、転売の禁止には、高額な転売を目的とする者の買い占めを防止し、それによって消費者である顧客に対し、自由な転売市場において形成されるであろう高額な転売価格に比べて低廉な定価で安定してチケットを購入できる機会を保障するという、消費者にとって利益となる目的・効果があると認められる以上、それが消費者の一方的な不利益をもたらすものということはできない」。

③ なお、「経営上の判断から、・・・リセールサイトを開設していないことが、直ちに消費者の利益を一方的に害するものということは困難である」。

(4) おわりに

チケットの転売禁止及びキャンセル制限を定める利用規約の有効性についてはこれまで同種事案の裁判例がないと思われるところ、本判決によりその有効性が是認され、またチケットに限らず社会問題化している高額転売対策として企業がこの種の規約を導入する際の考え方につき示唆する点で、事例判決として注目に値するものです。ただし、本判決では、転売禁止の条項が「消費者の権利を制限」するものであることが認められていますので、社会情勢も踏まえ、消費者の利益を一方的に害するものであると指摘されないよう、企業としては当該規約を含めた高額転売対策については今後も慎重な判断が求められるものと考えられます。

4. ファイナンス/不動産:改正マイナンバー法の施行に伴う犯収法上の本人確認書類の変更について

パートナー 小山 友太
アソシエイト 甲斐 成輝

(1) 改正マイナンバー法の施行に伴う犯収法施行規則の改正(概要)

マイナンバーカードと健康保険証等を一体化するなどの改正を行う行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)等の一部を改正する法律(公布日:令和5年6月9日法律第48号。以下「改正マイナンバー法」といいます。)(※1)が令和6年12月2日に施行されたことに伴い、同日付で犯罪による収益の移転の防止に関する法律施行規則(犯収法施行規則)も改正されています。 
犯罪による収益の移転の防止に関する法律(犯収法)においては、顧客等や代表者等の本人特定事項の確認は、本人確認書類を確認することによって行うことが求められ、どのような書類が本人確認書類に該当するかが法令上定められています(犯収法第4条第1項、犯収法施行規則第6条、第7条)。今般の犯収法施行規則の改正に伴い、本人確認書類として用いることのできる書類について一部改正が行われていますので、金融機関や不動産業者その他の特定事業者が取引時確認を行う際には注意が必要です(※2)。 

(※1)改正マイナンバー法のポイントについてはデジタル庁のウェブサイトで整理されています。 
(※2)今回の犯収法施行規則の改正については、2024年8月23日から同年9月24日にかけてパブリック・コメントが実施されており、質問があった事項については、警察庁のウェブサイトでQ&A形式で回答が公表されています。その他、今般の改正の概要についてはパブリック・コメントに際し公表された概要資料も参考になります。 

(2) 犯収法上の取引時確認における本人確認書類について 

犯収法施行規則においては、各本人確認書類について、写真の貼付の有無等といった証明力の違いに応じて、当該書類を使用することができる本人特定事項の確認方法に差異が設けられています。 
具体的には、自然人については、(a)写真付き本人確認書類と(b)それ以外の本人確認書類に分けられ、対面取引の場合、(a)写真付き本人確認書類であれば提示を受けることのみで本人特定事項の確認を行うことができるのに対し(犯収法施行規則第6条第1項第1号イ)、(b)それ以外の本人確認書類については、当該書類の提示を受けるのみでは本人特定事項の確認としては足りません。対面取引における(b)それ以外の本人確認書類での確認方法としては、(i)当該書類の提示を受け当該書類に記載されている住居に宛てて取引関係文書を書留郵便等で送付する方法、(ii)所定の複数の書類の提示を受ける方法、(iii)当該書類の提示に加え補完書類の送付を受ける方法があります(犯収法施行規則第6条第1項第1号ロ~ニ)。

(3) 犯収法施行規則の改正のポイント 

改正マイナンバー法の施行に伴い、①乳児に交付するマイナンバーカードについて顔写真が不要となり、②健康保険証等が廃止され、③マイナンバーカードによりオンライン資格確認を受けることができない状況にある方が必要な保険診療等を受けられるよう、本人からの求めに応じて「資格確認書」の提供がなされることになりました。 
かかる法改正に伴い、犯収法上の自然人の本人確認書類について下記A~Cのような変更が行われています(犯収法施行規則第7条)。 

A.マイナンバーカード関連(下記表中の赤字箇所) 
・顔写真なしのマイナンバーカードについては、犯収法施行規則第7条第1号イではなくハの本人確認書類の扱いとする 

B.各種健康保険・被保険者証の廃止関連(下記表中の青字箇所) 
・被保険者証が廃止されたことに伴い、犯収法上の本人確認書類から削除 
・既に交付を受けている健康保険証等については、一定期間(最大1年間)、引き続き本人確認書類として使用可能とする(※3) 
・「資格確認書」を犯収法施行規則第7条第1号ハの本人確認書類として追加 

C.その他(下記表中の緑字箇所) 
・外国人の在留カードや特別永住者証明書、精神障害者保健福祉手帳のうち顔写真なしのものは犯収法施行規則第7条第1号ハの本人確認書類の扱いとする 

区分該当条項変更前変更後
(a) 写真付き本人確認書類1号イ・運転免許証、運転経歴証明書
在留カード、特別永住者証明書
 
マイナンバーカード
 
 
・旅券等
・船舶観光上陸許可書
・身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳若しくは戦傷病者手帳
・運転免許証、運転経歴証明書
在留カード、特別永住者証明書(当該自然人の写真が貼り付けられたものに限る。)
マイナンバーカード(当該自然人の写真が貼り付けられたものに限る。)
・旅券等
・船舶観光上陸許可書
・身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳(当該自然人の写真が貼り付けられたものに限る。)、療育手帳若しくは戦傷病者手帳
1号ロ※改正なし
(b)それ以外の本人確認書類1号ハ 
 
 
 
 
 
 
国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証(※3)、児童扶養手当証書若しくは母子健康手帳
・印鑑登録証明書
在留カード、特別永住者証明書(イに掲げるものを除く。)
マイナンバーカード(イに掲げるものを除く。)
精神障害者保健福祉手帳(当該自然人の写真が貼り付けられたものを除く。)
国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合若しくは私立学校教職員共済制度の資格確認書、介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、児童扶養手当証書若しくは母子健康手帳
・印鑑登録証明書
1号ニ※改正なし
1号ホ※改正なし

(※3)健康保険証等は、経過措置として、一定期間(最大1年間)、引き続き本人確認書類として使用可能となりますが、当該経過措置期間中に健康保険証等の有効期限が到来した場合や、転職・転居により保険者の異動が生じた場合には、当該健康保険証等はその時点で失効することとなり、本人確認書類としても用いることができなくなり、また、経過措置が終了した後は、健康保険証等が書類として無効となっていることから、補完書類としても用いることができなくなりますので注意が必要です(警察庁Q&ANo.10・13に対する回答)。

5. 事業継承/株主権:会計検査院、「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価」に関する所見を公表

パートナー 東山 敏丈
パートナー 藤井 雅樹
パートナー 山内 大将
パートナー 関口 恭平

会計検査院は、2024(令和6)年11月6日、令和5年度決算検査報告を作成し、内閣に送付しました(※1)。

同報告において、会計検査院は、「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価」に関する所見を公表しています(※2、※3)。

(※1)会計検査院「最新の検査報告」:https://www.jbaudit.go.jp/report/new/index.html
(※2)会計検査院「令和5年度決算検査報告」:fy05_zenbun.pdf
(※3)会計検査院「令和5年度決算検査報告の特徴的な案件」13.相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価(特定):fy05_tokutyou_13.pdf

(1) 検査の観点及び着眼点

会計検査院は、(i)原則的評価方式のうち、純資産価額の計算式等については、1978(昭和53)年の財産評価基本通達の改正以降は、その評価額に大きく影響を与える改正が行われていない一方で、類似業種比準価額の計算式等についてはその評価額が下がる方向で数次の改正(例えば、類似業種の株価や評価会社の1株当たりの利益金額について、より選択範囲が広げられるとともに、最も低い金額を選択することが可能になった等)が行われていること等から、相続税等の申告に当たり、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間で株式の評価の公平性が確保されているか、また、(ii)特例的評価方式である配当還元方式については、評価額に大きな影響を与える改正が行われておらず、還元率についても金利等の水準に応じて見直されていないことから、社会経済の変化に応じたものになっているか等に着眼して検査を行いました。

(2) 「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価」に関する会計検査院の所見

会計検査院は、検査の結果、以下のような状況になっていたと指摘しています。

① 原則的評価方式においては、類似業種比準方式及び併用方式による評価額が純資産価額方式による評価額に比べて相当程度低く算定される傾向があり、各評価方式の間で評価額に相当のかい離が生じていることにより、類似業種比準価額を適用する割合が高くなる規模の大きな区分の会社ほど評価額が相対的に低く算定されることになり、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間で、株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえない。

② 配当還元方式の還元率は、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれがあり、これに基づいて算定される評価額は通達制定当時と比べて相対的に低くなっているおそれがある。

会計検査院は、以上の状況を踏まえ、「国税庁において、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要である」と指摘するとともに、今後とも相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について引き続き注視していくこととするとしています。

(3) 事業承継の準備・検討

会計検査院の上記指摘により直ちに国税庁が財産評価基本通達により取引相場のない株式の評価方法を改正するかは不明ですが、会計検査院の上記指摘はいずれも「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価」を高くする方向のものですので、国税庁が改正するとすれば、取引相場のない株式の評価額を高くする方向での改正が行われると考えられます。

非上場会社の事業承継においては、株式の評価額がどうなるか(つまり、後継者の資金面の負担がどうなるか)が大きなポイントの一つになってきます。

そのため、非上場会社の事業承継の準備・検討をするにあたっては、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について注視していく必要があるとともに、上記のような改正が行われる可能性を念頭に置いておく必要があると考えられます。

6. 危機管理/不祥事対応:「公益通報者保護制度検討会報告書―制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて―」の公表

パートナー 大澤 貴史
アソシエイト 堀田 稜人

(1) はじめに

消費者庁に設置された公益通報者保護制度検討会が、令和6年12月27日に「公益通報者保護制度検討会報告書―制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて―」(以下「本報告書」といいます。)を公表しました。公益通報者保護法(以下「本法」といいます。)は、令和2年の改正時に、改正法の施行日(令和4年6月1日)から3年を目途として、改正法の施行状況を勘案して必要な措置を講ずるとされていました(改正附則第5条)。本報告書は、同条に基づいて公益通報者保護制度の見直しの方向性を提言したものです。以下では、本報告書内で検討された事項のうち、本法改正の方向性について明確な言及があった事項を中心に紹介いたします。

(2) 制度見直しが検討された主な事項

① 事業者における体制整備義務の徹底と実効性の向上

本報告書では、公益通報に対応するための体制整備義務(本法第11条第2項。以下「体制整備義務」といいます。)を徹底し、その実効性を向上させる観点から、以下の事項が提言されました。

・本法第11条第1項は、一定の要件を満たす公益通報があった場合に、これに対応し必要な措置をとる業務に従事する者を定める義務(以下「従事者指定義務」といいます。)を規定しているところ、従事者指定義務の履行徹底に向けて消費者庁の行政権限を強化(立入検査権や勧告に従わない場合の命令権の規定及び命令に従わない場合の刑罰の規定等)をすること。

・現在は、法定指針(※1)が規定する事業者の労働者等に対する内部公益通報対応体制(本法第11条第2項)の周知について、本法に周知義務を規定するとともに、周知事項の具体的内容を法定指針に記載すること。

(※1)「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)

② 公益通報を阻害する要因への対処

本報告書では、公益通報を阻害する要因への対処をするという観点から、以下の事項が提言されました。

・現在は、事業者において公益通報者の探索行為の防止措置をとるべきことが法定指針より規定されているところ、かかる探索行為をすべきでないことが事業者に十分理解されていない懸念があることから、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止する旨を本法に規定すること。

・本法において、事業者が、正当な理由なく、労働者等に公益通報をしないことを約束させる等の行為を禁止するとともに、これに反する契約締結等の法律行為を無効とすること。

③ 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済

本報告書では、公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済を図るという観点から、以下の事項が提言されました。

・本法第5条等は、公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いを禁止しているところ、かかる禁止規定に違反して解雇や懲戒をした事業者・個人に対する刑事罰(直罰方式・法人重課)を設けること。

・公益通報をしたことを理由に解雇・懲戒を受けたとして労働者が民事訴訟でその無効を主張する場合に、当該解雇・懲戒が公益通報から1年以内のものであれば、それが「公益通報を理由とすること」の立証責任を事業者に転換すること(すなわち、当該解雇・懲戒が「公益通報を理由とする」かどうか明らかでない場合には公益通報を理由とするものであると認定すること)。

・本法が禁止する不利益取扱いに、本法が例示する解雇や降格等だけでなく、配置転換やハラスメント等が含まれうるべきことについて、法定指針で明記することを検討すること。

④ その他

上記のほか、近年の働き方の多様化を受けて公益通報の主体にフリーランスを追加し、フリーランスが保護要件を満たす公益通報をしたことを理由として、事業者が業務委託契約の解除等の不利益取扱いを行うことを禁止すべき旨が提言されました。

(3) まとめ

消費者庁は2025年の通常国会において本法改正案の提出を目指すとの報道もされており、各企業におかれましては、今後の本法改正の動向を注視する必要があります。また、当事務所では、「改正公益通報者保護法準拠の匿名の外部通報窓口サービス(グローバル対応)」も提供しておりますので、あわせてご参照下さい。

7. 独占禁止法:荷主たる事業者の物流事業者に対する委託に関する確約計画認定の概要等について

パートナー 渡邉 弘志
パートナー 東道 雅彦
パートナー 川村 宜志
アソシエイト 福田竜之介

公正取引委員会は、令和6年12月12日、橋本総業株式会社(以下「橋本総業」といいます。)について、その物流事業者に対する運送業務の委託に関する確約計画を認定したことを公表しました(※1、以下「本公表」といいます。)。物流に関してはいわゆる「2024年問題」が注目されているところ、本件は、独占禁止法2条9項6号に基づく「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」といいます。)に該当するものとして立入調査が行われたものとして、また、荷主と物流事業者の取引を対象とする物流特殊指定に関して確約手続がとられたものとしても初めてのケースであり、参考となることから、その概要等をご紹介いたします。

(※1)公正取引委員会「(令和6年12月12日)橋本総業株式会社から申請があった確約計画の認定について

(1) 物流特殊指定とは

独占禁止法は、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」と規定しています(独占禁止法19条)。この「不公正な取引方法」は、優越的地位の濫用など、同法2条9項1号から5号で規定されるもののほか、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものも含まれます(同項6号)。かかる規定に基づき、公正取引委員会は、荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を効果的に規制するため、物流特殊指定を定めています。

具体的には、物流特殊指定は、①荷主の資本金等が3億円超の事業者が、資本金等が3億円以下の事業者(個人事業者を含む。)に対して物品の運送又は保管を委託した場合、②資本金等が1000万円超3億円以下の事業者が、資本金等が1000万円以下の事業者(個人事業者を含む。)に対して物品の運送又は保管を委託した場合、又は③物品の運送又は保管を委託する事業者であって受託する事業者に対して取引上の地位が優越している場合、のいずれかに該当するときにおける、物品の運送又は保管を委託する事業者(荷主)による支払遅延、減額、買いたたき、購入・利用強制などを不公正な取引方法として指定しています(※2)。

(※2)公正取引委員会「物流特殊指定の考え方についての相談」(令和7年1月14日閲覧)

(2) 違反被疑行為の概要

本公表によれば、橋本総業は、遅くとも平成29年7月以降、橋本総業よりも資本金額が小さい物流事業者や、橋本総業に対する取引依存度が高い物流事業者の一部に対し、以下の違反被疑行為を行ったとされています。

① 物流事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、あらかじめ定めた代金の額から不当な減額を行ったこと

② 法定時間外労働を要するような長時間の運送業務を、物流事業者による同種又は類似の内容の運送業務に対して通常支払われる運賃の1時間当たりの額に比して著しく低い額となる運賃で委託したこと

③ 物流事業者との間で1日当たりの業務時間及びこれに対する定額の運賃を設定したが、委託する運送業務がこれを超える時間を要するものであるにもかかわらず、あらかじめ当該業務時間を超える部分に係る運賃を取り決めていないことによって、当該業務時間を超える部分の運送業務を無償で行わせたこと

④ 運送業務に係る特定の附帯作業について、それが委託内容に含まれていないにもかかわらず、あらかじめ物流事業者との間でその取引条件を取り決めることなく、当該物流事業者に無償で行わせたこと

(3) 確約計画の内容

公正取引委員会は、上記(2)①から④の行為について、立入調査を行うなどした後、令和6年11月7日、独占禁止法48条の2の規定に基づき、橋本総業に対して確約手続に係る通知を行いました。

なお、確約手続は、公正取引委員会が違反被疑行為者に対し、①違反被疑行為の概要、②違反する疑いのある又はあった法令の条項、及び③違反被疑行為を排除するために必要な措置の実施に関する排除措置計画又は違反被疑行為が排除されたことを確保するために必要な措置の実施に関する排除確保措置計画(「確約計画」)の認定の申請をすることができる旨を記載した書面による通知を行うことにより開始されます(※3)。

(※3)公正取引委員会「確約手続に関する対応方針」(令和3年5月19日更新)

同通知を受けて橋本総業は、公正取引委員会に対し、前記(2)の違反被疑行為を取りやめる措置の実施や、そのことを決議内容とする取締役会の実施、これらの措置を物流事業者に通知するとともに自社の従業員に周知徹底すること、運送会社に対する金銭的価値の回復や再発防止策(物流事業者との取引に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成や自社の役員及び従業員に対する定期的な研修等)を行うほか、これらの措置の履行状況を公正取引委員会に対して報告すること等を内容とする確約計画の認定を求める申請を行い、公正取引委員会は、令和6年12月12日に当該確約計画の内容を認定しました。そのため、橋本総業は、当該確約計画を実施していくことになります。

(4) まとめ

本件は物流特殊指定に基づいて荷主たる事業者に対して処分が行われた初の事例ですが、物流については、令和6年12月25日に公表された「企業取引研究会 報告書」においても、適正な契約が結ばれるように荷主たる事業者への働き掛けを行っていく必要があることが示されていることなどからすれば、今後、物流特殊指定に基づく執行の強化も予想され、その動向に注目していく必要があります。

8. 環境法:水道水中のPFAS(PFOSおよびPFOA)濃度が水質基準に格上げ

パートナー 井上  治
パートナー 猿倉 健司
アソシエイト 加藤 浩太

(1) はじめに

環境省は、令和6(2024)年12月24日、水道水に含まれるPFAS(有機フッ素化合物のうち、高度にフッ素化されたペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物を総称したもの)の濃度について、従来の法的拘束力を有さない暫定目標値から、法的拘束力のある水道法上の「水質基準」に格上げすることを内容として、水質基準に関する省令を改正する方針を明らかにしました。令和8(2026)年4月1日を施行日とすることが検討されています。この改正により、水道事業者は、水道水におけるPFASの濃度について定期的(原則として3ヶ月に1回とすることが検討されています。)に水質検査を実施する(水道法20条1項)法的な義務を負うほか、水質基準を超えた値が検出された場合には、原因究明を行い、基準を満たすために必要な措置を講じることが求められることになります(平成15年10月10日健水発第1010001号)。以下、PFASに関する国内の規制の概要と、水道水に含まれるPFAS濃度の基準の変更について説明します。

(2) 現在の規制の概要

 PFASに関する規制の概要

PFASは、元々自然界に存在しない人工的な物質であり、分解されにくく、環境中に残留・蓄積するという性質を有しているとされています。PFASの有害性について、国内では「人においてはコレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されてい」るが「どの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについては十分な知見はありません」とされており(環境省「PFOS、PFOAに関するQ&A集 2024年8月時点」において、)、科学的知見の蓄積を待っている状況にあります。国内においては、PFASのうち、特に有害性の強いPFOS、PFOA、およびPFHxSについて規制が進められており、PFASに関係する法令としては、環境基本法、化学物質の審査および製造等の規制に関する法律(化審法)、水道法、および水質汚濁防止法(水濁法)があります。

化審法では、PFOSは平成22(2010)年、PFOAは令和3(2021)年、PFHxSは令和6(2024)年にそれぞれ「第一種特定化学物質」に指定され、現在ではいずれも製造・輸入等が原則として禁止されています。

水濁法には、概要、①「有害物質」を含む汚水または廃液を排出する「特定施設」がある事業場(特定事業場)から公共用水に排出される汚染水(排出水)等に対する規制と、②特定事業場または「指定物質」を製造、貯蔵、使用、または処理する「指定施設」がある事業場(指定事業場)の事故発生時の対応等に関する規制があります。PFOSおよびPFOAは、水濁法上の「指定物質」に追加されたものの(令和5(2023)年2月1日施行)、上記①の規制の対象となる「有害物質」には含まれていないため、現在、排出水中のPFASの濃度に関する規制はありません。

その他、PFASに関する規制の詳細については、井上治・坂本慎之介「PFAS問題と不動産取引における実務的留意点」(牛島総合法律事務所 ニューズレター・2023年12月28日)、猿倉健司・加藤浩太「PFASとは? 法務向けにPFAS規制の近時の動向を解説」(Manegy・2024年11月8日)もご参照ください。

② 水道水の基準値

今回改正が検討されている水質基準に関する省令の上位の規範である水道法は、水道水の基準値として「水質基準」(水道法4条)を定めています。水道事業者等は、定期的に検査を実施し、水質基準を遵守することを義務づけられます。また、水質基準の他に、水質管理上留意すべき項目として「水質管理目標設定項目」、また、毒性評価が定まらない物質や、水道水中での検出実体が明らかでないため必要な情報・知見の収集に努めることとされる項目として「要検討項目」が定められています。これらの項目に設定される目標値は、法的な拘束力のある基準値と異なり、法的な拘束力はありません。

PFOSおよびPFOAについては、令和2(2020)年3月に、上記のうち「水質管理目標設定項目」として、暫定目標値(PFOSおよびPFOAの和として50 ng/L)が設定されました(令和2年3月30日薬生水発0330第1号)。また、PFHxSは、令和3(2021)年4月に、要検討項目へ位置付けられています。

(3) 予定されている改正の概要

PFOSおよびPFOAについて、現在の暫定目標値と同様にPFOSおよびPFOAの和として50 ng/Lを水質基準とすることが検討されています(「水道水におけるPFOS及びPFOAの取扱いの改正方針等について(案)」3-1(1)ウ(4頁))。他方で、PFHxSについては、引き続き要検討項目に位置づけ、PFHxSの水道水中における検出状況の把握に努めるとともに、リスク管理の方策に関する知見の蓄積を行うという方針が示されています(同3-2(1)(9頁))。なお、化審法上第一種特定化学物質に指定されていないPFASのうち、PFBS、PFBA、PFPeA、PFHxA、PFHpA、PFNA、およびGenXをPFAS類として要検討項目に位置づけることが検討されています(同3-2(2)イ(10頁))。

(4) 今後の動向・実務における留意点

水道水中のPFOSおよびPFOAの濃度が水質基準に格上げされるということから、国内でPFASの健康に与える影響が重く評価されており、今後PFASに関する規制が強化されていく傾向が見て取れます。水質基準にPFOSおよびPFOAが追加されることにより、水道水をPFASで汚染した事業者のほか、水道水以外であっても公共用水域や土壌におけるPFAS汚染の原因を作出した事業者は、不法行為責任等に基づき、法的な請求を受ける可能性が高まるのではないかと考えられます。既に多くのご相談を受けていますが、今後、PFASに関する法的な問題がより増加することが想定されます。 PFASの使用歴のあるメーカー企業等だけでなく、不動産の売買やM&Aにおいて土地や工場を取得する企業においても、事前調査(デューディリジェンス)の適切な実施、契約に免責条項を設ける等の法的な対策を講じておくことの重要性がより高まってきています。

9. 労働法:公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する罰則の制定

パートナー 山中 力介
スペシャル・カウンセル 柳田  忍

(1) はじめに

消費者庁において、令和6年5月から、公益通報者保護法(以下「本法」といいます。)の改正を見据えて公益通報者保護制度検討会(以下「本検討会」といいます。)が開催されていましたが、同年12月27日に本検討会が「公益通報者保護制度検討会報告書―制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて―」(以下「本報告書」といいます。)を公表し、消費者担当大臣は、本報告書を踏まえて本法の改正案を今年の通常国会に提出する考えを示しています。本報告書には、消費者庁の行政権限の強化、公益通報者の探索行為・妨害行為の禁止の明文化など、いくつかの提言が含まれていますが、これらのうち、公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する罰則の制定に関するものについて説明致します。

(2) 不利益取扱いに対する罰則の制定についての提言の概要

現状、本法において、公益通報を理由とする不利益な取扱いは禁止されています(本法5条各号等)。しかし、これらの禁止規定に違反して不利益な取扱いがなされた場合、公益通報者は、禁止規定違反を理由とした損害賠償請求等の事後的な救済を図ることが可能となるに留まるため、不利益な取扱いについて、依然として労働者が通報を躊躇する大きな要因となっている旨、及び、民事上の禁止規定のみでは抑止力として不十分である旨の指摘がなされてきました。このような指摘を受けて、本報告書は、禁止規定に違反した事業者及び個人に対して刑事罰を規定すべきである旨、また、刑事罰の対象となる不利益な取扱いは労働者に対する解雇と懲戒に限定し、不利益な取扱いのうち解雇と懲戒を除くものについて罰則の対象とするかについては更に検討する必要がある旨の見解を示しています。

公益通報を理由とする解雇や懲戒について罰則が規定された場合、公益通報をしたことを理由として労働者に対する解雇や懲戒がなされたときは、事業者のみならず、公益通報を理由として、または公益通報が理由であることを知って、これらの措置の意思決定に関与した個人も処罰対象となり得ることになります。さらに、当該意思決定に関与した個人のうち、当該意思決定に関する直接的な権限を有していない者についても、共犯として処罰対象となり得ることになります。

法定刑については今後検討されることになりますが、罰金刑については法人重課(両罰規定において、法人に対する罰金額の上限を違反の行為者よりも高くすること)を採用するべきであるという見解が示されています。

(3) 不利益取扱いに対する罰則が制定された場合の影響

公益通報を理由とする解雇や懲戒について罰則が規定された場合、公益通報が増加することが期待されます。ただ、同時に、自分が解雇や懲戒の検討対象となっていることを察知した労働者が、解雇や懲戒を免れるために公益通報を行うケースも増加するおそれがあります。

不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的による通報は「公益通報」には該当しませんので(本法2条1項本文)、解雇や懲戒を免れるためになされた通報は「不正の目的」によるものとして「公益通報」に該当しない可能性があります。しかし、通報が「不正の目的」でなされたことを立証することは容易ではないと考えられます。

このような「不正の目的」の疑いがある通報への対策としては、解雇や懲戒が公益通報を理由とするものではなく、当該対象者の勤務成績や勤務態度、非違行為等を理由とするものであることを説明できるような裏付けを確保すること、及び、「不正の目的」の疑いがある通報であっても、十分な調査を行って適切な対応をとることが重要になると考えられます。また、濫用的通報(※)により適正な内部通報対応が阻害されるのを防ぐために、例えば、就業規則等において不正の目的による通報を懲戒事由として定めたうえでこれを周知する等の対策も考えられます。

(※)本検討会において、濫用的通報に対する罰則の制定が議論されましたが、本報告書においては、消費者庁において実態を調査し、その結果を踏まえて対応を検討すべきであるという見解が示されるに留まっています。

当事務所では、外部通報窓口サービスも提供しておりますので(「改正公益通報者保護法準拠の匿名の外部通報窓口サービス(グローバル対応)」ご参照)、内部通報への対応等についてお困りでしたらご相談下さい。

10. 税務:組織再編成に係る行為計算否認規定の適用事案で納税者勝訴判決(PGM事件第一審判決)

オブ・カウンセル 荒関 哲也

(1) はじめに

東京地裁(民事第3部、篠田賢治裁判長)は、令和6年9月27日、ゴルフ場運営大手のPGMグループに対する組織再編成に係る行為計算否認規定(法人税法132条の2)の適用の是非を巡って争われていた事案において、納税者勝訴判決を下しました。事案は被合併法人からの繰越欠損金の引継ぎの可否に関するものです。

(2) 事案の概要

事案の概要は次のとおりです。PGMグループ内において2段階の合併が行われました。1つめは、休眠会社で、約57億8,000万円の欠損金額(以下「本件未処理欠損金額」といいます。)を有するA社(同グループ内のP社の100%子会社)を被合併法人、B社(同じくP社の100%子会社)を合併法人とする「完全支配関係適格合併」(以下「本件合併1」といいます。)です。2つめは、本件合併1と同日に行われたB社を被合併法人、原告(P社が99.99%の株式を保有するP社の子会社)を合併法人とする「支配関係適格合併」(以下「本件合併2」といいます。)です。

原告は、適格合併が行われた場合に適用される法人税法57条2項等の規定により、A社が有していた本件未処理欠損金額を引き継いだものとして法人税の確定申告を行いましたが、税務当局は、法人税法132条の2を適用して、その引継ぎを認めませんでした。

(3) 本件のポイント

本件におけるポイントの一つは、完全支配関係適格合併の場合にも、規定の文言にはない事業継続要件が必要とされるか否かという点です。本件と同様に被合併法人からの繰越欠損金の引継ぎが法人税法132条の2により否定され国の勝訴が確定したTPR事件の東京高裁判決(令和元年12月11日)では、組織再編税制の基本的な考え方等から、完全支配関係のある法人間の適格合併についても、被合併法人の事業の移転及び継続を要するとされていました。

本件でも、国税不服審判所は、上述のTPR事件判決を前提に、完全支配関係法人間の適格合併においても事業継続要件が必要との考え方から、休眠会社のA社が有していた本件未処理欠損金の引継ぎを認めませんでした。

これに対し、本件東京地裁判決は、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈したり拡張適用したりすべきではないと指摘の上、完全支配関係適格合併の場合において、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が法人税法57条2項等の適用の「前提」となっているとか、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続がない完全支配関係適格合併に上記規定を適用することはその本来の趣旨及び目的に反するなどと解することはできないとしました。

また、本件東京地裁判決は、PGMグループが本件組織再編を採用するに当たり本件未処理欠損金額の原告への引継ぎを重視したことは否定し難いとしたものの、そもそも、株式会社が一定規模以上の取引をするに当たり、税務上の影響を全く考慮しないことは考え難く、そのような考慮をすることはむしろ当然だとしました。

(4) 最後に

本件判決は組織再編成における税務の実務に大きな影響を与える可能性があります。本件判決の上訴審での行方が大いに注目されます。

11. 事業再生/倒産:「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を踏まえた事業者支援の徹底等について

パートナー 東山 敏丈
パートナー 川村 宜志
パートナー 猿倉 健司
パートナー 百田博太郎
アソシエイト 甲斐 成輝

(1) はじめに

令和6年11月28日、事業者支援の促進及び金融の円滑化について、政府当局者と金融関係団体等の代表者による、事業者支援の促進及び金融の円滑化に関する意見交換会が開催され、同日、政府は金融関係団体等に対し、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を踏まえた事業者支援の徹底等を要請しました。 以下では、政府の金融関係団体等に対する要請についての概要をご紹介いたします。

(2) 要請の概要

① 資金繰り支援

中小零細企業はもとより、中堅・大企業等も含めた事業者の業況を積極的に把握し、引き続き事業者に寄り添った支援を徹底し、融資判断に当たっては、事業の特性、各種支援施策の実施見込み等も踏まえ、経営改善につながるよう丁寧かつ親身に対応すること。

② 条件変更、借換え

既往債務の条件変更や借換え等について、引き続き事業者に寄り添った迅速かつ柔軟な対応を継続し、金利見直しの協議に際しては、事業者の実情を踏まえ、必要に応じて適切な返済計画のアドバイスを行うこと、及び、事業者の実情に応じて各種施策を活用し返済負担の軽減を図ること。

③ 自然災害の被災者等の支援

能登半島地震などの自然災害や新型コロナウイルス感染症の影響により、住宅ローン等の既往債務の弁済が困難となった個人の生活や個人事業主の事業の再建に向け、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の活用など、被災者らに寄り添った支援に努めること。能登半島地震の発生や「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発出を踏まえ、事業継続計画(BCP)の点検や見直しなどの災害時への備えを実施すること。

④ 経営支援

物価高や人手不足への対応等、事業者の経営課題の多様化を踏まえつつ、資金繰り支援に留まらない事業者の実情に応じた経営改善、事業再生支援、再チャレンジ支援等に早め早めに取り組み、その際には各種ガイドラインや各種機関の施策等を活用すること、及び、売上や収益を向上させ持続的な成長軌道に乗るための支援が必要な事業者等に対しては、資金繰り支援とともに経営力強化に向けた支援を継続・強化するように努めること。

⑤ 経営者保証

経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けて、「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進について」及び「経営者保証改革プログラム」の趣旨等について、引き続き、浸透・定着を図ること。また、民間金融機関においては、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等を踏まえ、引き続き、M&A・事業承継など主たる株主等が変更になることを金融機関が把握した場合には、経営者保証の解除に向けた見直し及び事業者等への説明を着実に実施すること。加えて、「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進について」や「経営者保証改革プログラム」に基づく取組が金融機関や事業者の着実な行動変容につながっていることを踏まえ、既往の経営者保証契約について、事業者からの問い合わせや、事業者に対する定期的な業況確認の機会等も活用しながら、対応可能な範囲で、監督指針に沿った説明や記録を行うこと。

⑥ 他の金融機関や支援機関との連携

自身のメイン先である事業者のみならず、コロナ禍において実質無利子・無担保融資により新たに取引先となった事業者や融資シェアが低下した事業者等に対しても支援がおろそかにならないよう、他の金融機関や支援機関等と早期から密接に連携し、事業者に寄り添った継続的な伴走支援に努めること。また、今後、プロパー融資と信用保証付融資とを組み合わせた協調融資制度を新たに措置する予定であり、事業者のニーズに応じて当該制度を積極的に活用することにより、事業者の多岐にわたる経営課題に対応した資金需要に着実に応えること。

⑦ 住宅ローン

住宅ローンやその他の個人ローンについて、丁寧な相談対応や顧客の状況、ニーズに応じた返済猶予等の条件変更の迅速かつ柔軟な対応を行い、生活・暮らしの支援に努めること。

⑧ 手形等のサイト短縮に取り組む事業者への支援

令和6年11月から下請法における手形等のサイト短縮に係る新たな指導基準の運用が開始されたが、手形等のサイトの短縮はサプライチェーン全体で取り組むことが重要であることを踏まえ、同法の対象とならない取引も含め、手形等のサイトの短縮に取り組む事業者に対しきめ細かな資金繰り支援に努めること。

⑨ ALPS処理水放出の影響を受けた事業者の支援

ALPS処理水の海洋放出に伴う輸出先の国又は地域における水産物の輸入規制措置等の影響を受けて経営等に支障を来している輸出業者や水産加工業者、卸売業者等の事業者については、より一層のきめ細やかな資金繰り支援を徹底すべく、民間金融機関及び信用保証協会においては令和7年2月23日まで申込期限が延長された「セーフティネット保証2号」等の活用を、日本政策金融公庫等においては「セーフティネット貸付」等の活用を、それぞれ事業者の実情に応じて積極的に促進すること。

(3) 実務への影響

今般の政府の金融関係団体等に対する要請は、経営者保証を含め上記とおり多岐にわたるうえ、各種ガイドライン等の参照や施策等の積極的な活用を求める内容になっております。中小企業の事業再生等における関係者(債務者・債権者・実務専門家等)におかれましては、それぞれの事業者や場面に応じて、上記ガイドラインや施策等を網羅的に調査し、専門家からの助言も受けながら適時適切な対応を行うことがより一層求められているものと考えられます。

12. IT/個人情報/知的財産:各国(日本、中国、EU)におけるデータプライバシー/セキュリティ関連法令の立法動向

パートナー 影島 広泰
パートナー 小坂 光矢
アソシエイト 加藤 浩太

(1) 【国内】:個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会報告書の公表

個人情報保護委員会が、2024年12月25日に「個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会報告書」を公表しました。

本報告書では、課徴金制度や団体による差止請求制度及び被害回復制度等に関して、個人情報保護法改正の方向性(例えば、課徴金納付命令の対象を、対象行為、違反者の主観的要素、個人の権利利益の侵害の有無や違反行為の規模等の観点から限定すること)が示されており、今後、いわゆる3年ごと見直しの下、2025年6月頃までに、本報告書の内容を含む内容の改正法が成立する可能性があります。

なお、詳細については、U&Pニューズレター「個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会報告書(案)の公表」(中井杏)をご参照ください。また、個人情報保護法改正の動向については、引き続きニューズレターやリーガルセミナー等において配信して参ります。

(2) 【中国】:「個人情報の国外移転に関する個人情報保護認証弁法」パブリックコメント案の公表

中国国家インターネット情報弁公室(CAC)が、2025年1月3日に個人情報の国外移転に関する個人情報保護認証弁法(个人信息出境个人信息保护认证办法(征求意见稿))のパブリックコメント案を公表しました。

同弁法案は、中国個人情報保護法(以下「中国個情法」といいます。)に基づく個人情報の国外移転の適法化根拠の一つである、「個人情報保護認証」(中国個情法38条2項)に関して、その要件や手続等を規定するものです。そのため、「個人情報越境標準契約」(中国版SCC。中国個情法38条3項)に基づいて国外移転を行っている事業者との関係では、大きなインパクトが生じる可能性は低いと考えられます。

なお、中国からの個人情報及び重要データの国外移転に関しては、特集記事「中国の個人情報保護法(データ3法)の下での国外移転の実務(前編:制度概要)」、「中国の個人情報保護法(データ3法)の下での国外移転の実務(後編:実務対応)」及び「『重要データ』の中国からの越境移転」もあわせてご参照ください。

(3) 【EU】:サイバーレジリエンス法の発効

2024年12月10日、サイバーレジリエンス法(Cyber Resilience Act。以下「CRA」といいます。)が発効しました。

CRAは、EU市場に上市される外部との接続を予定したデジタル製品の①製造業者(manufacturer)、②輸入業者(importer)、及び③流通業者(distributor)を主たる適用対象としています。EU域内に所在していない事業者であっても、対象製品がEU市場との関わりを有する場合には適用対象となるため、注意が必要です。

法律全体の施行日は2027年12月11日(製造業者における脆弱性やインシデントに関する当局への報告義務やユーザへの通知義務等を定めた14条は2026年9月11日から適用が開始)ですが、対象となるデジタル製品の製造業者は、適合性評価等を通じて、製造する対象製品がCRAの求めるセキュリティ要件を満たしていることを証明しておく等の必要があることから、将来的にEU市場への上市を予定している製品の製造事業者においては、早期から対応しておく必要があります。CRAに違反した場合、最大で1500万ユーロ、又は直前の会計年度における世界全体における総売上高の2.5%のいずれか高い金額という高額の制裁金の対象となることにも注意が必要です。

なお、CRAの詳細については、特集記事「EU サイバーレジリエンス法(CRA)の概要」をご参照ください。

13. 国際業務:輸出管理に関するアメリカの動向(続報)

パートナー 山内 大将
パートナー 薬師寺 怜
パートナー 辻  晃平

昨今の米中対立やロシアのウクライナ侵攻を受けて経済安全保障の重要性が高まっており、特にアメリカの輸出規制は、アメリカからの輸出だけではなくアメリカ原産貨物や技術が日本から再び輸出される場合にも適用があるため、これまでのClient Alertにおいても輸出管理に関するアメリカの動向についてお伝えしてきました(※1、※2、※3)。今回は、その続報として、昨年10月から12月にかけて米国商務省産業安全保障局(BIS)が発表した輸出管理規則(EAR)の改正についてお伝えします。

(※1)https://www.ushijima-law.gr.jp/client-alert_seminar/client-alert/20221216/
(※2)https://www.ushijima-law.gr.jp/client-alert_seminar/client-alert/client-alert-20230810/
(※3)https://www.ushijima-law.gr.jp/client-alert_seminar/client-alert/client-alert-20241007/

(1) 26個の事業体のエンティティリストへの追加(2024年10月21日)

BISは、26個の事業体を、輸出規制違反、懸念される兵器計画への関与、ロシアとイランに対する制裁及び輸出規制の回避の疑いがあるとして、エンティティリストに追加する旨を公表しました。

(2) 40個の事業体のエンティティリストへの追加等(20241030日)

BISは、40個の事業体とBISの規制に違反するリスクのある活動を行う事業体に関連する4つの住所をエンティティリストに追加するとともに、ロシアのために米国ブランドのマイクロエレクトロニクス分野の製品等を調達していた49個の事業体(エンティティリストに掲載済)に対する制限を強化する旨を公表しました。また、BISは、特定の化学兵器及び暴動鎮圧剤の製造に使用可能な9種類の化学物質に対する規制を追加しました。

(3) 対中国の輸出規制強化(2024122日)

BISは、中国軍を支援する先進的な半導体等の中国国内での生産を妨害することを目的とした新たな最終規則及び暫定最終規則(※4)を採択したと発表しました。

(※4)当局が、通常実施される規則案の公表手続を経ることなく最終規則を発効する正当な理由があると判断した場合、当該規則はしばしば「暫定最終規則」と呼ばれます。暫定最終規則は公表と同時に発効しますが、ほとんどの場合、暫定最終規則にはパブリックコメント手続を踏まえて必要に応じて暫定最終規則を変更する旨の規定が含まれます。当局がパブリックコメント手続を踏まえても暫定最終規則を変更しないことを決定した場合には、最終規則として再度公表されます。

これらの新たな規則の主なポイントは以下のとおりです。

① 最終規則

中国、日本、韓国、シンガポールを仕向地とする先端ノード集積回路や半導体製造装置の開発及び製造に関与する140個の事業体をエンティティリストに追加する。

② 暫定最終規則

・中国が先端ノード集積回路を製造できるような自国で完結する半導体エコシステムを構築することを妨害するために、半導体製造装置(SME)及びこれに関連する製品について輸出規制を強化する。

・外国で製造されたが、米国の技術、ソフトウェア、またはツールを使用して製造された特定の半導体製造装置(SME)及び米国の技術、ソフトウェア、またはツールなしでは製造できない集積回路のような重要部品を含む半導体製造装置(SME)を輸出規制の対象にする。

・高度な人工知能モデルやスーパーコンピューティングアプリケーションに必要なメモリ容量と帯域幅を提供する特定の高帯域幅メモリ(HBM)商品について輸出規制を強化する。

(4) 8個の事業体のエンティティリストへの追加(20241210日)

BISは、8個の事業体を、人権侵害を可能にすることで米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する行為を行ったとして、エンティティリストに追加する旨を公表しました。

このように、米国の輸出管理規制は日々更新されるため、日本企業においては引き続き最新の規制状況について把握することが重要です。

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